Chicago Shimpo
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浅野裕太氏(Ph.D. Student at University of Chicago)


抗体とB細胞(イメージ:浅野氏プレゼンより)
第11回若手研究者発表会(2)
免疫ってなに? 抗体ってなに?


第11回若手研究者発表会で、浅野裕太氏(Ph.D. Student at University of Chicago)が「抗体の働くしくみ」について説明してくれた。

 免疫の存在意義は、身体の普通の状態を保つこと。呼吸をするだけで何千、何万もの細菌やウィスルが出たり入ったりしている。身体にとって危険なものを自分の身体と区別して、何らかの対処をする、それが免疫の仕事だという。そして、身体を護るための武器が抗体というもの。

 抗体はB細胞という特殊な細胞によって作られ、Y字型をしている。細菌やウィルスが入って来ると、抗体がそれに貼り付いて取り囲む。すると抗体が取り囲んだものが目印になって他の免疫細胞が集まり、それをやっつける。外から体内に入って来たものを認識するというのが抗体の役割であり、機能となっている。

抗体の大事な特徴の一つに特異性がある。一つのB細胞は一種類の抗体しか作ることができず、特定のものしか認識出来ない。細菌に対する抗体はウィルスに貼り付くことはできず、ウィルスに対する抗体は細菌に貼り付くことはできない。
また、抗体は一種類の細菌だけに貼り付き、他の種類の細菌に貼り付くことはできない。つまり、細菌やウィルスの種類の数だけ抗体の種類が必要だという事になる。ここで問題になるのは、抗体を作る遺伝子は1個しかないということ。

 どうやっていろいろな種類の抗体を作って、いろいろな敵に対応しているのか?答えはB細胞。
B細胞が自分で遺伝子組み換えを起こし、いろいろなバリエーションを作っている。抗体を作る遺伝子にはV・D・Jという3つの領域があり、それぞれの中に何個かのセグメントがある。B細胞は各領域の中からセグメントを選んでくっつけ、新しい遺伝子を作っている。
セグメントの選び方や組み合わせ方はランダムに決まる。また、くっつける時に突然変異がランダムに入る。こうしてそれぞれのB細胞が違う抗体を作ることができる。浅野氏は「だから理論上はほぼ無限に近い種類の抗体を作ることができる。(我々は)それで敵と戦っている」と語る。
このメカニズムは利根川進氏が発見し、1987年にノーベル医学生理学賞を受賞している。

抗体の利用法①-抗がん剤

 癌はもともと自分の体から出来ている。だから癌だけをターゲットにして薬を作るのは非常に難しいという。
癌は速いスピードで増殖して行くので、今までの抗がん剤は増殖している細胞をターゲットにして作られている。しかし、消化管の表皮や髪の毛を作る細胞も速く増殖しているので、薬の副作用として髪が抜けたり、吐血したりする。
がん細胞には突然変異が入っているので、他の細胞が出していないタンパク質を出していることがある。抗体の特定のものだけに貼り付くという特徴を利用すると、そのタンパク質を狙い撃ちにすることができる。これが抗体医薬と呼ばれるもの。

 一番有名な抗体医薬が乳がんの治療に使われるHerceptin。一部の乳がんの患者からは「HER2」という特別なタンパク質が多く出ており、それに対して抗体を作ってやれば他の免疫細胞が癌に集まって来て、がん細胞を殺してくれるというようにデザインされた薬。
HER2が出ている患者は短期で亡くなるが、抗体医薬Herceptinの投与により、従来の薬に比べて再発が半分に、3年半後の生存率も約90%になったという。
Herceptinは1998年にFDAで認可された世界初の抗体医薬。良く効いたことから「Living proof」という映画も制作された。

抗体の利用法②-Imaging
(可視化)

 特定のタンパク質が細胞の中のどこにあるかを見る場合、各々のタンパク質に対する抗体に予め色を付けておき各々のタンパク質に貼り付かせれば、特定のタンパク質を色で見ることができる。この方法は研究で広く使われているという。

例えば、腸管の表皮は粘膜で満たされている。ぬるぬるしているのはオクラや里芋、納豆と同じムチンの働きによるもの。この粘膜が腸の細胞と細菌が接触しないようにバリアの役目を果たしている。このような様子も抗体利用による色付けによって見ることができる。

抗体が悪さをする場合

免疫は自分の身体と違うものを認識するが、違うものと悪いものは同じではない。食べ物や花粉など無害なものに対しても免疫が働いてしまうことがある。これがアレルギーと言われるもの。
アレルギーにも抗体が関わっている。B細胞が間違えて、食べ物や花粉に対して抗体を出すことがある。この抗体を粘膜などの所にいる「マスト細胞」という特別な細胞がキャッチし、そこに花粉などの抗原が新しく入るとマスト細胞が活性化されてヒスタミンなどがどっと出る。ヒスタミンはくしゃみや鼻水、涙を誘発する。これがアレルギーのメカニズムだという。

自己免疫疾患

B細胞は遺伝子のランダムな組み換えによって抗体を作るが、何に対して抗体を作っているのか分からない。間違って自分の身体に対して抗体を作るB細胞もある。
自分に対して危ないB細胞はしっかりとコントロールされているが、コントロールされずに活性化された場合は病気になる。免疫システムが自分の身体を敵と間違えて攻撃する病気を自己免疫疾患という。
これには膠原病、関節リュウマチ、痩せている人がなる糖尿病(インスリンを出す細胞を免疫が攻撃する)バセドウ病、その他いろいろある。

 B細胞など自分の身体を認識する細胞は頻繁に身体の中に生まれていて、健康な人でも採血して調べてみると、B細胞の20%は自分に対して攻撃できる性質を持っている。かなり微妙なバランスで保たれているという。

自己免疫疾患の中でもSLEと呼ばれているものがあり、体の中の多くの臓器が免疫細胞によって攻撃を受ける。浅野氏のラボでは特に腎臓、ルーパス腎炎(Lupus nephritis)を研究している。
ルーパス腎炎はSLE患者の中でも発症率が高く、約半分の患者が5年以内に腎不全となる。しかし、治療法はこの30年から40年間変わっていないという。
浅野氏のラボでは患者一人一人の正しい診断と治療法の確立を目指して研究を続けている。免疫細胞が何をターゲットに抗体を作っているのかも解明されつつあるという