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中国の一帯一路、米国抜きのTPPは
どうなるのか

シンポジウム:アジア太平洋経済統合と米国と日本の役割

• 「アジア太平洋経済統合と、米国と日本の役割」と題したシンポジウムが6月15日、シカゴ市にあるシカゴクラブで開催された。同シンポジウムはJETROシカゴ主催、イリノイ商工会議所、シカゴ日米協会、在シカゴ総領事館、シカゴ日本商工会議所、シカゴカウンシル・グローバルアフェアーズ、イリノイ州商務局、イリノイ州政府、インタレスト・イリノイ(州経済開発公社)、シカゴ外交問題評議会(CCGA)の共催・後援で開催された。

• 基調講演者はアドライ・スティーブンソン氏(元米上院議員)、石毛博行氏(JETRO理事長)、キース・ウィリアム氏(ULプレジデント&CEO)。
• パネル講演者はヴォ・チー・タン氏(ベトナム中央経済管理研究所副所長)、キ・ロング氏(富士通総研・主席研究員)、高原明生氏(東京大学大学院法学政治研究科教授)、トラヴィス・ジョージ氏(モレックス社上級副社長・CFO)、モデレーターはエド・グラント氏(シカゴ日米会元プレジデント)。

• 着任から約4ヶ月、日本と中西部の経済関係を見て来た伊藤直樹在シカゴ総領事は、管轄10州に1,400の日系企業が進出しており14万の雇用を創出、イリノイ州だけでも日系企業630社が44,000人を雇用しており、ウィン・ウィンの関係だと述べた。
• また、既に8州の州知事と会談した伊藤総領事は、州知事達の主要な話として、更なる日本式の投資を歓迎していること、支持していたTPPから米国が脱退した後は各々の州の利益のためのフレームワーク作りに着手していることの2つを挙げた。
• 2014年から2015年にかけてアジア経済協定の交渉に当たっていた伊藤総領事は、広範囲に及ぶ包括的な地域協定の促進は地域経済統合によりポジティブなインパクトを与え、高水準の規則と市場アクセス拡大と共に、広範囲に及ぶサプライチェーンの確立ができると語った。

アドライ・スティーブンソン氏談

• 英国のEUからの脱退、EUの苦闘、トランスアトランティック同盟の危機などで欧米経済の見通しが不透明な中、アジア太平洋の経済統合は続いているが様々な障害要素もある。TPPは中国を含まず、また、トランプ大統領が脱退を決めた。一方、日本はTPP参加のために顕著な犠牲を払っている。
• 米国が保護貿易主義、軍国主義の再現で(世界を)脅かす一方、中国のパワーは増大し、中国の購買力は既に世界最大になっている。中国の海外投資は世界に及び、その影響力は増大している。一帯一路やアジアインフラ投資銀行(AIIB)は既に多数の国々を巻き込んでいる。
• 日本はアジアの経済と政治安定において岩床的な存在となっているが、高齢化社会などのチャレンジも抱えている。
• 米国の方針は世界への影響が大きいが、トランプ大統領は取引交渉型で予測不可。大統領職を全うできない可能性も浮上している。米国がパリ協定に戻り、再びリーダーシップを取る可能性もあるとスティーブンソン氏は語る。
• この様な世界経済の不透明性を挙げたスティーブンソン氏は、「このシンポジウムは道を選ぶ助けになる」と述べ、アジア太平洋や米国のためだけでなく、チャンスは中西部にも高まっていると話した。

石毛博行氏談

• JETROの石毛博行氏は、日本は経済統合を促進し、自由貿易の重要性に密着しており、TPPは参加国すべてが利益を分かち合うことができると述べた。

• アジアは今、経済成長の中心となっている。これは米国にも利益があることで、米国からアジアへの輸出は伸び続けており、アジアの拡大市場は米国製品により有利と言える。
• ASEANビジネス・アウトルック調査によると、ASEAN諸国に進出している米企業500社の87%は向こう5年間で投資を拡大する。アジアの革新技術を使ったビジネス展開は、米国経済に顕著な利益をもたらす。

• アジアでは、Eコマース・ビジネスが発展している。例えば、スマートフォンを使ったタクシー・サービス、食品配達、ショッピング・サービスなどが巨大市場を形成しつつある。
• 懸念の一つは規則作りよりも早く市場が成長していること。アジアには高水準の規則が重要となる。

• 習近平主席がダボス会議で「中国は揺るぎなく経済のグローバル化に前進する」と声明を述べており、一帯一路イニシアティブを促進している。

• この様な動きの中で米国はどう動くのか。
• 日本のスタンスは高水準と規則を掲げてTPPを促進している。RCEP (the Regional Comprehensive Economic Partnership)と同様の希望を持っている。
• 石毛氏は高水準の自由で公正な貿易ルールがアジア全体に必要であり、企業の大小に拘わらず市場にアクセスできる事が重要だと語る。そして、日本がTPPの早期批准を目指している一つの理由は、米国にTPPに戻って欲しいからだと語った。そして、中国は一帯一路を率先することで、アメリカがアジアから手を引いた部分を埋めることを切望していると語った。

• 米国はこの様な動きにどう対処するのか?二カ国間協定を一国ずつ結んでいくのか。それには時間とエネルギーがかかり、機会が失われないか。自由で公正な市場の規則作りにリーダーシップを取っていた米国企業は、アジアで競争するかなりのチャンスがある。
• 日本は経済統合を促進し実施してきており、今後も継続する。石毛氏は持続可能な経済統統合のカギは「包括性inclusiveness」だと指摘する。グローバル化で怒りを募らせるのはグローバル化で恩恵を受けなかった人々であり、日本のミッションの一つは「誰も置き去りにされない事を確かにすることだ」と述べた。

キース・ウイリアムズ氏談

• キース・ウィリアムズ氏は日本を含むアジアに11年間住んだ経験を持つ。経済関係がどうあるべきかというよりも、現状について語った。

• 中国は米国の3番目に大きい輸出国。米国製品の輸出額は2006年から2015年の間に2倍、サービスの輸出は5倍近くに膨らんだ。
• イリノイ州は2015年、中国に80億ドルの製品とサービスを輸出した。対中輸出は他国の輸出額に比べ5倍以上。

• US-ASEAN Business Council and East-West Centerの調査によると、ASEANはアジアの中で、米国の3番目に大きい輸出市場で、対インド輸出を20%上回る。
• ASEANの人口はインドの半分だが、一人当たりのGDPは2倍で、米国の製品、直接海外投資先として非常に良い市場。現在の米国の対ASEAN投資は2,740億ドルで、日本への投資の約3倍、対中国投資の4倍となっている。

• 投資が増えれば、ASEANは15年後には1.5兆ドルのインフラ設備開発が必要となり、発電、道路、空港、鉄道などの建設、それに伴う建設機械などの大市場となる。また、食品、医薬品、サービス市場も急速に拡大すると見られる。
• イリノイ州はASEANに40億ドル近くを輸出しており、それにより25,000人の雇用を維持している。

• 変化するアメリカの貿易政策。
• 米国は二カ国間協定の第二のゴールデン時代を迎えるかも知れない。3月に北京で行われた中国開発フォーラムでは、グローバル化の終わりについてまで議論が広がった。大半は最近の大統領選挙の話で、意気消沈する雰囲気だったという。
• この21世紀のインターネット時代に、人々は互いに繋がりグローバル社会ができている。これに逆行することは殆ど不可能だと考えられる。

• 米国は20カ国と二カ国間協定を結んでいる。ブッシュ政権下で16の二カ国間協定が結ばれ、ゴールデン時代を迎えた。しかし、過去の協定は米国の利益にバイアスがかかっているという見方が一般的になって来た。オバマ前大統領にはその利益の不均衡をTPPで是正する思惑があったという憶測もある。貿易不均衡は昨年の大統領選挙でもニュースになっていた。そして、トランプ氏は早々に脱退を決めた。
• NAFTAは締結以来何度も交渉が行われて来たが現在も存続している。しかし、締結当時は現在のアップル、マイクルソフト、フェイスブック、アマゾンなどのトップ10企業は存在していなかった。おそらく、NAFTAのプロビジョンを見直す時かも知れない。
• また、WTOを見ると、マルチ・レベルの貿易協定が如何に難しいか分かる。

米国の貿易史が将来に示すものは?

• 米国の貿易相手国は、TPPのような多国間協定批准にリーダーシップを実践すること。TPP11は参加国以外の国が手本とするような貿易協定として、大きな影響力となり得る。

• 米国の今までの方向性は終わりに来ている。トランプ政権が貿易赤字是正を押し出しているように、これからの貿易協定はよりウィン・ウィン・ディールになっていく。また、素早い動きがアドバンテージになる。安倍首相の動きは早かった。

• アジア諸国との貿易利益から、米国は今後もアジアに関与していく。トランプ政権は取引志向が強く過去の政権とは異なる。以前の協定を蒸し返すよりも新しい二カ国間または多国間協定を作る時だと見ている。このような動きの中で貿易ルールはより重要になる。

キ・ロング氏談

• 中国経済を専攻し日本在住30年のキ・ロング氏は、アジア太平洋における経済統合と協調について、個人的な見方について語った。

• ロング氏は、TPPや一帯一路の議論ではなく、どの様に自由で公正、透明性の高いグローバル規則を作るか、どの様に政府を強化するかが問題だと語る。

• ロング氏は、世界を巻き込む一帯一路イニシアティブは中国の国内問題であり、これを実現するには中国政府が国内の経済開発を維持することが必須だという。

• 習近平主席の在位は中国で2番目に長く、中国経済が巨大規模になったことからグローバル規則作りに乗り出したことはリーゾナブルだとロング氏は見ている。
• しかし、5、6年前から中国の経済成長が減速し始めたのが問題だという。減速の一因は、経済成長を牽引するエンジンの弱さ。中国では著作権が充分に保護されていないため、革新技術が弱い。
• また、貿易コスト増による輸出入の大幅減がある。貿易コストは過去20年で数倍に上がっているという。ロング氏はしかし、これは中国にとって低レベル産業からハイレベル産業へ変わる良い機会であり、さもなければ中国経済は維持できないと語る。

• 中国経済が世界の脅威と言われるのはなぜか。ロング氏は、汚職、買収、贈賄などのcorruptionを挙げる。中国はこれらを一掃するプロセス中にあり、将来は変わるいう。

• ロング氏はまとめとして、一帯一路には中国国内経済成長の維持が必須であること、中国・日本・米国が一つになって世界経済開発を促進する機会があることを挙げた。また、中長期的にTPPは協定であり、一帯一路はイニシャティブであることから、この2つは対立しないと述べた。

高原明生氏談

• 高原氏の1つのポイントは、地域統合は必然的なものであること。企業、市民社会、個人、専門家、学会、ポップ界、どこにでもネットワークが急速に発展し、グローバル化の元になっている。このようなネットワークにより人、モノ、金、はたまたウィルスやマフィアなどの悪いものまで流れ、それを促進または管理しようとする国家による構造体が形成され、周辺国と地域化する。これがアジア・パシフィックで起きていることだと高原氏は指摘する。

• 2つめのポイントは障害となるもの。地域統合の障害となるものの一つは北朝鮮だが、北朝鮮が中国内で張り詰めた論争を醸し出していると高原氏は語る。朝鮮半島の統一を促進し、北アジアで経済統合すれば、朝鮮半島は中国にとってバッファー・ゾーンとなる。しかし、現在のところこの構想は動いていない。
• 東アジアの地域統合は低下傾向にある。これは地域で誰がリーダーシップをとるかの競争があるからだ。
• 3つめのポイントは、中国の一帯一路イニシアチブ。これは全く新しい考えではなく、現存するプロジェクトや企画を繋ぎ合わせたもので、中国の弁舌の才で惑わされないように注意すべき。
• 問題は、一帯一路がいつ本格化するかと言う事。過去の中国国家主席は大きな企画を打ち出していたが、主席交代と共に語られなくなった。
• 米国がアジアでの利益の確保を望むのであれば、一帯一路は静観し、アジアでの存在感を強め、アジア諸国と連帯感を持つこと。
• 米国の役割は日本と協力しアジアの社会経済開発の支援をすること。また、法に則った秩序の後見人となること。
• 最後に高原氏は、米国にとっての最良の選択はTPPに戻ることだと述べた。


From left: Vo Tri Thanh, Edward Grant, Ke Long, Akio Takahara, Travis George


The “One Band, One Road” initiative