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絆8:東北の職人たち
皆に役立つもの、楽しみとなるものを作り続ける

• 東日本大震災から8年が経ち記憶が薄らいで行く中、シカゴでは「東北の人々を忘れまい」とうミッションを掲げ、3月10日に8回目の絆追悼イベントが在シカゴ総領事館広報文化センターで開催された。
• 今年は被災から立ち直る東北の職人に焦点を当てた「絆8:東北の職人たち」というタイトルで行われている。追悼イベントには福島の和菓子職人、神山典之氏が来訪し、生々しい体験談を語った。また、職人たちの表情をとらえた写真展も各所で開催されている。総領事館や州庁舎トンプソンセンターで展示された他、3月25日から4月5日まで(土・日を除く)定住者会で開催される。
• 一連のイベントはシカゴ姉妹都市インターナショナル大阪委員会、シカゴ日米協会、シカゴ日本商工会議所、日本貿易振興機構(JETRO)シカゴ事務所の共催と多くの寄付支援者やボランティアで開催されている。

語り継がれる津波

• 追悼イベントはアン・シモジマ氏によるお話「The Wave」で始まった。秋のある日、海辺にある村に大きな地震が起きた。高台の家に住むおじいさんは波が沖の方へ引いていくのを見て、子供の頃に祖父から聞いた津波の話を思い出した。海辺にはたくさんの村人が出ていたが、知らせに行く暇はない。おじいさんはとっさに刈り取ったばかりの稲に火を放った。立ち上る黒煙を見た寺は鐘を鳴らし、火事だと思った海辺の村人達がおじいさんを助けるために山を駆け上がって来た。息をつく暇もなく、山のような波が海辺に押し寄せ村人の家々を呑み込んだ。大波は5回押し寄せ、やがて静まって行った。おじいさんのおかげで、約400人の村人は全員無事だった。
• このお話は東日本大震災の記憶をまざまざとよみがえらせた。伊藤直樹総領事によると、この話は1854年11月5日に起きた和歌山県の津波で、国連では2015年に11月5日を公式に「World Tsunami Awareness Day」とした。昨年は48か国から400人が和歌山に集まり、津波についてのサミットが行われたという。

• 司会を務めたローラ・ワシントン氏(シカゴ・サンタイムズ・コラムニスト&ABC7ポリティカル・アナリスト)によると、昨年12月時点での東日本大震災による死者は15,897人、行方不明者は2,535人となっている。

復興とチャレンジ

• 挨拶に立った伊藤直樹総領事は東北の復興に触れ、三陸鉄道リアス線やリカバリーロードなどの3月末の開通、震災前を上回る東北産農産物の輸出の伸びがある一方、まだ3,400世帯が仮設住宅に住み、避難した住民の10%は戻っていないと述べ、東北はまだ多くのチャレンジに直面していると語った。
• 明るい話題として、昨年は仙台空港を利用して300万人以上が東北を訪れ、そのうちの53万人以上が外国人だった。同空港利用者数は震災前年の2010年から106%の伸びとなった。
• 今年はラグビーのワールドカップが釜石市のリカバリー・メモリアル・スタジアムで開催され、来年のオリンピックの聖火リレーは福島で始まる。また、サッカー、野球、ソフトボール競技は福島、宮城の両県で開催される。
• 伊藤総領事は「毎年絆イベントを開催すれば東北の人々のことを忘れない。8年が経ち、我々の友情の絆はより強くなった」と述べ、シカゴや中西部の人々の支援に感謝の気持ちを表した。

• 絆追悼イベントはシカゴ市長やイリノイ州知事が名誉共同会長となっており、JB・プリツカー州知事代理のショーン・ラパリエ氏とラーム・エマニュエル市長代理のリサ・コンキ氏挨拶した。また、シカゴ姉妹都市インターナショナルのエグゼクティブ・ディレクターのレロイ・アララ史が追悼の言葉を述べた。

東北支援活動

• 司会のワシントン氏から、民間による数々の支援活動が紹介された。
• 津波で両親を亡くした高橋章子さんは娘の愛理寿高橋・ブレイディさんと共に、岩手県山田町にある母校を度々訪れ支援活動を続けている。昨年は愛理寿さんが継承弁論大会でグランド・プライズを受賞し、副賞の航空券を利用して、母子で母校を訪れた。愛理寿さんはファンドレイジング活動で200ドルを集め、英語の本を買って同校に寄付した。残念ながら最近の知らせで、同行の閉校が決まったという。
• シカゴ双葉会補習校では、各教室にボトルや募金箱を置き、東北の学校の図書館の建設補助金として寄付している。補習校のダン・奈津子先生が生徒を引率し、絆追悼イベントに出席した。
• また、同じく補習校の今井誠先生率いる「Project Love All」がテニスを通じて東北の学校を支援している。すでに70回を超えるチャリティ・テニスレッスンを行っている。
• シカゴ日米協会では今までに231,000ドルを東北に寄付している。

東北の職人たち

• 絆8のテーマとなった東北の職人たちの取材のため、シカゴの写真家でシカゴ美術大学でも教えている真由美レイク氏と、シカゴ大学博士号候補者のアレックス・ジャニア氏が2018年冬に現地入りした。レイク氏は絆イベントの初回からボランティアを務め、ジャニア氏は2012年に東北に入りボランティア活動をしたことがある。2人は6日間で東北を回り、12人を取材した。レイク氏が写真を撮り、ジャニア氏がストーリーを書いた。写真には、被害を受けた職人たちがそれぞれに、コミュニティに役立つもの、楽しみとなるものを震災の苦境の中から作り出す様子が生き生きと描かれている。

 紹介されているのは
・和菓子「かど屋」の神山典之氏
・酒蔵「二井田本家」の馬場幹雄氏
・張子人形「デコ屋敷大黒屋」の橋本彰一氏
・「二本松市和紙伝承館」の菅野公幸氏
・松永窯の松永和生氏
・缶詰「木の屋石巻水産」の引地みつ恵氏
・「南三陸石けん工房」の厨勝義氏
・オイカワデニムの及川洋氏
・ウォークショップ「バンザイ・ファクトリーの高橋和良氏
・浜千鳥酒造の奥村康太郎氏と新里進氏
・醤油醸造の八木澤商店
・大漁旗の伊藤染工場

福島県の和菓子職人
神山典之氏

• 絆8追悼イベントには福島県郡山市にある和菓子「かど屋」の神山典之氏が出席し、震災時からビジネスの復帰までを語った。また、和菓子作りの実演も行った。

• かど屋は1898の開業で、神山典之氏は四代目。和菓子屋にとって3月は忙しい時期、その日もあわただしく仕事をしていた。午後2時46分ごろ、大きな地震があり屋外に逃げた。大きな被害はなかったが、何百キロもある大きな機械が動いたり、食器棚の食器が落ちて割れていた。
• 小学2年と幼稚園の子供たちは無事だった。ホッとする間もなく津波で多くの犠牲者が出たことを知った。更に福島第一原発の事故が起きた。
• 町中がパニックになり、避難する人達がガソリンスタンドに押し寄せ、スーパーでも食品を求める人々でごった返していた。

• 一夜明けて店を開けたが、道路に車の往来はなく、客の来店もなかった。来るのはお菓子のキャンセルのみという状況が数日続いた。子供たちの学校は休校となり、この先どうなるのかと不安な日々が続いた。
• 両親から県外への避難を奨められ悩んでいた時、市内の陸上競技場に原発事故で逃げて来た人々が一時避難していることを知った。「自分たちよりも苦しい思いをしている人たちがいる。自分に何かできないか」と思った神山氏は、お菓子を食べて心に安らぎを感じてもらおうと、たくさんのお菓子を作った。モチ米でおにぎりも作り、熱々の状態で届けた。
• この経験により「もっと地域のために活動しようと思うようになった」と神山氏は語る。
• 徐々に周辺の状況が分かるようになり、郡山市に残ることを決めた。だが、心配なのは子供たちのことだった。2か月ぶりに学校が始まったが、放射物質の付着を防ぐために毎日レインコートを着て登下校するありさまだった。もちろん外では遊べない。学校も家も窓は締め切ったまま、見えない敵と戦っていた。
• この様な状況下で1年を過ごし、避難すればよかったと悔やんだこともあった。だが、子供たちは厳しい状況下でも笑ったりはしゃいだりしながら元気に適応していた。その姿を見て元気と勇気をもらったと話す。
• 8年が経ち、少しずつ普段の生活を取り戻して来た。その間、県外に住む多くの友人から励ましの言葉をもらったという。「私はこのような体験・経験を生かして、お菓子でたくさんの人々に笑顔を与えていきたいと思います」と話し、遠く離れたシカゴで毎年追悼式が行われていることに感謝の気持ちを述べ、地元の人々にシカゴのことを伝えたいと語った。

最後に

• 震災後「何かしなければ」と追悼イベントの開催を思い立った野毛洋子氏は、当時のシカゴ日米協会のプレジデントだったエド・グラント氏の賛同を得て、2012年に第一回の絆追悼イベントを開いた。
• 震災直後は世界の都市で開催されていた追悼イベントも、ほとんど行われなくなった。イベント開催のためのファンドレイジングも大変になっているという。
• 野毛氏は「でも、シカゴは違う。おそらくシカゴは広域に及ぶプログラムがあり、東北の人々を支援していると思う」と述べ、支援者やボランティアの人々に感謝の言葉を述べた。最後に会場全員で「上を向いて歩こう」合唱し、追悼イベントを閉会した


福島県西郷村にある「松永窯」三代目窯主・松永和生氏 (「絆8:東北の職人たち」写真展より)


絆8写真展


From right: Consul General Naoki Ito, eroy Allala, Risa Kohnke, Sean Rapelyea, and
Tokiko Kimura (R2)


故郷の支援を続ける、実家が流された高橋章子氏と娘の愛理寿さん


補習校の奈津子先生(左)と生徒たち


真由美レイク氏


和菓子作りを披露する神山典之氏


菊の花を形どった和菓子


野毛洋子氏


熱心な参加者が集まった「絆8」追悼イベント会場