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アバター:破壊的イノベーションと輸送の未来像

• 冬のシカゴに居ても、潮風に吹かれながら海辺で読書ができたら、釣りを楽しめたら・・・。アバター技術が近い将来、こんな夢を現実化してくれる。ANAの深堀昂氏(デジタル・デザイン・ラボ=DDLab=アバター・プログラム・共同ディレクター)と梶谷ケビン氏(DDLabアバター・プログラム・共同ディレクター)をシカゴに迎えて、「技術破壊と輸送の未来像」と題した説明会が10月30日、全日空(「ANA」)とシカゴの開発支援チーム「1871」の共催により、マーチャンダイズ・マート・プラザで開催された。

• 説明会のタイトルにある「技術破壊」とは極端だが、その内容はアバターを使ったもう一つの移動手段を説明するもので、現在の航空産業が近未来に崩壊することではない。
• アバターという言葉は、仮想ゲームの中で自分の役割を果たすキャラクターという意味で良く使われるが、ここで言うアバターとは実存する「分身」、ロボットのようなものを言う。
• 例えば、アバター技術を駆使したロボットを南国の海辺に置けば、そのロボットが見たり感じたりする海辺の景色、潮風の心地よさ、潮の匂い、波の音、砂浜の手触りなどを、あたかも自分がその場に居るように感じることができる。アバターによって時空を超え、まさにその場に居るような、感覚的な瞬間移動を可能にしてくれるというもの。

• 世界の人々を繋ぎ世界をより良くすることを経営理念に掲げるANAは、航空機により世界の人々を繋いでいる。だが、飛行機を利用する人は世界人口の6%に留まっており、「残りの94%を繋ぐには全く新しい発想が必要になる、それを可能にする手段がアバターだ」と梶谷氏は語る。
• ANAは中期経営戦略(2018-2022)でアバター事業を始動させるに当たり、「ANA ABATAR VISION」を策定した。

• 元来XPRIZE財団とマーケティングでタイアップしていたANAは2016年に、2018年から始まるXPRIZE財団の国際賞金レースのテーマのコンペティションに参加し、ANAが提案した「ANA AVATAR XPRIZE」がテーマに選ばれた。
• XPRIZE財団とは、技術開発を加速させ世界が直面する課題の解決を目的に、ピーター・ディアマンデス氏が設立した非営利団体で、企業や資産家などがスポンサーとなり賞金レースを実施している。直近ではグーグルがスポンサーとなった「民間ロボット探査機月面着陸レース」がある。同レースは今年3月31日をもって達成チームなく終了した。
• 「ANA AVATAR XPRIZE」採用決定により、ANAは同財団とパートナー契約を結び、10億円の賞金を提供する。パートナー契約を結んだのは、ANAが日本企業初となる。

• 「ANA AVATAR XPRIZE」は今年3月12日に詳細が発表され、向こう4年間に亘るレースが火蓋を切った。深堀氏によると、発表から7ヶ月間で、58カ国から430チームが関心を寄せている。登録終了まで、まだ1年の余裕があるという。

• 一体で様々な用途に利用できる「ジェネラル・アバター」の実用化を実現させるには、ロボティクス、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、センサー、通信、ハプティックス(触覚技術)などの技術が必要となる。「ANA AVATAR XPRIZE」によって世界からの関心を引きつけ、個々に発展している技術を融合することで、アバターの実現を加速することができる。梶谷氏によると、向こう5年から10年で実現可能であり、来年4月には最初のアバターをどこかに設置する予定だという。

• アバターは海辺の読書や釣りなどの娯楽だけでなく、遠隔地での医療サービス、被災地での救助、教育を受けられない人々への教育提供、さらには宇宙開発、月面での建設、深海探査、ミクロ世界の探査など、生身の人間ではできない多くのことを体験したり実現したりする事ができる。

• 大分県にある世界初のアバター・テストフィールドで、宇宙開発・農林水産業・観光・教育・ 医療など、様々な分野で実証実験をして行く。また、JAXAや産業界、国や地方自治体、大学や研究機関と連携し、アバターによる月面施設の遠隔建設などの地上実証も進めていく。

• 深堀氏はアバターを実現していく上で、ショッピング、ダイビング、美術館訪問、医療、教育、建設など、アバターの身近な利用法を世界に発信し、アバターの需要を喚起し、アバター市場の創造を先行させることが重要だと指摘した。そうすればコストを下げ、より身近な利用が可能となる。

• 深掘氏はまた、時間や距離、身体能力といった制限に関係なく「移動」できる技術の実用化は、飛行機の利用を低下させ航空産業を破壊させるものだと誤解されるが、「アバター技術は人と人との交流や関わり合いに取って変わるものではなく、アバターは人間を中心としてコントロールされるものであり、人間の技術と知識の延長戦にあるものだ」と語った。

• ANAのウエブサイトによると、深掘氏と梶谷氏が所属するANAのデジタル・デザイン・ラボ(DDLab)は2016年4月に「破壊的イノベーションを起こす」ことを目標に設置された。社内公募によりエンジニアからキャビン・アテンダントや物流担当など、社内のあらゆる分野から集まった35人により構成されている。

• 深掘氏は東海大学航空宇宙学科を卒業後、2008年にANAに入社した。
• 梶谷氏は米シアトル出身で、米ワシントン大学で航空宇宙工学を学び首席で卒業、ボーイングで787の設計をしていた。2009年に来日、2010年に入社した。

• 深堀氏と梶谷氏は最初、国際賞金レースのテーマとして実質的にA時点からB時点に瞬間移動する「テレポーテーション」を考えていた。XPRIZE創始者のピーター・ディマンティス氏の理解は得たものの、周辺の人々からは失笑されたという。
• 2人はテレポーテーションの技術的な可能性について、研究者を訪ね回った。ある大学教授から「技術的には可能だが、あと100年はかかるだろう」と言われ、テレポーテーションを断念し、アバターにシフトする事になったと語った


「技術破壊と輸送の未来像」で。右からANAデジタル・デザイン・ラボの深堀昂氏、同梶谷ケビン氏、「1871」CEOのベッツィー・ジーグラー氏