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何気なく書いたメールが高額の罰金に
学ぼう、
訴訟に耐えうるメールの書き方

山本真理弁護士講演会

• 山本真理弁護士を講師に迎え、法務セミナー「訴訟に耐えうる社内文書、メールの書き方と契約書戦略」が3月7日、JCCC事務局に隣接するプレジデンツ・プラザで開催された。主催したのはJETROシカゴ。
• 山本弁護士は訴訟社会の米国で、訴訟になった時のことを考えて文書やメールを書く心構えと具体策について語った。

• 「訴訟文化」の米国では、企業も訴訟に対する意識が高い。文書は必要時のみに作成し口頭で済ませることが多い。また、文書の書き方の研修を行い、必要に応じて社員のメールや電話を監査している。
• 一方、日本ではホウレンソウ文化があり、議事録などの書類を配布して共有化を図るのが一般的。文書作成指導は余り行われず、文書のチェックもなされていない。
• この様な日本企業の訴訟に対する意識の違いから、報告書が思わぬ証拠となる事がある。

アメリカの訴訟の特徴

・ 米国には原告側・被告側双方が証拠を開示し合う、ディスカバリーというプロセスがある。ここに一番コストをかけ、エネルギーが注ぎ込まれる。原告側が要求して来る案件に関するメールはギガバイトの容量となる。社員のパソコンや本社のサーバーから既に消去したメールも復元させられる。
・ 米国には成功報酬で原告の弁護を専門に引き受ける弁護士が沢山いる。そして、原告の証拠漁り文化がある。
・ 裁判での有罪・無罪は陪審員が決める。陪審員は一般市民からランダムに選ばれる人達で、日本企業で従業員が負傷したとなれば、日本企業とケガをしたコミュニティの人々との対決になることもあり、同情や偏見が入ることは否めない。
・ 米国には懲罰的損害賠償(ペナルティ)があり、原告の悪意が証明されれば「懲らしめ」としてのペナルティが科せられる。
・ 米国の示談率は97%で、和解金で決着する。裏を返せば訴えた方が得。だからこそ訴えられないような書類の書き方を知ることが非常に重要だと山本弁護士は語る。

2年前に書いた自分のメモが訴訟の証拠に?
PL(製造物責任)訴訟の例

• 安全機械工業(仮名)が新プレス機を開発し、シカゴの展示会に出展、オールアメリカン社が購入した。その後1年足らずのうちに作業員が事故で負傷、手の神経が切れた。
• 日本から開発関係者が事故現場に急行し、社内事故報告書を書いた。事故から約1年半後に負傷した作業員が安全機械工業を相手に訴訟を起こした。

• この時に証拠として使われたのが、新プレス機に関する社内メモや事故報告書だった。
• 前者の社内メモには「問題」「危険」「欠陥」という言葉を使っていた。これは製品が危険であることを知っていたことを暗示することになる。また、問題の可能性について「今後検査する必要性があるが、見本市での発表を急いでいると聞いている」という文章が、安全性よりも利益を優先したという印象を与える。さらに、検査を放置し、安全性を軽視していたとの暗示になった。

• 後者の事故報告書には「プレス機の誤作動により」、作業員が「大怪我を負った」、「ミサイルのような勢いで鋼材が飛んで来た」、「頭や身体に当たっていればもっと深刻な事故に」などショッキングな言葉が使われていた。この報告書を書いた人物は事故を目撃しておらず、これらの言葉は憶測で書かれている。
• 一番問題なのは、調査が始まったばかりで原因が特定できていない状態で「大変危険な状況であり、コストはかなりかかるが早急に機械の設計を変更し改善すべき」と断定し、欠陥を認めるような書きぶりになっていること。また、変更・改善という提案をしたままで、提案がオープンエンドになっていること。

• 山本氏は訴訟を防御する書き方として、「事実」「推測」「意見」を区別することだとアドバイスした。まず事実を書くこと。人に聞いた話であれば「聞いたところでは・・・」と事実と伝聞をはっきりさせる。分かっていない状況を憶測で書かないことが重要となる。

• この事故の調査が進むと、プレス機はドアが開いた状態では作動しないプロテクションが何重にもかけてあったが、ケガをした作業員はドアに木片を挟めば開けたままでも機械が動くと誰かから聞き、ノルマに遅れがちな自分の作業を早くするために、ドアを開けたままで仕事をしていた。プレス機の設計過失ではなかった。
• しかし、「早急に機械の設計を変更し改善すべき」という報告書が欠陥を認める証拠として出て来たら、陪審員はどちらを信じるだろうか?
• 結局、この訴訟は示談となった。作業員に約40%の落ち度があったという判断になり、当初請求額の10分の1の200万ドルで決着した。

何気なく書いたメールの代償は大きい
一度送ったメールは永久に残ると思え!

• たった一つのメールが高額なペナルティになる。
• ある会社のCEOがCFOに「すべてのメールを消せ」と指示したメールがディスカバリーで見つかり、3,000万ドルのペナルティを科せられた事例がある。
• 「子会社の営業は若返りをはかるべき。40歳前後でかためろ」。これに似たようなメールはよくありそうだが、この件は訴訟になり示談金200万ドルの支払いとなった。
• また、日本的な言い方が、米国型訴訟では仇になることを考えておく。「被害者に対して申し訳ない」「企業の責任は当然取る」というような日本的な表現は、米国の訴訟では通じない。

• メールに危険な言葉は「危険」「不良品」「読後破棄」「隠蔽」「ライアビリティ」など、いろいろと存在する。この様な言葉がディスカバリーで、まず検索にかけられる。
• 曖昧な玉虫色の言葉には気を付ける。英語に翻訳すると、最初の意味が変わってくる。

• メールを書いた後は直ぐに送信せずに、時間をおく。手洗いに立つのも悪くないアイディア。送信前に読み返して訴訟になった時にどの様に解釈されるか考えてみる。
• メールを転送する時は、スクロールしてメールの全部を見て、不必要なものがないか確認する。ccで送る人を増やさないように見直す。メールではなく電話にすべき内容かどうかを考える。
• メールはいつかは訴訟で使われるという認識で書き、一度送信すれば永遠に消えないという自覚を持つことが訴訟を防御するために非常に重要になる


山本真理弁護士