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トランプ政権下における日米関係:北朝鮮と貿易
元外務事務次官・薮中三十二氏が講演

• 薮中三十二氏(元外務事務次官、外務省アジア大洋州局長、元在シカゴ総領事)の講演会「トランプ政権下における日米関係:北朝鮮と貿易」が7月13日、シカゴ市内にあるKirkland & Ellis社の講堂で開催された。
• 薮中氏は40年の外務省勤務のうちの殆どを交渉官として過ごす。1980年代から1990年代初めにかけて、日米貿易の交渉に当たる。その後ジュネーブにおいて、ウルグアイ・ラウンドの交渉に当たる。それ以前のケネディ・ラウンドや東京ラウンドの交渉にも関わり、豊富な貿易交渉経験を持つ。
• シカゴ総領事離任後、2004年から北朝鮮との交渉に当たり、北朝鮮には日本代表として3回足を運んでいる。現在は京都の立命館大学で客員教授として教える他、寺子屋を開き将来を担う若者達を指導。その傍ら毎週京都と東京を往来し、北朝鮮や貿易等を含め多くの国際問題について語っている。

【日米関係】

• 薮中氏は「我々は平和と繁栄をもたらす『同盟』と『自由貿易』、この2つに代表される第二次世界大戦後の多国間システムに馴染んできたが、今は歴史的な大きな変遷の最中にいる」と語る。

• トランプ大統領は7月のNATOサミットで騒動を引き起こし、参加国に分離を印象づけた。これは同盟の危機を示唆する。これはアジアや日本にとっても重要事項で、日米安全保障条約は日本のセキュリティのカギであるが、それへの依存はトランプ大統領の方策による。

• フェア・トレイドは多国間関係の中心を成すものだが、カナダで開催されたG7でトランプ大統領とカナダのトルドー首相との不和があらわとなり、G7の時代は終わったと見て取れる。「我々は第二次世界大戦後の70年から次のチャプターに入ったとして、マインドセットを変えるべき」だと薮中氏は語る。
• G7は従来、米国がリードを取り、その他の国が共に前進してきた。また、G7はデモクラシーを支持してきたが、トランプ大統領は気にかけない。

• 同盟はある種の基準に依存するが、過去70年以上に亘って築き上げてきた原則は危機に瀕し、不確実性、はたまた恐れを煽っている。

• 現在のところ、日米関係は良好であり、安倍首相とトランプ大統領の関係は友好で結ばれている。これはトランプ大統領が安倍首相との個人的関係を好んでいることと、安倍首相がトランプ大統領を否定しないところにある。
• 7月のNATOサミットでトランプ大統領はNATO同盟国に防衛費増大を迫った。特にドイツのメルケル首相がやり玉に挙げられた。これは米国の対ドイツ貿易赤字が理由にあるが、対日貿易赤字も大きい。日本をやり玉に挙げていないのは、トランプ氏が安倍氏との個人的関係を重視しているからだと薮中氏は見ている。
• 今のところ安倍氏はトランプ氏との関係構築に成功しているが、いつの日か率直な意見を述べて立ち上がる日が来る。その時のことを考えておくべきだと言う。

【北朝鮮】

• 6月12日の米朝首脳会談は、一年前には想像できなかった歴史的改善だった。もしも米国が北朝鮮に対して軍事行動を取っていたならば、北朝鮮の報復ターゲットは日本だった。少なくとも米国が軍事行動を起こさず、トランプ氏と金正恩氏が握手をしたことは正しい方向への前進だった。

• 6月12日の米朝同意は:
• 米朝関係の構築
• 平和の推進
• 非核化
• 米兵戦死者の遺骨返還

• 薮中氏は3番目の非核化を注意深く読めば「金正恩氏は朝鮮半島の完全非核化に努力することにコミットする」となっている。これは朝鮮半島全体を指しており、金正恩氏の意図は北朝鮮のミサイルと核製造施設の廃棄とともに、韓国にある駐留米国軍をどうするのかという所にある。北朝鮮側の解釈は完全非核化の約束ではなく、努力への言及となっている。
• 薮中氏は、米朝首脳会談は失敗だったと見る。ポンペオ国務長官を始め、米国側の交渉官に同情するという。

日本の立場

• 薮中氏は、日本は北朝鮮の完全非核化について直接的な役割を持つべきだと指摘する。それは:
・北朝鮮の核攻撃の脅威はミサイルが届かない米国とは違い、既にミサイル射程距離内にある日本とっては大きい。また日本は攻撃され易い立場にある。
・北朝鮮による拉致問題が重要であること(1970年代から80年代にかけて北朝鮮が日本人を拉致。北朝鮮は5人が生存し、8人が死亡したと発表している。北朝鮮が送って来た横田恵さんの遺骨は偽物だと日本は判断している)

• これまでの6カ国協議は全て失敗しており、交渉者をもっと上級にアップグレイドすべき。 北朝鮮の長距離核弾道ミサイル開発を廃棄させる限定的な非核化は、日本は受け入れられない。これについて日本はトランプ大統領に明言すべき。

【貿易】

• トランプ大統領は米国の貿易赤字を重要視しており、赤字額の相当な削減を目指している。米国の保護貿易策が強まり、これにより自由貿易に影が落ちている。どの様にトランプ氏に立ち向かうべきか。

• 日本は今のところ、米国の関税政策に対して行動を起こしていないが、米国の追加課税はWTOの原則に反しており、日本はWTOへの提訴を通じて米国の動きに議論することができる。
• 日本の製品はハイエンドなものが多いため、今のところ日本の産業界は広範囲に亘っては影響を受けていない。しかし、今は自動車への追加関税が浮上しており、日本は反対の声を上げるべき。

米中間の貿易戦争は起きるか?

• 薮中氏は40%以上の確率で貿易戦争は起きるだろうと見ている。米国の課税に対し中国は報復課税を発表し、これが繰り返されている。これが継続すれば出口がなく、ソフト・ランディングへの道は閉ざされる。非常に危険な状態にあるが、トランプ大統領に「正しくない」と言う人物がいない。言えば首だと言われるのが現状。G7でも軋轢が強まるばかりとなっている。トランプ氏をどの様に扱うかが今日の頭痛の種になっている。

• 安倍首相とトランプ大統領のカジュアルな関係により日米関係は良好だが、自動車関税、北朝鮮問題など、トランプ氏が聞きたくないような事について日本が声を上げる時がいずれ来る。
• 薮中氏が日本の生徒達に言う「日本が持つ素晴らしいアセット」とはペンス副大統領。インディアナ州知事だったペンス氏は、日系企業が同州にもたらす利益について良く知っており、日米貿易関係の重要性を理解している。

• 一方、トランプ氏の日米貿易に対する感覚は、貿易摩擦が起きていた1980年代のままとなっている。その後、日米ビジネス関係は一変しており、米国に工場を建てた日本企業はその製品を米国から他国に輸出し、米国の輸出拡大の一端を担っている。この様な実態をトランプ氏は理解できないが、ペンス氏は理解している。

• 良好な日米貿易関係を維持するには、日本も何かを米国へ提供すべきであり、準備をしておくべき。日米貿易関係は楽観視できるが、米中、または米欧貿易関係の悪化は日本に必ず影響する。だからこそ、日本も声を上げる時が来る。

日本がとるべき道

• 日本の対米政策は、2年か6年か、トランプ氏の任期によるところが大きい。米国が戦争を含めて論争を世界に広げるならば、自国のことは自国で護らなければならないというのが今の世界が持つ感情。

• 日本も率直な考えを持つべき。日米安全保障条約で米国と一致するだけでなく、日本が持てる3つの政策は:

• 日本がアジアの中心に立ち、論争の仲介者となること。日本の自衛隊は世界で7位か8位の自衛力を持つ。また、日本は過去70年でアジア諸国の信頼を得ている。例えばASEAN諸国は、日本を一番信頼できる国だと考えている。貿易論争や南シナ海の海域侵害、中国の不透明さなどから、彼らが描くベスト・シナリオは日本と中国が手を組む事。

• 日本がアジアの平和建設者となる事。日本が立ち上がり平和を打ち出し、平和に向けた外交政策に固執すること。

• 中国と手を組む事。日本人の間では、中国は信頼するに値しないという感情が強いが、昨今、日中交渉に深く関わる交渉官の間では不思議なことに、日中友好関係に貼り付いている。
• 薮中氏は2008年に東シナ海の油田開発について交渉し、条約締結には至らなかったものの、両国の協力の下で開発することに合意している。
• 日本は尖閣諸島問題など中国と反目する事があるが、文化面、経済面などで協力し合うことができる。

• 薮中氏は、日本は右手に重要事項として日米安全保障条約を維持し、同時に中国や韓国を含むアジア諸国との関係を進展させることが重要だと語る。そして、北朝鮮問題も世話をする。「日米安全保障条約を維持する一方、日本は近隣諸国との関係を養うべきというのが私の考えだ」と薮中氏は語った


講演する薮中三十二氏