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監督インタビュー:
「翔んで埼玉」、「十年:その空気は見えない」

• 映画を通してアジア文化を米国一般社会に知らせることを意図するエイジアン・ポップアップ・シネマの第8シーズンが3月12日、武内英樹監督の「翔んで埼玉」で幕を開けた。13日には5つの短編映画から成る「十年」が上映され、両日ともAMC River East 21の舞台にそれぞれの監督が登場し、Q&Aセッションが行われた。
• また、16日にはウィルメット・シアターで日系映画「The Ito Sisters」が上映された。

監督インタビュー

「翔んで埼玉」武内英樹監督

• 「翔んで埼玉」は魔夜峰央(まや・みねお)原作のマンガ「翔んで埼玉」を映像化したものだが、マンガのストーリーは未完であり、武内英樹監督が壮大なドラマに仕上げたエンターテインメントの超大作。
• 東京都民の迫害に耐え忍ぶ埼玉県民。彼らが待ち望んでいた救世主・麻実麗(GACKT)がアメリカ帰りの転校生として現れる。麗が転入された超名門校・白鵬堂学院の生徒会長は、東京都知事の息子・壇ノ浦百美(二階堂ふみ)。麗は埼玉県人であることを暴かれてしまうが、麗に心を奪われた百美はすべてを投げ捨て、麗の後を追う。東京が埼玉や千葉に課している通行手形の撤廃を求め、また、東京、神奈川に次ぐ第3の地位を巡り、埼玉と千葉は栃木や群馬、茨城を巻き込みながら大抗争を繰り広げて行く。そして戦いの矛先は意外な方向に向かって行く。
• 荒唐無稽なストーリーだが、衣装やシーンの豪華さに目を奪われ、非現実的な世界を現実的に演じるキャストの演技力により、いつしか現実と非現実の境界を越えてしまう不思議な魅力を持つ映画だ。

Q:未完の原作からどの様にストーリーを展開したのですか?

• 武内:原作は映画の約4分の1、麗が埼玉県人であることがバレて、百美と手をつないで池袋へ逃げて行くところまでしかないんですよ。あとは全部考えました。
• 僕は千葉県民なので、埼玉ばかり脚光を浴びるのは悔しいと思って、千葉県民と埼玉県民が江戸川をはさんで大戦争するというばかばかしいスペクタクルやったら、今まで見たことがないような映画ができるんじゃないかなと思ってこの映画を作ることにしたんです。

Q:二階堂ふみさん、GACKTさん、京本政樹さん、中尾彬さんと、キャストの幅が広いですね。

• 武内:GACKTさんは44歳かな。

Q:GACKTさんに目を付けたのは?

• 武内:差別の話でもあるので、できるだけコメディに振らなきゃいけない、虚構にしなきゃいけない、フィクションにしないといけないと思ってたんです。
• そうするとやはり、GACKTの存在感って彼自体が虚構みたいじゃないですか。そういう人が演じないと変にリアリティが出て、とても危険な作品になると思う。ぶっ飛んだキャスティングにすればするほど、実際の埼玉の人達も「あっ、これはリアルじゃないんだ」っていうサインを感じてくれると思って。また、こういう衣装を着せるのはGACKTしかいないと思って。コスプレ的な部分はちょっと日本っぽくて、結構外国人にも受け入れてもらえるじゃないですか。
• 衣装は本当に一流の柘植伊佐夫さんがやって下さいました。美術に関しては結構こだわって、美しくなきゃいけないと思ってやりました。

Q:白鵬堂学院や麗の都会度をテストする講堂のシーンはとても豪華ですが、撮影はどこで?

• 武内:学校のシーンは群馬の結婚式場、テストする所は群馬県民会館ベイシア文化ホールです。生花をもの凄くたくさん持って行って、結構お金がかかりましたね。
• 真剣にやらないと安っぽくなるんで。ハチャメチャなストーリーだからこそ舞台性とか芝居は真面目にやる。
• キャストの人達にはNHKの大河ドラマを撮っているつもりでやれと言ったんですよ。絶対に笑わせるような芝居するんじゃないって全員に言って、趣旨を分かってもらいました。すると「なるほど真面目にやればやるほど面白いですね」って言ってました。
• 映画を見る人が前半で非現実だと思って見ても、余りにも芝居が真面目だからついその世界観があるかのように錯覚してしまう。そのうちに段々虚構に引きずり込まれ行く、その感覚が面白いのかなと思って。

Q:江戸川を挟んだ埼玉県民と千葉県民の抗争は大迫力ですが、エキストラは何人ぐらい?

• 武内:5000人か1万人ぐらいかな?CGで増やしてはいますが、結構いましたよ。今回は頑張ってエキストラを呼んでくれましたね。やはり少ないとCG感が凄く出るので、元々の数が多いほどリアルに見えて来るんです。
• 田舎のデコトラ(デコレーションしたトラック)もトラック協会の人達が20台ぐらい出してくれて、バイクやヤンキー車、クラシックカーもありましたね。
• だけども、そんなにエキストラを呼べないんで、千葉県側も埼玉側も同じ人がやってます。みんな衣装を変えて、旗も変えて。川を渡って衣装を変えて準備が整うまで、2時間はかかりましたね。
• 東京都庁に押し寄せるシーンも都庁前の4車線を全部封鎖して、デコトラやヤンキー車を走らせました。日本ではあまり撮影に協力的じゃないんですが、最近文化を広めることに少し理解が出てきたみたいで、初めて都庁前の道路を封鎖してくれました。
• ふざけてるって思われるかも知れませんが、都庁前の群衆は、実は東京マラソンのスタート前の映像なんです。新宿通りをどッと走っている映像をよく見ると、ゼッケンが付いている。(爆笑)  もうバレてもいいぐらいの気持ちでわざとやっています。

Q:埼玉のことをかなり侮辱していますが、埼玉の人は大丈夫ですか?

• 武内:埼玉県に行って相当取材しましたからね。最終的に埼玉県民を傷つけたらシャレにならないんで、どこまで言って大丈夫なのかというのをかなり綿密に調査して。

Q:でも相当言ってますよ。

• 武内:気を使ってやっていたら、むしろ「もっとディスってくれ」っていう埼玉県民の方々が多かったんですよ。埼玉って本当に何もないんで、注目されることがないんですよね。で、注目されるだけでまず嬉しいと。(ディスる=disrespect)

Q:佐賀出身の私にとって、関東圏内はすべて都会だと思うんですけど?

• 武内:だから(この映画が)成立してるんですよね。埼玉の人達も田舎者だと思ってないですから、いじめられるのが嬉しい、その不思議なエネルギーで成り立っている映画なんですよね。

Q:男の子である百美が麗に恋しますが、それはLGBTの動きを意識しているのですか?

• 武内:元々原作家がボーイズ・ラブをベースに全作品を作っている方なんですよ。だから彼の作品をやるに当たっては、それは外せない要素です。ただ、完全に男優さん同士でやると、まだまだ日本では一般的ではないので、二階堂ふみさんに男性役をやってもらうことによって緩和しているということです。
• 男同士だったら、もっとマニアックな世界になってしまうので、今みたいな興行収入は出てないと思います。

Q:180億円以上と聞きましたが。

• 武内:今、210億円ぐらい行っていますよ。

Q:監督の所にもお金が?

• 武内:ないんです、全然。フジテレビジョンの会社員なんで、僕のボーナスが30万円ぐらい上がるだけです。それはいいんですべつに…

Q:翔んで埼玉を作った満足度は?

• 武内:いやぁもう、150%ですね。

Q:どうもありがとうございました。

「十年:その空気は見えない」藤村明世監督

• 10年後の香港を舞台に5人の若手新鋭監督達が近未来を描き、世界の映画祭を席巻したオムニバス映画「十年」。社会現象にもなったこの香港版「十年」を元に、自国の現在・未来への多様な問題意識を出発点に、5人の新鋭映像作家が独自の目線で10年後の社会、人間を描く国際共同プロジェクトが、日本・タイ・台湾で、2017年に始動した。

• 日本版は是枝裕和監督が総監督を務め、5人の監督がそれぞれ5つのストーリーを作っている。
・早川千絵監督の「PLAN75」:75歳以上の高齢者に安楽死を勧める映画。
・木下雄介監督の「いたずら同盟」:AIにより理想的な道徳を刷り込まれているIT特区の小学校の出来事。
・津野愛監督の「DATA」:生前の母のデータから実像を結ぶが、良からぬ発見も出て来るストーリー。
・藤村明世監督の「その空気は見えない」:大気汚染で地下に住む子供達の地上世界へのあこがれを描く
・石川慶監督の「美しい国」:自衛隊徴兵制が導入された日本、美しい国とは何なのかを考える。

 シカゴを訪れた藤村明世監督に話を聞いた。

Q:「その空気は見えない」は、そのストーリーから書いたのですか?

• 藤村:はい、そうです。今回は企画コンペみたいな感じで、新人の監督達に10年後の未来を書いたプロット、ストーリーを出すように言われ、約40人の監督がストーリーを出しました。
• その中から是枝監督がストーリーだけを読んで、いいなと思ったものを選んで下さいました。10年後の日本の未来という設定であれば、どういうストーリーを書いてもいいというもので、本当に自由に書きました。

Q:5つのトピックは、上手くバランスが取れていますね?

• 藤村:40人からプロットが集まった時に一番多いテーマが高齢化の問題で、すごく面白いと思いました。
• 映画を見に来てくれた方々も、すごくリアルだという感想でした。5作の中で、お客様はみんな、高齢化問題を一番身近に感じていて、(映画を)作ってから見えた日本みたいなものもありました。

Q:藤村監督はなぜ放射性物質汚染をテーマに?

• 藤村:地下に住むっていう発想は、小学生ぐらいの時にウクライナの子供たちのドキュメンタリーを見たんです。暖かいからマンホールの下で暮らしている子供達がいて、それがすごく衝撃的だったので、それを何か形にしたいなと思っていました。今回、地下で暮らすという風な物語、ああいう世界観になりました。

Q:放射性物質汚染問題もさることながら、子供を危険なことに走らせる母親にも問題があるように思いましたが。

• 藤村:作品を通して言いたいことはたくさんありますが、10年後の未来を考えた時に、原発の問題もそうなんですけど、その母親のように子供の好奇心をすごく抑圧させる未来にはなって欲しくないというのが強くあって、お母さんも悪気があってそうしている訳ではないんですが、その愛が偏って変な方向に行って、子供の好奇心など行動を押さえつけてしまっている大人の象徴みたいな感じで描いています。

Q:映像がとても綺麗ですね。みんなランタンを持っていて、淡いピンクやグリーンの部屋の明かりが幻想的。各家庭に家がなく、地下の一画を各々住居にしているのが地下の生活を感じさせます。撮影はどこで?

• 藤村:あれは福島にあるホテルの廃墟なんですよ。バブルの時にすごく大きなホテルを建てていたんですが、バブルが崩壊して、7割ぐらいで建設が止まってしまったんです。そこで全部撮影しました。でも広すぎて迷ってしまって、撮影現場になかなかたどり着けないことがありました。機械の管がたくさんある所など、いろいろな場所がありました。

Q:女の子が、雨が降ったり蝶々が飛んだりする外の世界を夢見るシーンがありますね。

• 藤村:アニメーションは1分に満たないシーンなんですけど、アニメーターの方が4人がかりで時間をかけて描いてくれました。

Q:是枝監督はどう言われましたか?

• 藤村:編集の途中段階でも是枝監督に見て頂いて、フィードバックを頂きました。子供たちが魅力的だったねって言って頂いて、それがすごく嬉しかったですね。

Q:子供達はどうやって?

• 藤村:事務所に入っている子達で、オーディションをして100人弱の子役の中から選びました。

Q:藤村監督も子供時代に女優を目指したそうですね。

• 藤村:小学生の時は劇団に入っていて女優さんになりたかったんですけど、中学一年生ぐらいの時に初めて映画の現場に行きました。その時に沢尻エリカちゃん、今凄い人気の大女優さんがいるんですけど、その方と同じ現場でした。オーラが凄すぎて、私はあきらめました。裏方に回ろうと思って。(笑)

Q:今後はどの様な活動を?

• 藤村:今回はアジアの共同プロジェクトなので、凄く面白かったんですね。海外の映画祭に行って、タイの映画で社会情勢も聞いたりして。もうちょっと外に出て映画を作りたいなと考える切っ掛けになったので、日本以外でも映画を作ってみたいと思っています。

Q:どうもありがとうございました


埼玉のシンボルでポーズをとる武内英樹監督


武内英樹監督作品「翔んで埼玉」から、GACKT(右)と二階堂ふみ
(写真:エイジアン・ポップアップ・シネマ提供)



武内英樹監督


藤村明世監督