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鏡の世界のステーキは美味しい?
興味津々 若手研究者発表会III

• 佐藤浩平氏は第13回若手研究者発表会で「鏡の世界の化学」について発表した。佐藤氏は博士号取得後の研究員として、ノースウェスタン大学で研究を続けている。
• どらえもんのマンガにあるように「鏡の世界」に入って美味しそうなステーキを食べたとしたら、どんな味がするだろうか?

• 鏡の世界では左右が反対になる。だから、美味しそうなステーキも左右反対になる。すると、ステーキの中にたくさん含まれていて美味しさの元になるアミノ酸も左右が逆になる。鏡の世界のアミノ酸の分子は左右が逆になっているだけで構成物も形も全く同じだが、鏡の世界のアミノ酸は全く味がしない。
• 鏡の中のアミノ酸は人工的に作ることができるが、実際に食べてみても味がしないという。

なぜ鏡の世界のアミノ酸は性質が違うのか?

• 図Iのアミノ酸の構造を簡素化して、図IIのように緑・赤・青・白の4本の手が中心の黒丸から出ている形で見てみる。
• 緑と黒丸を軸に、鏡の世界のアミノ酸を時計回りに回してやると、私達の世界のアミノ酸と同じ向きになるが、赤と青の位置が入れ替わっている(図III)。鏡の世界のアミノ酸と私達の世界のアミノ酸は重ねることができないから、とても良く似ているが、実は別物であることが分かる。

• 身近な例で言うと、右手と左手は鏡の関係にある。手のひら同士を合わせてみても、手のひらと甲を合わせようとしても、絶対に重ねることができないから鏡の世界のアミノ酸のように良く似ているが別物。右手と左手があるように、アミノ酸にも右手のアミノ酸と左手のアミノ酸がある。

身体は左手と右手のアミノ酸を認識出来るか?

• 私達の身体もアミノ酸を元にしてできている。身体を作っているタンパク質は、アミノ酸が繋がってできているもの。
• 私達の身体はすべて左手のアミノ酸でできている。これはいまだに謎で、解明できれば間違いなくノーベル賞だと佐藤氏は言う。

• 私達の身体は左手のアミノ酸からできているから、左手のアミノ酸を旨味と認識できる。鏡の世界の人は右手のアミノ酸でできているから、右手のアミノ酸を旨味と認識し、左手のアミノ酸は味がしないと言うことになるはずだと佐藤氏は語る。

• 例えば、左手同士、右手同士のように、同じ手同士でなければ握手ができないイメージだと佐藤氏は説明する。
• 私達の身体は左手の性質も持っていて、左手の性質を持っている食べものを食べた時だけに美味しいと感じることができて、右手のものを食べても美味しくないと感じるのだと言う。

右手と左手を有する薬

• 薬にも左手と右手を有するものがある。例えばイブプロフェンという薬は、左手のものは解熱・鎮痛作用があるが、右手のものは効き目がない。この様に効き目がない右手のものが市販されている薬には半分混ざっている。左手だけの薬を作るのは非常に難しく、コストがかかるのだという。

薬に混じっている右手の ものはどうなるのか?

• 右手のものは全く効き目がないと言う訳ではなく、体内に入ると少しずつ左手の方に変わって行く。身体の中には食べたものを基本的に消化しようとする特殊なタンパク質があって、これが右手のものを左手側に変えるのだと言う。それが消化される前の段階で薬として効くことになる。

右手のものは副作用の原因にはならないか?

• サリドマイドという薬は左手と右手が50対50で混ざったもの。癖にならない睡眠剤というキャッチコピーで1958年に販売された。右手の方は睡眠剤として働くが、左手の方は奇形児が生まれてしまうのではないかと言われるようになり、4年後に販売中止となった。以後40年を経てサリドマイドは再認可され、抗がん剤として使われるようになった。
• 薬の左手と右手の一方は睡眠剤として効果があるが、もう一方は身体に対して毒になってしまうと言うことは過去に実際に起きているという。

• この様な背景から、左手と右手のものに関する慎重な研究が行われるようになった。
• 天然の植物から抽出した左手だけの薬でも、人工的に作ると左手と右手が混じったものが出てくる。前記のように右手のものを身体の中で左手に変えてしまうとことが起こりかねないので、天然の抽出薬で左手のものしか存在しなくても人工的に右手を作って、毒性の有無をチェックすることが義務づけられた。

• この様な背景から、片方のみを作る技術が爆発的に進歩した。また、左右混合したものから毒にならない方だけを選別する技術も非常に進んだ。この技術には日本人の貢献が大きく、ノーベル賞を受賞した野依良治理研元所長や、岡本佳男氏などがいる。

• 「左手と右手のものは実は我々の身体にとって大事な役割をしているので、それだけでも分かってもらえたら今日は幸い」だと佐藤氏は語った。

佐藤氏の研究

• 佐藤氏は、私達の身体が右と左を認識できるかどうかと言うを研究している。アミノ酸の場合は左手のアミノ酸を認識して美味しいと感じるが、右手のアミノ酸は認識せず無味と感じる。果たして私達の身体は左巻と右巻のものを認識するのだろうか。

• 私達の神経や骨が再生するためには細胞が育って行かなければならない。細胞が育つ時にはその足下にコラーゲンというタンパク質の存在が必要となる。(この時にコラーゲンを飲んでもあまり効果はないと佐藤氏は言う)

• 細胞の育ち方を見るために、佐藤氏はコラーゲンのロープを作った。ロープは左巻に撚ったものと右巻に撚ったものを用意した。ロープの直径は1億分の1メートルと非常に小さい。
• 左巻と右巻のロープの上でどの様に細胞が育つかを監察したところ、左巻のロープの上の細胞は非常に良く育つが、右巻のロープの上の細胞は全く育たず死んでしまうことが分かった。この結果から私達の身体が左巻と右巻を認識できることが分かったと言う。


佐藤浩平氏は博士号取得後の研究員として、ノースウェスタン大学で研究を続けている