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JETROエネルギーセミナー:
米国エネルギー産業を取り巻く市場・政策動向

• JETROシカゴの石油セクション・ディレクター長尾正基氏を講師に迎え、エネルギー・セミナーが7月26日、JCCC事務局ビルに隣接するPresidents Plazaで開催された。内容は、①北米のエネルギー需要動向、②インフラ動向、③石油業界動向、④政策およびトピックス、特に規制動向。

北米のエネルギー需要動向

● 2040年の1次エネルギーの需要見通し:
• 世界、米国とも石油とガスの需要が高く、前者は50%超、後者は60%超を占める。石油・ガスに続くものは、世界では石炭が25%超、再生エネルギー、原子力。米国では再生エネルギー、石炭、原子力の順となる。

● GDP増加に対する1次エネルギーの需要見通し:
• 欧米では横ばいから減少傾向にある。これは、欧米のGDPにおける製造業の割合が他国に比べて低いのが理由。2014年の製造業のGDP比は米国12.4%、欧州15.3%、日本18.7%、中国30.1%(2013年)

● IEA発表による世界石油生産の長期見通し:
• 2040年の生産予測で増加の主力は中東、その他では中南米。
• 石油のタイプ別に見ると、主力となるのは中東で産出される在来型のクルードオイルだが、微減傾向にある。一方、非従来型の米国のシェールオイル、カナダのオイルサンドなどが増加すると予測されている。

● 原油確認埋蔵量とシェール層の分布:
• 米国の確認埋蔵量(90%の確率で商業的に採算が取れるだろうという埋蔵量)はシェール革命によって急増している。2014年は前年比で9%増。現状では約400億バレルという膨大な原油を保有している。シェールオイルの埋蔵値地はBakken, Niobrara, Permian, Eagle Ford の4つが有名。

● 米国エネルギー消費の見通し:
• EIAの長期見通しは、オバマ大統領が気候変更対策のために特に火力石炭発電所に厳しい規制をかけているクリーン・パワー・プラン政策実施の是非によって異なる。
• 政策が実施されれば石炭消費は2015年の16%から2040年は10%に、実施されなければ14%になると予測される。実施の場合は天然ガス、再生エネルギーの割合が増える。

• 輸送部門(ガソリン、軽油、ジェット燃料など)消費見通しでは2017年にピークを迎え、その後は下降線をたどり2040年には2015年比で1.3%減となる見込み。
● 原油価格:
• 2014年後半から急落し、現在は1バレル当たり40ドル台。参考として、原油価格を左右する主要因は「地政学」「需給関係」「先物としてのプレミアム」。

• 2015年末の米国原油輸出解禁もあり、Brent(国際価格)とWTI(米国内価格)の差がほぼゼロに。この差により米国は石油製品輸出で優位に立っていたが、今はそれがなくなっている。

● 米国のオイルリグ数の推移:
• シェールオイルの生産量に直結するリグ数(掘削機械の稼働率)は、2014年10月のピーク以来急減。ただ、今年7月から増加傾向にあり活発化の兆しが見られる。

● 米国原油生産量見通し:
• 2015年4月の生産量960万バレルをピークをに減少傾向にある。長期的には2017年を底に増加すると予想されている。これはシェールオイル増加のため。

● 米国原油輸入:
• 米国は生産量とほぼ同等の約800万バレルの原油を輸入している。特にカナダからの輸入が非常に増えている。一方、米国内シェールオイルとの置換でメキシコやナイジェリアからの軽質原油の輸入は減っている。

● 米国の製油所の精製能力:
• 米国精製能力の約50%の950万バレル/日がメキシコ湾岸に集中している。2番目に大きいのはイリノイ州を含むPADD2エリア。精製能力は増加しており、2000年の1,660万バレル/日から2016年7月1日は1,831万バレル/日となっている。稼働率も7月15日時点で93%を超え堅調に推移している。
• 一方、ガソリンなどの製品出荷は好調だが、在庫も増えてきている。

● 米国石油製品の輸出:
• 多くの製品は増加傾向にある。今後は原油輸出解禁、内需、外需、海外製油所の建設・稼働が変動要因になると見られる。
• 製品別に見ると、2015年のLPGの輸出は前年比46%増で、特に中国向けが伸びた。ガソリンの輸出は過半数をメキシコが占める。中間留分は欧州と中南米が大半を占める。

● カナダ産原油生産見通し:
• カナダも原油安の影響を受け厳しい状況が続いている。投資も2014年の810億ドルから2016年は310億ドルと500億ドル減っている。今年の生産量は昨年よりも減少しているものの、基本的には増加して行くと言われている。

● カナダ原油の米国への輸出見通し:
• イリノイ州を含むPADD2エリアは、半分以上がカナダからの輸入でまかなわれている。この地域にはカナダからの多くのパイプラインが通っている。また、カナダ原油価格は米国価格より1バレル当たり10ドル以上安く、PADD2はそれらの恩恵にあずかっている。この地域の生産量は2015年の186万バレル/日から2020年は215万バレル/日と増加する見通し。
• 太平洋岸向けのパイプラインの建設が進んでいないが、これが完成すれば日本向けの輸出も可能になる。

● メキシコの現状:
• 埋蔵地の探索に投資して来たが、確認埋蔵量は増えなかった。ディープ・ウォーターが有望視されているが技術がないため、海外投資を求めている。
• 燃料需要は増加しているが国内生産が追いつかず、輸入が増えている。シェール革命後、米国からのシェールガスの輸出が大きく伸びている。今後はパイプラインも増加し、米国のシェールガスはメキシコに流れると言われている。

インフラ

● パイプライン:
• 特にカギとなるパイプラインは3つ。一つはカナダのオイルサンドを太平洋・メキシコ湾岸・カナダ東部に輸送するパイプライン。2つ目は米国最大の原油ターミナルのクッシングを巡るパイプライン。3つ目はパーミアン原油をメキシコ湾岸製油所に輸送するパイプライン。オイルサンドを運ぶキーストン・エクセルの建設はオバマ大統領が拒否権を行使、他のパイプラインを使ってメキシコ湾岸に輸送されている。環境問題意識の高まりからパイプライン建設への訴訟が今後の懸念材料となっている。

● 原油鉄道輸送:
• シェールを運ぶ需要増加のため2011年から2014年にかけて約10倍増加したが、原油安でシェールの生産が落ち、2015年には急減した。

石油業界動向

● 米国石油業界の動向:
• エクソン・モービル、シェブロン、シェル、BPの純損益を並べると、現在は苦戦しているのが分かる。その中ではエクソンが好調で一度も赤字が出ていない。しかし、4社とも投資を削減している。

● 米国石油業界(上流部門)純損益推移:
• 石油を生産する部門を持っている会社の推移を見ると非常に苦戦している。2016年投資計画は前年比大幅減。2015年からはどこも赤字となっている。

● 米国石油業界(サービス部門)純損益推移:
• 掘削サービスを行う会社の御三家(Schlumberger, Halliburton, Baker Hughes)は非常に厳しい状況。ハリバートン、バーカーヒューズは2015年からすべて赤字に。2014年後半より約1万から4万人規模の人員削減を行っている。

● 米国石油業界(下流部門)純損益推移:
• 石油精製部門は唯一好調だが、2016年第1・四半期は利益が縮小した。石油製品の輸出を検討している。

政策・規制動向

● オバマ大統領の気候変動対策:
• 温室効果ガス削減計画の中で火力発電所からの二酸化炭素排出削減を打ち出している。計画・実行は州政府に任されており、石炭生産地を持つ州は反対している。クリーン・パワー・プラン差し止め訴訟を起こした州もあり、連邦最高裁は今年2月に差し止めを認めた。裁判所の審議が続く限り規制は延期され、次期大統領に持ち越される可能性が高い。

● エネルギー省のエネルギー政策:
• 米エネルギー省は4年に1度政策(QER)を見直しており、今回はインフラに注目している。自然災害発生時に、いかに速やかにエネルギー供給を行うかがポイントになっている。
• 問題が大きかったのは天然ガスのパイプラインで、供給インフラ改善の必要性が提案されている。
• また、戦略備蓄(Strategic Petroleum Reserve)のあり方も挙がっている。メキシコ湾岸に偏って備蓄されている石油を、有事に米国全土に流すパイプラインが重要になってくる。しかし、シェールオイルの輸送のため、メキシコ湾岸から内陸に向かっていたパイプラインの多くが逆走を始めている。また、シェールの埋蔵量が多いことから、適正備蓄量の議論も行われている。

● エネルギー関連の主な環境規制:
• これはたくさんあるが、次期大統領次第で変わることもある。
• 身近なところではガソリンへのエタノール混合がある。元々はバイオ燃料導入によるエネルギー安全保障だっがた、原油供給環境は規制発足時の2007年とは大きく変わっている。現在はガソリン需要停滞とエタノール10%混合の壁により、義務量設定が困難になっている。
• 2000年以前の自動車はエタノールを10%以上混合すると故障が起きた。2001年以降の自動車はエタノールを15%まで混合できるが、10%以上の混合ガソリンの普及は進んでいない。全米には約15万軒のガソリンスタンドがあるが、その95%がエタノール10%混合ガソリンを売っている。15%混合ガソリンを売るスタンドは180軒で、85%混合ガソリンを売る店は約3,000軒。
• エタノール混合料は下方修正方向に向かっており、義務量設定が遅れ気味になっている。一方、エタノールは2015年義務量を超える148億ガロンが生産されており、世界生産量の58%を占める。生産者は輸出に注目しており、中国への輸出が伸びている。


JETROシカゴの石油セクション・ディレクター長尾正基氏