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大阪シカゴ姉妹都市ソーシャルサービス交流
米国人視察者から知る、日本福祉の現状

• 大阪シカゴ姉妹都市ソーシャルサービス交流プログラムで大阪の福祉施設を視察した5人のソーシャルワーカーによる報告会が11月13日、ノースイースタン大学で行われた。同プログラムを引率したのは同大学で心理学を教えるタカハシ・マサミ教授で、最初に大阪について簡単に説明した。

大阪市

・大阪市の人口は約260万人(2015年)。高齢者人口は25%で、フロリダ州の23%よりも多い。
・日本の中でも社会福祉を受ける人が多く、1000人に34人の割合。
・移民は人口の4.5%で、日本全国の1.2%よりも多い。
・LGBTQパートナーシップ制度は日本全都市の中で最も進んでいる。

学校制度
By ケイトリン・モリス氏
(ブルックフィールド学校区でソーシャルワーカーを務める)

• ケイトリン・モリス氏は、大阪市・日本とシカゴ・米国の学校制度と社会状況の違いについて語った。
• 日本では9年間の義務教育があり、米国で言えば高校の1年生までが義務教育となる。高校卒業率は96.7%。米国では83%。

• 教育を重視する日本の授業時間は世界でも最長の国の一つ。米国は世界でもかなり短い方。
• 多くの生徒は塾に行く。この費用は自費となるため、低所得家庭の生徒には経済的バリアとなる。
• しかし、日本は全体として考える集団的文化があり、家庭の所得にかかわらず政府が同じ質の教育を提供する。個々の生徒の成績の違いを経済的状況で説明できるのは9%のみ。一方、経済的状況が成績の違いに与えるインパクトは、世界では14%、米国では17%と大きい。(OECD報告より)
• 教員の給料は日本政府と県政府から手当てされ、学校がある地区の所得や住宅価値評価に左右されない。一方米国では、良い学校区にある高報酬の学校を求めるという違いがある。

• モリス氏は以上の報告をした後で、日本は同一民族であり、人種的な多様性や人種分離が無く、米国とは違うことを背景として心に留めておくべきだと述べた。

支援:家庭内暴力と 外国人労働者
By ヒルダ・ヘルナンデス氏
(ウーマンフッド・プログラム・マネージャーで、ユースの指導にも当たっている)

• 日本政府は家庭内暴力(DV)被害者のためのホットラインを設置しており、全国に243カ所のシェルターがある。大阪市には4カ所にシェルターがあり、ヘルナンデス氏らは東成区にある東さくら園を見学した。そこには70ユニットの居住空間があり、新しく生活をスタートさせる母親と子ども達にいろいろな支援を提供している。

• 多くの子ども達はDVにより心理的な障害を受けており、支援がなければ大人になってからも難しい生活を強いられる。
• 具体的にはDVから来る恐れを取り除くための、学校へ安心して通学できるようなサポートがある。また、シェルターは地域コミュニティの支援があり、地元警察と連携して被害者の安全を護っている。子ども達の勉強を見たり支援を改善するための町内会を巻き込んだフォーラム、被害者の信頼を取り戻すカウンセリング、ティームワーク、疎外感を緩和するプログラムなど、多くの支援が行われている。

外国人居住者

• 日本全体の移民数は、人口全体の1.2%。一方、大阪市は4.5%と多い。
• 日本全体における外国人居住者の割合は、中国28.5%、韓国17.6%、ベトナム10.2%、フィリピン10.2%、ブラジル&ペルー7.5%。
• 大阪市における割合は、韓国55.1%、中国27.1%、ベトナム6%、フィリピン2.7%、ブラジル0.7%、ペルー0.4%。

• 多数派の外国人には学校での支援などがあるが、少数派にはないのが現状。また、日本政府には外国人の出身国を分けて考えることがなく、彼らは一般に「外国人」というレベルを貼られている。
• 日系ブラジル人やペルー人は合法的に日本に入国できるが、日本の住民とは見られず生まれた国の国籍を維持している。

多様性受け入れは改善しつつも、遅い

• 食品加工工場で働く多くの外国人労働者は日本語を必要とせず、日本社会に溶け込むためのバリアーの一つとなる。仕事場への往復が主で、言葉の問題から町内会などの活動には参加できず、一般社会から疎外されることになる。
• 子ども達は学校で日本語を学ぶが、家では話さない。また、学校の授業が理解できなくても、親たちが家で助けることができない。従って高校受験に合格できなかったり、道半ばで退学することになる。大人になっても安定した仕事を持つことができず、生活も不安定になる。

• こうした問題から、子ども達は早いうちに子どもを産み、その子ども達も同じ繰り返しのサイクルに落ちてしまう。

• 解決策は①日本語の習得と高校卒業、②日本社会の一員となり、多様性をもたらすことによって日本の将来を担うこと、③日本社会と人口増加に貢献すること。

• ヘルナンデス氏は「解決策はシンプルに見えるが、移民は『日本人じゃない』と言われる日本社会では、ハードルは高い」と語る。

ダイバーシティ研究所

• ダイバーシティ研究所・大阪事務所のディレクターによると、子ども達にチュータリングなど最低限できる支援を提供しているが、参加者は非常に少ないのだという。そういった支援が、子ども達の母国語ではなく、日本語で提供されるため、支援プログラムがあることさえ伝わっていない。多民族が住む米国では、移民の言語で支援の提供が行われるが日本では難しく、外国人のための支援認知は低い状態に留まっている。

日本のソーシャルワーク: 教育とトレーニング
By マーガレット・マイルズ氏
(コンコーディア大学助教授でソーシャルワークを教えている)

• マーガレット・マイルズ氏らは1週間で17施設を訪問した。マイルズ氏は日本のソーシャルワーク教育制度やソーシャルワーカーになった動機について特に興味があったという。

• 米国ではソーシャルワークという専門分野が1920年代に確立されたが、日本ではまだ新しい分野。日本では1955年にソーシャルワーク学校教会が17校によって設立された。
• 2010年3月時点で、日本でソーシャルワークを教える教育機関は4年制大学148校、短大13校、専門学校8校となっている。
• 日本ではソーシャルワーカーになるための教育として学士号取得を強調しており、それ以上の修士号課程はない。

• 米国では州毎にソーシャルワーカーのライセンスを発行するが、日本では厚生労働省の指針によって教育を受け、卒業後は全国的に同じ試験を受け、ソーシャルワーカーとしての認定を受ける。試験には19の項目があり、米国と類似のものもある。

ソーシャルワーク:専門分野としての認識

• 日本ではソーシャルワークが何であるか、認識されているだろうか。米国でも人々によって違う概念が持たれており、専門分野としてソーシャルワークを認識させるのがチャレンジだという。

• 日本の19の試験項目を見ると万能型となっている。米国では学士号レベルでは万能型だが、修士課程では子どもと家庭、精神衛生などの専門分野に深く入っていく。マイルズ氏は日本の今後の教育に関心を持っているという。

• 日本のソーシャルワーカーの動機は何か。ある女性の場合、空腹で下校する「かぎっ子」のためにキッズ・カフェを開いた。この様な場が必要だという情熱に駆られカフェを開き、今は一生の仕事となっている。ある男性の場合は、政府関係の仕事に願書を出し、ソーシャルワーカーとして派遣された。
• この様に日本では初めからソーシャルワーカーを目指すのではなく、結果的にそうなったという人達も多いようだ。

燃え尽きることを避けるためのケアは?

• マイルズ氏は、バーンアウト(燃え尽きること)を避けるための自分自身のケアについて大学の授業で取り上げている。
• 大阪でバーンアウトとセルフケアについて質問したところ、「バーンアウトって何?」、「セルフケアって何?」という返事が返ってきた。これは勤勉を良しとする日本の文化背景があるだろうとマイルズ氏は考える。
• 考え方は三人三様でよいが、日本ではバーンアウトと回避のコンセプトはまだ良く認知されていない。

日本の高齢者ケア
By ベン・ウォーカー氏
(ハーワード・ブラウン・ヘルスセンターでカウンセラーとケース・マネージャーを務める)

• 2014年の数字によると、日本の人口の約25%は65歳以上、米国は約15%。日本はスーパー高齢化社会となっており、2060年には40%が65歳以上という予測がある。
• 日本ではヘルスケアと福祉サービスが充実しており、高齢者フレンドリー社会となっている。一方、少子化の理由には女性の職場進出やキャリア追求で子どもを持たないことや、前世代のように子ども作りに励まないことがあげられる。少子化は日本の危機ともなっており、高齢者サービスのための予算増が必要となっている。また、核家族化も高齢者福祉サービスコストを押し上げている。

• 一人暮らしの高齢者には孤立感がある。これは暗い部分だが、相互依存の価値をもたらすのがソーシャルワーカーの仕事となる。コミュニティへの相互依存の取り込みはハイレベルに行われている。一方、メンタルヘルス面への福祉は米国ほど見られない。
• 町内会を巻き込み、お年寄りにランチを提供する施設もある。ランチは町内会の3ボランティアチームが交代で提供している。ランチ代は500円だが、非常にご馳走。ランチを提供するボランティアも実は高齢者と言われる人々。まさに日本の高齢化社会を反映しているという。

• 身体の不自由なお年寄りへのケアには、状況改善が織り込まれている。例えばプライベートだが政府の予算で運営されている老人ホームの浴室には、滑り止めや転倒防止はもとより、転んで歩けなくなった人の筋肉強化のための体操器具が設置されている。この様な転んだ後のサポートは米国にはないという。

• また、同ホームではスタッフも厚遇されており、顔を合わせながらケアを提供している。スタッフは良くトレーニングを受けており、将来はホームを運営できる人材となる。この様なホームやスタッフ教育は、米国では余り見られないという。

日本のHIV

• 日本のHIV患者は約2万8,000人で、米国の120万人より遙かに少ない。一方、HIV検出を抑制する薬があり、日本では70%から80%の感染者が服用しているが、米国では50%。
• ウォーカー氏らはHIV患者をケアする組織を訪れた。元々はHIVに感染した外国人への翻訳サービスやカウンセリングを提供する組織だった。そこではLGBTQを含めた社会的な「そしり」について話し合った。「そんなことをしなければ、そんな病気にはかからなかった」というような言葉は日本で良く聞かれる。
• 日本では性行為についての教育はない。これが難病リスクについての理解や予防のバリアとなっている。

• LGBTQとはlesbian, gay, bisexual, trans-gender and queerの略。日本は元々ゲイに寛容な国だったが、近代社会ではそしりを受ける。だが、大阪市では今年の7月、同性同士の結婚が承認された。一般的にはLGBTQに対する宗教的な反対や暴力は少ないが、法的な保護は希。反対の性で生きようとするトランスジェンダーには国民皆医療保険が適用されるが、偏見は大きい。一方で、LGBTQパレードなどの草の根活動が活発化している


タカハシ・マサミ教授


ケイトリン・モリス氏


ヒルダ・ヘルナンデス氏


マーガレット・マイルズ氏


ベン・ウォーカー氏