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化学物質って何?
興味津々、第13回若手研究者発表会

「ナノサイズの裁縫」

• シカゴ大学博士課程の学生・塚本翔大氏は「ナノサイズの裁縫」と題して、薬など有機化合物をどの様に効率的に作るか、もしくは新しい物質をどの様に作っていくかという研究について話した。

• 我々は化学物質に囲まれていると言っても過言ではない。起床すれば洗顔、歯磨き、シャワーで石けんやシャンプー、その後に身体に塗るローションなど、いろいろな化学物質に生活を支えられている。病気をすれば薬を飲む。薬の成分が体内で作用することによって、熱や頭痛を抑えてくれる。
• 塚本氏の研究は、こういった化学物質を自分達の思い通りに作り上げていこうという分野だという。

• ニキビケアに使われるサリチル酸、頭痛薬のアスピリン、清涼感のあるメントールなどの化学構造式は割とシンプルだが、抗がん剤で有名なタキソールはずいぶん複雑になる。
• タキソールは木の皮から抽出したものから見つかり、強い抗がん性があることが分かった。しかし、木を何トンも伐採して得られるタキソールは僅か数ミリグラム。例えばこれをフラスコの中で化学物質を混ぜ合わせて合成できないだろうか。
• 構造が複雑であればあるほど多くのプロセスが必要となる。このプロセスを短くして効率的に目的の化合物を作れないだろうか。これが塚本氏の研究の一大目標。

• 化学物質を合成する時に、複雑なものは一回の化学反応では作れないので10回、20回と化学反応を繰り返して目的物にたどり着く。
• 例えば100gの出発原料でスタートし、1回目の化学反応で90gの化合物が得られたとすると収率は90%。これを10回繰り返すと、得られる化合物は30gから40gとなる。収率80%だと、10回繰り返せば10%ほどの化合物しか得られない。比較的高収率でも繰り返せば繰り返すほど得られる目的物は少なくなる。
• これを克服するには、いくつかの化学反応が1回の反応工程で起きるように工夫し、目的物質にたどり着くまでの行程を減らすこと。

• 有機化学分野には大別して3つの化学反応がある。図Iのように、赤丸と青丸の化合物を作る場合を想定すると:

• 付加反応:
• 赤丸と青丸を単純にくっつけて新しい化合物を作る。

• 脱離反応:
• 赤丸・青丸・白丸の化合物から、白丸を取り去って赤丸と青丸の化合物を作る。

• 置換反応:
• 人が手を繋ぐ形と考えると分かり易い。青い人と赤い人が手を繋ぎながら、青い人は白い人と手を放す。2つの反応が同時に起き、青と赤の間で化学結合が生じて目的の赤丸と青丸の化学物質が得られる。

• 3つの反応のうち、2と3は白丸がゴミとして出てしまうので、環境面などから余り好ましくないと考えられ、付加反応で目的物を得ようという流れになっている。

従来型の反応

• 白丸が2つ繋がった物質に、2つ繋がっている黒丸をバラバラにして、白丸に黒丸を一つずつくっつけた目的物を作る場合、2つ繋がっている黒丸の結合が切るのが難しいと長い工程を経て目的物に到達することになる。すると、前記の通り、得られる目的物は少量になってしまう。

• そこで、塚本氏達は、今まで切れなかった化学結合を切る「裁縫反応」を研究している。切りづらかった化学結合をハサミの様な物で切り、反応性の高い化学種を一時的に発生させ、この化学種をくっつけたい物との間に縫い付けるように化学結合を作ってやると、直接的に目標物質を得ることができる(図III)。
• ハサミを上手く使えば思い通りに新しい化学結合を作ることができ、新しい薬や、既存の薬であっても従来よりも非常に短い工程で作ることができる。

何を切るか、どうやって切るか

• 我々の身体に作用する有機化合物でメインになるのは水素と炭素。時々酸素や窒素が絡んでくることによって、違う物理的性質や化学的性質を帯びて来て、風邪に効くなどいろいろと違う性質を帯びて来る。

• 水素と炭素は有機化合物に絶対的な存在で、それらの化合物は自然界に溢れている。裏を返せば、気温や大気圧など自然界で非常に安定しているため、なかなか結合は壊れない。これを塚本氏達はフラスコの中で壊して、新しい炭素結合を作ったりすることにチャレンジしている。

• 非常に安定していて反応しない物質の結合を切ることができれば、新しい有用な化合物を作ることができる。工業的にも安価で単純な化合物から抗がん剤の機能を持つ物質へと結びつけることが期待できる。

• 塚本氏達は炭素と仲が良い金属触媒を使って炭素炭素結合を切り、新しい化学結合を2つ作ることができると想定し、研究した。この研究は成功し、サイエンス誌に掲載された。

• 塚本氏はまとめとして「有機化合物という我々の身体にありふれている化合物の凄く基本的な単位を切りながら、新しく化学結合を作ることによって、手元にある安い化合物から高価値を付加したような薬や、新しい化合物へと直接的に結びつけることを見い出しました。これは金属触媒による力によるもので、実は僕はこっちのプロジェクトを手がけていて、模型、分子化合物を作ろうと頑張っています」と語った。


Tatsuhiro Tsukamoto, PhD student, University of Chicago


Three general types of chemical reactions
(The image is borrowed from Tsukamoto's presentation)