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セミナー:
232条にかかる鉄鋼・アルミの関税措置について
背景・米政府の動き・適用除外申請のポイントとは


• 米産業動向セミナー「米国通商拡大法232条にかかる鉄鋼・アルミの関税措置について」が4月12日、JETROシカゴとJCCC(シカゴ日本商工会議所)の共催で開催された。開催地はJCCC事務所に隣接するプレジデンツ・プラザ。
• 232条に掛かる鉄鋼・アルミの関税措置の概要についてはJETROシカゴのディレクター、高橋貴洋氏が、232条発動の背景と適用除外申請手続きに付いてはバーンズ&ソーンバーグ法律事務所ワシントンDCのデイヴィッド・スプーナー弁護士と同シカゴ事務所の山本真理弁護士が、中国の技術移転策についての通商法301条に基づく米政府の制裁措置発動とGSP更新いついてはJETROニューヨークのディレクター、鈴木敦氏が講演した。

• 挨拶に立ったラルフ・インフォルザートJETROシカゴ所長は、米国の貿易政策はトランジションにあり、正確で詳細な貿易政策をとらえるように動いていると述べ、「私見だがNAFTA再交渉は数週間で締結しそうだ。そうなれば日系企業に重要な事柄となる。また、米中貿易の動きも理解しておかなければならない」と述べ、JETROはスピーディな情報を提供するよう最大の努力をしていると語った。

【232条発動の背景と米政府の動き】

• トランプ政権は貿易赤字削減を政策課題としており、大規模な貿易措置をとろうとしている。
・ 米国は1970年代後半から貿易赤字体質だったが、近年は赤字が拡大している。
・ 2017年の米国の輸出額は1兆5467億ドル、輸入は2兆3429億ドルで、約8000億ドルの貿易赤字となっている。
• 貿易赤字の主要原因は圧倒的に中国(3752億ドルの赤字)。次ぎにメキシコ(711億ドル)、日本(688億ドル)、ドイツ(643億ドル)と続くが、対中国赤字は突出している。

鉄鋼

• 2017年の米国粗鋼生産量は約9000万トン、設備稼働率は74%。
• 同生産量はリーマンショック後に6400万トンまで落ち込んだものの、翌年から徐々に9700万トンまで回復した。しかし、輸入増により米国内生産量は2015年から8000万トン後半まで落ち、稼働率もかろうじて70%を維持する状態となった。
• 鉄鋼業界の雇用者数は1998年の216,400人から、2016年には139,800人に減少している。

• 米国の鉄鋼輸入増の背景には中国の生産過剰問題があり、中国から安価で海外に輸出された鉄鋼が、それらの国々で加工され米国に入って来ている。
• 例えば、トルコに輸出されたビレット(鋼片)が鉄筋に加工されて米国に輸出されたり、韓国に輸出された熱間圧延鋼板が由井管に加工されて米国に輸出されている。そのため、米鉄鋼業界や企業は、幅広い国を対象とした包括的な貿易措置を求めていた。
• 米国の鉄鋼輸入額は290億ドルで、カナダ17.8%、韓国9.6%、メキシコ8.6%、ブラジル8.4%、日本5.7%と続く。中国は3.5%と低い。これは2014年以降、米国が中国に対して反ダンピング関税やセーフガード措置をとって対処して来たことによる。

• 中国の過剰生産問題は、鉄鋼・アルミだけでなく、建材全体に亘る。中国の建材の生産量と需要量は世界全生産量の約5割を占めるほど規模が大きい。中国国内の需要が5%上下しただけで貿易に大きな影響が出る。

アルミニウム

• 2017年のアルミニウムの米国内生産量は74万トンで設備稼働率は40%。2017年の米国のアルミ需要量552万トンに対して、輸入は505万トンと9割を占める。
• 国別に見ると輸入の40%超がカナダから来ている。中国は2番手で10.6%、3番手のロシアは9.1%、日本は「その他」に入るほど少ない。
• 米商務省によると、アルミ業界の雇用者数は1998年の13,000人から、2016年には5,000人に減少している。
• 【米国通商拡大法232条、鉄鋼・アルミの関税処置】

• バーンズ&ソンバーグのデイヴィッド・スプーナー氏はブッシュ政権下でUSTRの通商代表を務め、その後商務省の鉄鋼部門に在籍した経緯があり内情に詳しい。

• スプーナー氏の見解では、今回の232条の発動、鉄鋼・アルミの関税措置は、米政府としても非常に異例な出来事。トランプ政権側もどの様に対処して良いか分からないような、初めての事象が起きているという。

関税措置の法律上の根拠

・ 1962年通商拡大法232条は、輸入が安全保障上の脅威となり得る場合、関税または輸入割当を課す権限を大統領に与えている。

• まさにこれを使ってトランプ大統領が鉄鋼・アルミの追加関税措置を発動した。米国では過去に一度しか発動されていない。また、1994年のWTOのウルグアイ・ラウンドの妥結以来用いられたことはなかった。

・ 232条に係わる調査は商務省の産業安全保障局(Bureau of Industry and Security 釘IS煤jに委任されて来たが、同局は輸入や関税について殆ど経験が無い。ここは武器の輸出関係を主にやっている専門家の集団であり、鉄鋼・アルミのノウハウは全く持っていない。
• 国防省は鉄鋼とアルミについて安全保障の脅威ではないと判断したが、商務省は鉄鋼24%、アルミ7.7%の追加関税を課す案を推奨した。

・ 法律に従えば4月中旬まで商務省の推奨を考慮することができるが、トランプ大統領は3月8日に鉄鋼25%、アルミ10%の追加関税を課すと発表した。唐突な発表によりワシントンDCは混乱に陥り、予定されていた企業との意見交換も行われなかった。

対象となる製品

• 対象となる鉄鋼製品とアルミ製品はhttps://hts.usitc.gov/current で見ることができる。
• アルミ缶など、アルミを使った最終製品は対象外となっている。

免除国

• 追加関税措置は3月23日に発効したが、カナダ、メキシコ、オーストラリア、アルゼンチン、ブラジル、EU加盟国は5月1日まで免除となった。韓国は二カ国協定が完結すれば恒久的に免除となる。日本は適用免除国とされていない。
• 上記の国々を見て分かるように、トランプ政権は鉄鋼とアルミの追加関税を、新しい貿易協定の交渉を速やかに行うための材料として利用している。5月1日まで免除となっている国々とは期限までに協定交渉を終わらせたい意向だが、今のところは未定。

適用除外製品

・ 3月8日にトランプ大統領が出した大統領命令は、米国内で十分に利用できる生産量がない鉄鋼製品、または、満足のいく品質で国内生産されていない鉄鋼製品については安全保障も考慮し、適用除外とするよう商務省に指示している。

・ 重要なポイントは、適用除外を申請する会社は米国に所在し、関税措置で直接影響を受ける当事者が申請しなければならないと規定している。

・ トランプ大統領は、商務省が適用除外申請を考慮するにあたり、国務省、財務省、国防省、合衆国通商代表部、国家安全保障会議及び国家経済会議と協議することを求めている。各省庁の意見が分かれる中で難しい要求となっている。

・ 用語で注意する点は、製品に対する適用除外はExclusions、対象国の適用免除はExemptionsと言う。

適用除外プロセス

• 商務省の産業安全保障局(BIS)が、同省の執行・コンプライアンス局(Bureau of Enforcement & Compliance)と共同で、適用除外プロセスを行う。後者は鉄鋼・アルミ業界と関税の適用に十分な経験を持っている。
・ 鉄鋼製品の適用除外申請フォーマットは
• https://www.bis.doc.gov/index.php/232-steel
・ アルミ製品の適用除外申請のフォーマットは
• https://www.bis.doc.gov/index.php/232-aluminum
• からダウンロードできる。適用除外申請に対して異議申し立ての書式もダウンロード可能。

• 申請書には親会社のID、輸入国の記載が求められる。これはFTA交渉のための情報吸い上げとも考えられる。また、記載項目の中には企業が開示したくない情報項目も入っている。

タイムライン

• 申請すると商務省が精査をする期間があり、その後にウェブサイトで申請社名等が提示される。現在数百社が申請しているが、ウェブに掲載されているのは4月11日時点で12社から申請された48件のみ。
• ウェブサイトに掲載されてから認可または拒否の決定は90日となっているが、現状では不透明。

• 認可されても有効期間は1年のみで、再申請が必要となる。拒否された場合は再申請可能。

誰が適用除外を申請できるのか?

・ 申請は、米国での事業活動で鉄鋼やアルミ製品を使用する個人、または団体のみ。これには建設や製造に従事する者、及びエンドユーザーに対する鉄鋼・アルミ製品の供給者が含まれる。

・ 例えば日本の商社の米国子会社販社も申請資格はあるが、純粋な米国の需要家、ユーザーに申請者になってもらうのが重要なポイントとなる。

米国の鉄鋼・アルミ製造者からの異議

・米国内の鉄鋼製造業者は、ほぼ全ての適用除外要求に異議を提出すると見込まれる。しかし、商務省は米国鉄鋼メーカーが全面的に異議を申し立てることは容認しないという見解も表明しているため、適用除外申請はすべき。

未解決問題

• 適用除外申請者は根拠の薄い異議申し立てにどの様に反論するのか、国内企業が出す価格は、商務省の考慮要素に含まれるのか、国内企業が供給する鉄鋼・アルミの納期が商務省の考慮要素に含まれるのかなど、不確定要素がまだ多い。

【通商法301条に基づく対中政策措置発動】

• 通商法301条は、外国の制度が米国から見た時に不公平に映る場合に、その措置の是正を実現するために、大統領に関税引き上げなどの対抗処置を執る権限を議会が与えるという制度。通常時は議会が関税の設定権限を持っている。WTO発足以降余り使われることは無かったが、今回久々に使われた。

• トランプ政権は中国の移転政策について、①中国に投資した米企業に対して中国政府が圧力をかけ、技術移転を要求しているのではないか、②中国企業が米国技術を取得するために政府の支援を受けて買収に動いているのではないか、という観点から調査を実施していたが、黒判定結果が出たことによってトランプ大統領が3月22日に制裁措置発動を指示した。
• これにより米通商代表部(USTR)4月3日、500億ドル相当の約1300品目の対中輸入品に25%の関税を課す案を発表した。
• 中国が対抗措置を発表したことを受け、トランプ大統領は4月6日、追加措置として対中輸入1000億ドル相当に関税を課すことを検討するようUSTRに指示した。

中国の対抗措置

• 中国政府は4月4日、米国原産の大豆、乗用車、航空機、化学品など106製品(2017年、487億ドル相当)に対して25%の追加関税を課すと決定した。米国からの輸入額の3割以上が対象。
• 中国政府は、米国が追加関税措置を発表した場合、更に対抗措置をとる姿勢。
• 一方、習近平国家主席は4月10日に、自動車関税の引き下げや投資の出資比率制限を緩和する考えを示している。
• 米国の産業・農畜産業界は、米国政府に対して中国との建設的な対話を求める声が上がっている


左より、高橋貴洋氏、鈴木敦氏、デイヴィッド・スプーナー氏、山本真理氏