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デジタルイノベーションの衝撃と
自動車電動化の新時代

• 「産業・自動車セミナー」が11月15日、ハーパー・カレッジで開催された。これはJCCCとJETROシカゴの共催によるもので、第1部「デジタルイノベーションの衝撃―注目の取り組みから課題と戦略を探る」をみずほ銀行産業調査部長の牛窪恭彦氏が、第2部「自動車電動化の新時代-自動車業界が採るべき針路」を同銀行産業調査部の斉藤智美氏が講師を務めた。

第1部:デジタル イノベーションの衝撃

• デジタルイノベーション(DI)は、高齢化、経済のグローバル化、地球温暖化、人工知能(AI)などによる中長期的な構造変化(メガトレンド)にどの様に影響して来るのか。今日のビジネスモデルはどの様に変わって行くのか、企業はどの様に対応して行くのか。牛窪氏は、既に我々の周辺に起きているDIとビジネスモデルの転換、勝ち組になるための課題と戦略について語った。

• 日進月歩のDIによるテクノロジーの変化を、どの様に自社ビジネスに生かして行くのか。事例として:

• 農業ではAgriTechが活用されている。屋内で野菜を水栽培する「植物工場」は日本でも米国でも既に稼働している。高齢化対策、安定供給の他、大量消費地に植物工場を作ることで輸送コストを抑えるという利点がある。

• EC(Electronic Commerce-電子商取引)市場拡大に伴い、宅配サービスが追いつかない状況になっている。
• 千葉市ではドローン宅配サービスの実証実験を開始した。
• 米国ではDispatch社が、小型自動配送機を使った小口貨物の無人配送サービスを提供している。(サンフランシスコ湾岸エリア)

第四次産業革命: 破壊的イノベーション

• DIの進歩は続き、その影響は既存ビジネスモデルに「破壊的イノベーション」となり得る。
• 固定電話が携帯電話に、CDが音楽配信に転換しているように、銀行や自動車産業も大きな変化に晒されている。

モバイル化

• 中国では、スマートフォンで表示できるQRコード(二次元バーコード)で決済するモバイル・ペイメントが急速に進んでいる。店舗だけでなく露天商でも使われている。これによって、今まで決済インフラを提供し手数料を徴収していた銀行が素通りされることになった。
• DIにより、膨大な設備投資でシステムを作り金融サービスを提供している銀行に対して、全く新しい競合者が出現したことになる。

事例-自動車

• 大気汚染、交通事故増、渋滞などの社会的課題は、これまで規制強化などで対応されて来た。この課題に対応する電気自動車、自動運転車などの多くの技術が出て来ている。これによって、車が人に提供する利益である「移動」という部分だけを取り出すことができるようになる。

• 「移動」を効率化するモビリティ革命がある。最適な交通手段を提供する町作りが実現すれば、人は車でなくても移動を享受する事ができる。一方、移動に関するデータをスマートフォン経由で発信すれば、個人の移動に関するビッグデータが収集できる。
• 米国運輸省は「スマート・シティ・チャレンジ」というコンテストを開催し、オハイオ州コロンバスが優勝した。

• こうしたスマート・モビリティ都市や自動車のシェアリングが進めば、自動車の台数が必要最低限まで減少することもあり得る。

シェアリング・エコノミー

• 乗り合いのウーバー、民泊など、IoT(Internet of Things)を活用した新たなビジネスモデル「シェアリング・エコノミー」が出て来た。
• Airbnb(民泊)はIoTを活用して評判システムを構築し、見知らぬ人と人との間に「信頼」作り、貸し手・借りて・仲介者という新規ビジネスを打ち立てた。 

戦国時代の到来

• DIを活用して社会的課題に対応し、国としての競争力を高めるという動きが各国で起きている。

• 日本では第四次産業革命と呼ばれ、狩猟社会→農耕社会→工業社会→情報社会から、第五の社会「Society 5.0 (超スマート社会)」-テクノロジーで社会的課題を解決し、あらゆる人が快適に暮らすことができる社会を目指す。
• これが起こる中で、産業の在り方が変化する。AI(Artificial Intelligence-人工知能)やビッグデータの活用により様々な繋がりが生まれ、新たな付加価値が創出される。今までの業種間の垣根が消え、コネクティド・インダストリーという新たな産業形態が形成される。

• 中国では「中国製造2025」中国版Industrie4.0と呼ばれるインターネットプラスを推進している。これは製造業の10大重点分野、AIなどのテクノロジー分野に資源を投入するもの。ドイツでも同様のコンセプトを推進しているという。いずれも産業をコネクトさせて無駄を省こうと言うもの。

DIをめぐる世界の潮流

• DIによりビッグデータの収集が可能になった。これにより小売業は個々の顧客ニーズを理解し、利便性を提供し、タイムリーな調達や在庫管理を効率的に行うことができる。
• ファミマやAmazon Goではスマートフォンのアプリを使い、顧客のニーズに応じた商品提供から購入品の精算までやってしまう、レジなし店舗に取り組んでいる。小売店は利便性を提供する一方、顧客行動情報をより多く吸い上げることになる。より豊富になったビッグデーターを元に、小売業が顧客のニーズに応じた製品の生産まで手がけることも出てくる。

• 個人から吸い上げたビッグデータはAIで分析され、予防から治療後の事まで最適化された医療サービスが個人毎に提供されるようになる。これにはしばらく時間がかかりそうだが、米国では電子カルテを無料で中小病院に提供し、製薬企業からの広告収入とデータ販売で収益を得るビジネスが出現している。

• DIにより、ブロックチェーンという革命的なビジネスモデルが出現している。簡素化して言えば、中央に信頼できる管理者を置き、スマートコントラクトに基づいて契約を執行する。
• 例えば、自家発電した余分な電気を、最高値で買ってくれる所に自動的に売る。反対に、電気が足りない所は最安値の所から自動的に買う。これをスマートコントラクトに基づきブロックチェーンベースで自動的に実行する。こうなると、電力産業の在り方が変わってくる。

• インターネットを活用したIoTプラットフォームが既に出現している。個々の機械などにセンサーを付けてデータを集め、それをクラウドに上げてAIで分析し、問題解決となる情報をユーザーに送る。これを「クラウド・コンピューティング」と言う。
• クラウドに上げずにプラットフォーム内で処理し、ユーザーに提供するサービスを「エッジ・コンピューティング」と呼ぶ。
• IoTプラットフォームはグーグルなどのネット産業が参入するなど競争が激化しており、まだ勝者は出ていない。

モノのサービス化

• IoTの発展は、長期的には機器の売り切りから機器の使用状況に応じた課金モデルに移行すると見られている。
• 既にドイツのコンプレッサー企業・ケザー・コンプレッセンがこの課金モデルに変換している。ユーザーへの機器の導入、メンテナンスなど使用に関わる総ての費用が一本化されており、ユーザーは圧縮した空気の量に応じて料金を払う。
• ユーザーのメリットが大きそうだが、企業はユーザーの使用状況のデータが取れるというメリットがある。

• モノのサービス化は、資源を有効活用しようというサーキュラー・エコノミーの実現手段として出て来た考え方で、シェアリングのコンセプトがある。この動きは加速すると見られるが、リスク負担のシフトがある。
• ユーザー側が負っていた負担をメーカー側が負担することになり、リスク管理態勢、保険、ビジネスのやり方が変わってくる。一方、ビジネスモデルの変化により、新規取引先の開拓機会も現れて来ると見られる。

• DIにより産業の垣根がなくなると、従来の産業に光または影が差してくる。同業者でコンソーシアムを立ち上げる、業務提携を結ぶ、資本提携するなど、向こう10年から20年で包摂が進むと見られている。

AIは人間の仕事を奪うのか?

• 既にロボットが宿泊客を迎える「変なホテル」が運営されている。過去を振り返れば同じような懸念があった。しかし、自動車の出現によって御者は職を失ったが、自動車によって新たな雇用が多く創出された。これからはDIによって雇用喪失した人々が転職できるような政府の方策が重要になる。これが上手く行かないとDIが遅れ、国際社会で後手に回ることになる。
• AIは急進しておりSFの世界が現実になるかも知れないが、AIと人間の違いは自己認識にある。ここが人間がAIを使っていく大きなポイントだと牛窪氏は語った。


第2部:自動車電動化の新時代


• 2010年以降に起きたEV(電気自動車)ブームは沈静化したが、自動車の電動化は進展するのか。進展すればどの様な変化を業界にもたらすのか。みずほ銀行産業調査部の斉藤智美氏がその詳細について語った。

不可逆的な潮流となる電動化の進展

• EVは今まで環境規制対策の一手段だったが、規制の厳格化によりEVやPHEV(プラグイン・ハイブリッド車)がなければ対応できない状況が来ている。欧米を中心に主要国各国ではその対策として、将来的なエンジン車の排除や電動車の投入計画を明らかにしている。以前のEVブームとは異なり、電動車による規模の経済の確立と技術進展によるコスト低減が電動化の進展を後押ししている。電動化の進展は不可逆的な潮流になって行くと予想されている。

大胆なシフトを打ち出す主要自動車メーカー

・ フォルクスワーゲン(VW)は2025年までに電動車を80モデル(EV50,PHEV30)投入し、年間販売台数の1/4に当たる300万台をEVにする。
・ GMは2023年までにEVを20モデル以上投入する。
• この電動化計画に呼応し、各主要メーカーはエンジンのリソースを削減するという所まで踏み込み始めている。

• 電池価格は2010年当時1キロワット/時800ドルだったものが2015年には150ドルまで下がり、2020年以降は100ドルに下がる見込み。これが80ドルまで下がれば電動車はエンジン車と同等のトータルライフ・コストになると試算されている。

電動車普及の課題

• 電動車普及の課題は、電池関係ではレアメタルの安定供給やセルメーカーの大量供給体制が上げられる。インフラ関係では充電設備の拡充がある。

• 2030年の電動車の割合には地域差がある。
• 一番電動化が進むのは中国で、2030年の販売台数予測は自動車全体が3,250万台。そのうち電動車は1,380万台で、かなりの部分をEVが占めると見られる。
• 一方、米国の2030年の自動車販売予測は1,880万台。そのうち電動車の割合は2割強で販売予測は410万台。そのうちEVは100万台未満と見られる。
• 欧州5カ国の2030年の自動車販売予測は1,390万台。そのうち電動車は430万台。PHEVが拡大しEVも伸びるが、HEV(ハイブリッド車)の増加は鈍いと見られる。
• 日本の2030年の自動車販売予測は440万台。そのうち電動車は170万台で、そのうちHEVが大半を占めると見られる。

電動化がもたらす影響

• エンジン車のピークが2024年から2025に終わり、その後エンジン車の市場が縮小して行くと見られる。一方、電動車の市場は拡大するが、自動車全体の割合からすると2030年でも3割強程度。エンジン車・電動車への両面対応が必要となる。

多様化するパワートレイン

• HEV、PHEV、EVの販売比率は世界で地域差があり、市場は細分化する。完成車メーカーはボディタイプ、地域、パワートレインを従来以上に考慮したモデルの投入が求められる。少量多種生産が求められることになる。

対応を急ぐ完成車メーカー

• 電動化が進展するに連れて地域・需要への対応により投入モデル数が爆発的に増え、開発負担、調達負担、生産負担の増大により儲けることが難しい電動車事業となる。少なくとも「負けない」ビジネスを目指すことになる。
• 儲けるところはエンジン車事業だが、縮小市場にある中での対応は容易ではない。高収益車の地域集中、車種の削減などが求められることになる。
• 完成車メーカーの対応策として提案されるのは①選択と捨象(地域、パワートレイン、車型の絞り込み)、②アーキテクチャーの変化(車の作り方を抜本的に変える)、③水平分業化(外注化、システム調達、開発委託、集中購買)、④陣営化(OEM同士での規模の経済追求)。

自動車メーカーの動き

・ トヨタ、マツダ、デンソーはEVの基本構造に関する共同技術開発契約を締結し、JVを設立している。
・ ルノー、日産、三菱自動車は6カ年計画「アライアンス2022」を発表している。
・ GMはポートフォリオ戦略を打ち出している。国・地域の選択と捨象によりエンジン事業の収益力を強化し、経営資源を自動運転等に投入するという思い切った戦略を採る。
・ VWは「ストラテジー2025」を発表、2025年までに電動車を年間200から300万台を販売、80車種の電動車を投入する。

サプライヤーの電動化進展への対応

電動車部品
• パワートレインはこれまで完成車メーカー毎に作られていたが、今後のEVは系列を越えて共通化して行き、少量多種の供給が求められる。また、システムでの供給、開発分担要求など水平分業化が進むと見られる。さらに、グローバルベースでの供給も進むと見られる。

エンジン車部品
• エンジンの集約化が進み、数量が減少、これにより異次元のコスト低減要求の可能性がある。開発分担の要請や新たな競合の出現も予想される。

• 電動車もエンジン車もこれまでの形では対応が難しくなる。より頼れるサプライヤーへ集約され、系列を越えた共通化が進むと見られる。


みずほ銀行産業調査部長の牛窪恭彦氏


銀行産業調査部の斉藤智美氏