日本語メインに戻る
江戸情景に酔いしれるひと時
シカゴ寄席 さん喬・正蔵 二人会

• 柳家さん喬師匠と林家正蔵師匠による「シカゴ寄席 さん喬・正蔵 二人会」が7月16日、ハーパー・カレッジのパフォーミング・アーツ・センターで開催された。今年で10周年となるシカゴ寄席はすっかりシカゴの夏の人気行事となり、月曜日の夕方にも拘わらず300人近くの落語ファンが集まった。

• 毎年バーモント州にあるミドルベリー大学の夏期講座で落語を通して日本語を教えているさん喬師匠が、その帰りにシカゴに寄って落語を演じてくれる。一昨年前から正蔵師匠もミドルベリーの夏期講座に合流し、さん喬師匠と共にシカゴで落語を披露してくれるようになった。
• シカゴ寄席は毎年M Square Global, Inc. が主催している。開演前に配られる巻き寿司といなり寿司の助六弁当を食べるのも楽しみの一つ。去年と同様に着物や浴衣を着て来た人には5ドルの割引という趣向も盛り込まれ、多くの着物姿が見られた。

• 柳家さん喬師匠は江戸情景をまぶたに豊かに浮かび上がらせる、古典落語の人情話や滑稽話の名手として知られる。日本だけでなく文化庁文化交流使としても海外で日本文化への理解を深める活動を続けている。既に数々の賞を受賞しているさん喬師匠は、昨年4月に紫綬褒章を受章した。

• 高座に上がったさん喬師匠は「今回シカゴで10回目。最初は小さな会だったが、ご協力を頂いたお陰で、今日はこんな大きなホールで、大勢のお客様に来て頂けるなんてありがたい」と10年を振り返った。
• そして、「今日はのんびりと落語を聞いて頂いて、日本の懐かしいものを思い出して頂ければ」と、落語「刻(とき)そば」に入った。

• 鳴きそばがやって来る江戸の町、お客さんがそばを注文して、あれこれ褒めながらそばをすする。鰹出汁の風味が口いっぱいに広がるようなさん喬師匠の食べっぷりに、思わず喉がゴクリ。16文のお代を払う時に「今何時だ?」とそば屋に訊いて、上手く1文をごまかした賢いお客。さて、それを見ていた別の客が同じ手を使おうとそばを注文するが・・・。

• 続いての落語は、正蔵師匠による人情噺「一文笛」。スリにもいろいろランクがあるそうで、すった財布から「この人ならばいくらもらってもいい」と判断する上級スリもいるのだそうだ。
• さて、笛を珍しがって群がる子ども達の中に、貧乏だが武士の男の子がいた。その子が笛を近くで見ようと寄って来ると、店の婆ぁが「銭のない子はあっちへ行け」と罵った。ムカッときたスリは、笛を一本盗んでその子の懐に放り込んでやった。
• 何も知らない子どもは、笛を盗んだと店の婆ぁだけでなく母親からも責められ、長屋の井戸に身を投げた。一命は取り留めたものの意識不明。
• その話を聞いたスリは、右手の人差し指と中指の先をスパッと切り取り、スリをやめると誓った。だが、それだけでは話は収まらない。果たしてどうなるのか・・・。

• 仲入り後、正蔵師匠の落語は「新聞記事」。新聞を読まない八さんは、てんぷら屋のタケさんが泥棒に殺されたことを知らない。その事件を話して聞かせたご隠居は、犯人は挙がった(揚がった)、天ぷら屋だからと落ちを付ける。さっそくその話を人に話して聞かせようと思った八さんは、ご隠居の通りに話そうとするが、なかなかどうも・・・。

• シカゴ寄席のトリは、さん喬師匠の「掛け取り」。大晦日は掛け売りの支払日。いろいろな借金取りがやって来る。去年は死んだふりをして借金取りをごまかした熊五郎だが、今年はその手は使えない。それならば借金取りの好きな芸事で煙に巻こうと知恵を出す。狂歌が好きな大家さんには狂歌で、浄瑠璃好きの借金取りには浄瑠璃で、喧嘩好きには喧嘩で、芝居好きには歌舞伎で、三河万歳好きにはそれでと、熊五郎はなかなか芸達者。熊五郎を演じるさん喬師匠の芸の広さをたっぷり見せてくれた演目だった。

さん喬師匠・正蔵師匠 インタビュー

Q:さん喬師匠、今日の演目は?

• さん喬:郷愁ではないんですが、日本のそういうものを思い起こすような話をさせてもらおうかなぁと思って、「刻そば」と「掛け取り」をやらせて頂きました。
• 刻そばは座がためにはいい話しなんですよ。後半になって笑って下さいますので、頭ではそういうのが役目なんです。次に出てくる人のためにお客様が落語を聞こうかなぁと言う態勢を作って上げなきゃいけない。それはどこでもそうなんですね。

Q:掛け取りは日本の伝統芸能がたくさん出て来ましたね。

• さん喬:掛け取りの方は喋っているうちに、皆様にはそういう芸能が身近にないんだなぁと、ふと感じましたね。
• 例えば、東京とだと「ベン!」と言うだけで笑うんですよ。義太夫の三味線の音なんです。それで笑わないから、あ、そうか、これがまだお分かりにならない。そうなったらこの話はダメだなぁと、反省はしましたですね。
• 若い方にはちょっと分かりにくかったかも知れないが、子どもさんは笑ってましたよ。不思議だなぁと思って。これが落語なんだよって、面白味が伝わって行くんですね。

Q:さん喬師匠は人情噺はなさいませんでしたね。

• さん喬:正蔵師匠がやられたでしょう。それは避けるべきなんですよ。

Q:シカゴ寄席で10周年、お感じになる事は?

• さん喬:枕でも申し上げたように、最初は小さかった。でもお客様は聞いて下さって、喜んで下さって、ともかく蓄積って凄いなぁと思って。
• 東京だって300人集めるのは大変ですもんね。ましてやシカゴの地でいろいろな事でお忙しい平日ですもんね。それで300人来て下さるなんて、凄いことですよ。
• 僕がフランスで初めて落語を喋った時に、日本人の男の子が落語を初めて聞きましたって。それも40年近く前の話ですけど、その子がどこかの国で噺家になっています。
• 去年も文化庁の文化交流で、アメリカとカナダを回ったんですね。その時に、落語って言うのが笑わせるのではなくて自分達の誇りであるという一人の日系三世の方がいらっしゃいましたね。それは若い方だったですけど。楽屋へ訪ねていらして、落語を聞いて日本人でいることを誇りに思いますっておっしゃってました。
• そういう風に、何か胸に触れて来るんですかね。それがやはり大切なことなんだろうなぁと思います。

Q:正蔵師匠、ミドルベリーではどんなことを?

• 正蔵:落語の実演や、質問コーナー、発表会の時に英語で小咄をやって、井上ひさしさんの握手という小説をテキストに、生徒さん達がシナリオを書いて読むというのをやりました。句読点や「・・・」と付くところはどういう意味なのか、考えて朗読してもらいました。

Q:今後、英語の噺は?

• 正蔵:ミドルベリーで日本語を勉強しているアメリカの学生さん達を見ていると、自分も何か英語でやってみたくなるなぁ、英語で落語の良さを伝えることができればいいなって。そんな気持ちがふっと芽生えました。

Q:日本で教え子に会いますか?

• 正蔵:まだそれは私は経験してない。さん喬師匠みたいに、教え子が会いに来てくれたら嬉しいですね。

Q:さん喬師匠、教え子さんは?

• さん喬:去年ミドルベリーで日本語学校を卒業なさった女性の方が、「前座修行を人類学として卒業論文にしたい、だからいろんな事をうんと体験したい」と私の所に来るんで困っているんですよ。昔ながらの前座修行をさせるつもりですが、それが面白い体験であっては良くない。辛いとか、あごで使われるとか、そんな所まで行かないとおそらく学問的な方へ入り込めないと思うんです。
• 楽屋に詰めさせるというのは、(本人に)とっても嫌なことだし、難しい事なんですよ。よその楽屋に行って部外者がいると言う事だけで、みんながもうコミュニケーション取れなくなっちゃうんですよ。それがちょっと厳しいんで、挫折させたらエライことになりますから。

Q:いろいろなお話、どうもありがとうございました


シカゴ寄席の高座をつとめる柳家さん喬師匠(右)と林家正蔵師匠


「刻そば」を演じる柳家さん喬師匠


林家正蔵師匠