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トランプ時代における日本の海外政策オプション

慶應義塾大学・中山俊宏教授による講演会

• 「トランプ時代における日本の海外政策オプション」について、慶應義塾大学総合政策学部の中山俊宏教授による講演会が9月7日、シカゴ・カウンシル・オン・グローバル・アフェアーズの主催で行われた。
• 日本は以下の4つのチャレンジに直面していると中山氏は指摘する。

• 過度な接続性に起因する世界規模での問題への挑戦。気候変動、金融市場におけるトレード・ショック、サイバースペース感染などがある。

• 地域問題への挑戦。特に北東アジアでは朝鮮半島の脅威に直面し、長期的には不確実な中国の動向への懸念がある。

• 国内問題への挑戦。東日本大震災や他の自然災害、2020年オリンピックへの準備など数多くの挑戦を抱えている。
• 政治的には安倍晋三首相が安定した指導者として君臨し、幸いにして大衆主義の高まりはない。

• 米国のアジア政策や日米同盟への懸念。米国が日本とどの様な関係を構築したいのか、日本にとって真剣な懸念となっている。これはトランプ氏の選挙運動中の発言から来るもので、日本にとってはショックなものだった。(トランプ氏は貿易について日本をメキシコや中国とひとまとめに扱い詐欺師呼ばわりしていた。またTPPからの離脱を誓っていた。更に安全保障について、日本が米国に護って欲しければ、もっと米国に支払うべきであり、核兵器を持って自国で防衛に対処すべきなどの発言があり、米国への懸念を非常に高めるものだった。)
• この様な中で、日本はクリントン政権により従来の日米関係が続くものと予想していた。オバマ政権下での日米関係を振り返ってみると:

• 安倍首相とオバマ大統領の間で日米関係は飛躍していた。オバマ大統領の広島訪問、安倍首相の真珠湾訪問があり、政策的にも国家安全保障会議の設立や集団的自衛権の行使など、オバマ大統領が後ろ盾となって両国関係は発展していた。

• オバマ大統領は長期的に見ても、最も知的に洗練された大統領だった。日米関係は強まったものの、日本にとってはオバマ氏が少し距離を置いている感じがあった。米国ではシリアやクリミア半島問題、日本ではアジア東北部の問題があり、日本は多少神経質になるところがあった。

• クリントン氏は、より伝統的なアメリカン・パワー・タイプの政治家で、アジア重視策の構築者でもあった事から、クリントン政権下ではより良い日米同盟が築けるという期待感があった。
• しかし、トランプ氏の勝利により、トランプ政権下での日米関係に挑戦することになった。今までの日米関係の基盤を揺さぶるようなトランプ氏の勝利は、日本に大きな懸念をもたらした。
• 安倍首相が昨年11月半ばにトランプタワーを訪れトランプ次期大統領と会談したのは、如何に日本の懸念が大きかったかを示している。この会談は功を成したらしく、トランプ氏は日本に関するツイッター発信を止めた。

• トランプ大統領就任後、世界の米国に対する好意的なイメージは激変した。しかし、ヨーロッパで見られたようなアンティ・アメリカ、アンティ・トランプという社会現象は、日本では起きなかった。
• 日本の指導者には反トランプを唱えることができない訳がある。日本は朝鮮半島問題、中国台頭への懸念を抱えており、「不平を言うよりも順応する」というのが日本の決断だった。
• こうして安倍首相は2月にトランプ氏を訪ね、躊躇することなくトランプ氏の胸に飛び込んだ。二人は5回の食事を共にし、ゴルフで27ホールを回った。安倍首相の訪問は、間違いなく日米同盟と日米関係に良い結果をもたらし、日本が期待していたことの総てをトランプ氏が発言してくれた。オバマ大統領以上のことをしてくれたという感がある。

• 米国のTPP離脱については問題がある。TPPは経済の問題だけでなく、地域戦略の意味合いがあるからだ。日米二カ国間協定も難題として残っているが、国家保全についてはMMTと言われるマティス氏、マクマスター氏、ティラーソン氏がいる。また貿易については、インディアナ州知事として多くの日本企業を誘致したペンス副大統領がいる。彼らは米国の孤立を望んでいない。

• この様なことから、日本には注意深くも楽天的な感がある。70%の日本国民が2月の安倍・トランプ会談を日米関係に良い影響をもたらしたと答えており、日本の決断は国民の支持を得ている。
• その理由は先にも述べたとおり、朝鮮半島と中国にある。中国の動向を見ていると、中国中心主義出現の可能性が見える。これについて日本は、アジア地域の成功に好ましくないと確信しており、自由主義による世界秩序は米国も支持している。日本としては中国の覇権主義への野心を強く懸念している。

日本の選択肢

• 問題は、どのように対処するか。日本が持つ選択肢は:

・ 日本が本格的な軍事力を持ち標準的な国になるという話があるが、これは不可能。国民の支持がなく、予算もない。また、アジア地域も歓迎していない。日本は軍事関係での役割拡大に向かっているが、これは本格的な軍事力を持つ国になるにはほど遠い。よって、中国の覇権主義の高まりに対して実行可能な手段ではない。

・ 対米関係のように中国を喜んで受け入れる、または、憲法が謳う平和主義を試みる選択肢はどうか。これは無責任なやり方で、治安の不在を生み、現実的な選択肢ではない。

・ 治安において日本は信頼できる地域的な組織を持たない。国連は重要な組織だが、北東アジアに関して決定的な問題点は、中国が拒否権を持つこと。これでは日本への助けにはならない。

・ 他の国々との同盟の可能性はある。オーストラリアやインドとは関係強化に努めている。韓国は問題あるパートナーだが関係改善に臨んでいる。しかし、これらの関係は日米関係に置き換えることはできない。

• よって、日本の選択肢はシンプル。日本にとって唯一で最良の選択肢は日米同盟に他ならない。

• 一方、日米同盟でも懸念がないわけではない。トランプ政権にはアジアチームが完全に設置されておらず、包括的なアジア太平洋政策がない。日米同盟は単独で動くものではなく、日本のアジア太平洋政策と共鳴し同一行動を取るものであるべきだが、そうでないことに日本は懸念を感じている。
• ピューの調査によると、日本でのトランプ氏への信頼度は24%、72%が信頼できないと答えている。これはショッキングな数字だが、いずれにせよ、米国は日本の唯一で最良の選択肢。米国は日本とは異なる問題を抱えており、日米同盟が米国利益と同時に動くことも理解しなければならない。

日米同盟における米国への利益とは

• これからの経済のダイナミクスは東アジアにある。米国は20世紀初めから東アジアに継続的に影響力を及ぼしているが、それは機能的な部分であり、経済、政策、国防などにおいて実質的な部分ではない。米国がアジアに実質的な存在感を示すには、日本が最良のパートナーとなる。日本は民主主義で安定しており、良く開発された経済市場を持ち、政治制度の価値を米国と分かち合っている。また、米軍基地を迎え入れ、反アメリカへの大きな動きもない。

• 日米同盟は60年の良い歴史を持ちアジア太平洋についての理解も分かち合っており、日米同盟はアジアの平和と安全の要となっている。この様な理由から、日本は米国の最良の選択肢となる。

トランプ政権下での日本の立場

• トランプ政権下での日本の基本的な政策は変わらない。また、アジアの存在パワーとなるように米国を説得している。これは地域も期待している。米国人からすると、日本のトランプ政権への理解は楽天的過ぎるかも知れないが、予測不可であることはトランプ政権の海外政策の一部と理解している。
• MMT、ヘイリー国連大使、ケリー首席補佐官が去ればどうなるのかという懸念はある。しかし、それについて日本にできる事はなく、日米同盟の重要性から見て、大統領が誰であっても日本が米大統領を好意的に受け入れることに変わりはない。

• 結論として、トランプ政権の時代であっても日本の基本的な立場は変わらず、現在進行中の事柄に益々焦点を当てる。これがトランプ政権時代における日本の現実である。


慶應義塾大学総合政策学部の中山俊宏教授