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講演:トランプ政権と日米関係

By グレン・フクシマ氏

• トランプ政権の動きはなぜ読めないのか。どんな「チェンジ」が起きるのか。グレン・フクシマ氏を講師に迎え「トランプ政権と日米関係」と題する講演会が5月4日、シカゴ市にあるカークランド&エリスの会議室で行われた。同講演会はシカゴ日米協会の主催によるもの。

• グレン・フクシマ氏は2015年から2016年までヒラリー・クリントン氏のアジア政策グループのメンバーを務め、現在はワシントンDCのシンクタンク、センター・フォー・アメリカン・ポリシーのシニア研究員。一方、早稲田大学や京都大学で教鞭も執っている。
• フクシマ氏は1985年から90年まで米国通商代表部で日米、米中貿易交渉に当たり、その後22年間に亘り日本に滞在。その間AT&T日本のバイスプレジデント、エアバス日本のプレジデント兼CEOなどを努め、在日本米国商工会議所のプレジデントを2期努めた。また、現在はワシントンDC、ボストン、サンフランシスコなどの日米協会の理事を務めている。フクシマ氏の著書「The Politics of U.S.-Japan Economic Friction」は1993年の大平正芳賞を受賞している。

オバマ政権から一変

• オバマ前大統領は2009年11月の東京演説で「アメリカの初めてのパシフィック・プレジデント」だと自己表現し、その後アジア重視政策を打ち出した。
• ヒラリー・クリントン元国務長官は2011年10月の海外政策で、①同盟国の強化、②新興パワーとの関係作り、③アジアにおける経済活動の強化、④ASEAN、APECなどを含むマルチ的な協力作り、⑤アジアのセキュリティ面における存在強化、⑥民主主義と人権保護の推進を打ち出した。
• クリントン氏が2016年の大統領選に勝利していれば、上記6項目が継続されるはずだった。しかし、トランプ氏の勝利で一変した。

トランプ氏は日本をどう見ていたのか

• 1987年、トランプ氏は約10万ドルを投じ、NYタイムズ、ワシントン・ポスト、ボストン・グローブの3紙に日本を批判する1面広告を掲載した。
• そこに羅列したのは①日本が米国の雇用を盗んでいる、②日本は輸出するのみ、③日本は米国から何も輸入しない、④為替操作、⑤防衛へのただ乗りの5項目。この5項目はその後のインタビューやトランプ氏の著書、昨年の大統領選挙運動までずっと繰り返されている。

• ここで興味深いのは、日本をターゲットに批判はしているが、民主・共和に関わらず米政権への批判ウェイトの方が高い。「日本人はスマートであり、本当に尊敬する。我々の政府は日本に全てを与えて利用されている愚か者だ」という言い回しをしている。
• また、トランプ氏はインタビューや記事で「日本は我々に製品を売り、我々はそれに巨額を払っている。そして、日本はその金でアメリカを買っている。グレート・トリックだ」と述べている。トランプ氏は少なくとも、日本がアメリカを利用しているという思いがあるようだ。
• 選挙運動中には批判の対象に中国、韓国、ベトナム、メキシコ、サウジアラビアなどを加えた。しかし、1980年代から日本はトランプ氏の批判の中心的存在だった。

トランプ政権の貿易・経済政策

• 1月20日の大統領就任から3日で、トランプ氏はTPPからの離脱を発表した。NAFTAからの離脱も口にしたが、後に再交渉に変えた。WTOは役に立たない組織だと述べたことから、米国では脱退が懸念されていたが、今日までその話は持ち上がっていない。
• トランプ氏は二カ国間協定を推進している。ロス氏の商務長官就任後は、二カ国間協定が推進されると見られる。

• 税制度改革は共和党、特にポール・ライアン下院議長の強力な支持がある。一方、輸入税増税には米国内の輸入業者の強い反対がある。

• トランプ氏の主要政策の一つであるインフラ投資は海外からの投資機会であるが、ホワイトハウスには「バイ・アメリカ法」を強力に保持する担当者がいる。米企業であってもfavoritismの影響を受けるかも知れない。ただし、米企業の定義は不明確。

ランプ政権下の日米関係

• 安倍首相が2月10日にワシントンDCを訪問し、トランプ大統領は「日米セキュリティ関係は、東アジアの『コーナーストーン』だ」という声明を発表した。これはオバマ政権が使っていた言葉で、セキュリティ関係においては変わらない。

• フクシマ氏の印象として、トランプ氏はワシントンDCにおける安倍首相との会談でセキュリティに焦点を当て、マールアラーゴのゴルフ・セッションでは経済面の交渉をするつもりだった。しかし、北朝鮮のミサイル発射があり、「米国は100%日本の背後にいる」とセキュリティ関係を再確認する結末となった。

• 日米首脳会談のために日本側は数ヶ月をかけてパッケージを準備し、多くの提案を出した。これらはトランプ氏が声高に叫ぶ雇用創出のための投資が豊富に盛り込まれていた。同時に日本側は多くの提案を出すことで二カ国間協定を避けたい意向があった。

• 2月の安倍・トランプ会談のフォローアップとして、マイク・ペンス副大統領が4月に訪日し経済対話の初会合が行われた。ホワイトハウスではペンス氏の日本入り前にリリースを出し、会合は主に今後の対話のためのフレームワーク作りだと発表した。つまり、実際の交渉は先送りした。

• 準備万端の日本とは対照的に、トランプ政権は現実的に対日経済策の準備ができていなかった。これは人手不足によるもの。
• 新政権発足により4000人が新しくシニア・ポジションに就くが、承認されているのは1000人余り。必要な人材が適材適所に就くにはまだ数ヶ月を必要とするという。
• ここに日本と米国の大きな違いがある。日本では政権が変わっても官僚組織は変わらないが、米国では政権が変わると総入れ替えになる。ゆえに日米経済交渉が本格的に動き出すのは数ヶ月先になると見られる。
• トランプ氏は日米貿易に於いて「フリー、フェア、レシプロカル」であるべきだと主張している。レシプロカル(reciprocal)にどんな意味を含ませているのか、フクシマ氏は今後分かって来るだろうと話した。

• ペンス副大統領の訪日に際して、日本のゴールは①日本の米国投資と雇用開発提案が米国にとって満足できるものであることを確認すること、②二カ国間協定を避けること、③為替についての議論を避けること、④国家保全と貿易を関連させないこと。
• 米国政府は一般的に保全と経済のリンクは減らして来た。しかし不動産のネゴシエイターであるトランプ氏は、保全と経済のリンクを視野に入れる可能性はある。習中国国家主席の訪米中、中国の北朝鮮への圧力を強めさせるために、中国の為替操作の話題を反故にした例がある。

トランプ政権:人事はポリシー

• トランプ政権は、誰がどの部署に就くかでポリシーが決まる。同政権には①ビジネス人、②軍人、③予測不可の人、による3つのグループがある。

• のグループにはファイナンシャル分野のビジネスマン達がいる。財務長官はムニューシン氏、商務長官はロス氏、国務長官はティラーソン氏。ビジネス人は安定した予想できる環境を好む一方、低税率、規制緩和を望むが、貿易摩擦は望まない。

• のグループはマティス防衛長官を始め、国家保全カウンシルにマクマスターがいる。軍関係者は安定を望み、同盟の価値を継続する。

• のグループにはバノン首席戦略官兼大統領上級顧問とその周辺人物として米経済カウンシルのコーン氏やUSTRのライトハイザー氏、米トレイド・カウンシルのナバロ氏がいる。そしてトランプ氏の娘婿のクシュナー氏がいる。同氏は各国からの首脳や外相らの訪米を全て準備している。また、権力も伸ばしている。
• 経済関係担当者らは特に中国に批判的で、中国や日本などを米国を利用している国だと批判している。米国自動車業界は成長しない日本市場進出への関心は低く、むしろ日本、メキシコ、カナダなどからの日本車の輸入に注目している。将来的に政策変更が出てくる可能性がある。

なぜトランプ政権の予測は難しいのか

o 政府高官のポジションが埋まっておらず、誰が担当するのか分からない。
o トランプ氏のマネージメントスタイル。違う考えを持つ多くの人から意見を出させるが、最終的には自分で決める。決定に関与する高官の考えが生かされるかどうか予想できない。
o トランプ氏の首尾一貫しないところ。NATO、シリア、NAFTA、THAAD、対中政策と枚挙にいとまがない。
o トランプ氏は、米国は予測され過ぎであり、されないように変わるべきだと述べている。また、米国はtransactionalであるべきだと述べている。
• 前記のグループの①と②は全てを変えるのには反対であり、安定と予想に焦点を当ててトランプ氏を説得するグループ。トランプ氏にコンサルトするのは③のグループであり、予測は非常に難しい。

最後に

• トランプ氏の政策信条は1950年代のスーパーパワーのアメリカに戻すことなのか。その政策は戦略と交渉一筋なのか。
• トランプ氏の価値観は、不安定、矛盾、予測不可、信頼性欠如、脱構築、transactionalという言葉に反映されている。これは日本の価値観とは正反対。この様な環境下で安倍首相は、トランプ氏を遣り繰りし手なずけたと評価されている。訪米後の支持率は上った。

• ファイナンシャル・ポイントの予想は、政権発足から日が浅く、予想は難しい。
• セキュリティ面では一般に大きな変化はないと見られる。
• 経済面では変更の試みが行われると見られるが、現時点では不透明。
• 「だから目を離さないで」とフ


Glen S. Fukushima