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江戸情景、人情噺に引き込まれた夕べ
「シカゴ寄席 さん喬・正蔵二人会」

• 柳家さん喬師匠と林家正蔵師匠による「シカゴ寄席 さん喬・正蔵 二人会」が7月23 日、ハーパー・カレッジのJシアターで開催された。
• 毎年さん喬師匠がシカゴを訪れ落語を演じてくれるシカゴ寄席は今年で11 回を数える。3 年前から正蔵師匠も合流し、さん喬師匠と共にシカゴで落語を披露してくれるようになった。

• 今年はインディアナ日米協会と在シカゴ総領事館の協力で、インディアナポリスでも両師匠による落語会が開催され、170 席の会場が満席となり、ウェイティングリストで待つ人も出るほどの人気となった。

• シカゴ寄席は毎年M Square Global, Inc. が主催している。開演前に配られる巻き寿司といなり寿司の助六弁当を食べるのも楽しみの一つ。去年と同様に着物や浴衣を着て来た人には5ドルの割引という趣向も盛り込まれ、多くの着物姿が見られた。

• 柳家さん喬師匠は江戸情景を豊かにまぶたに浮かび上がらせる、古典落語の名手として知られる。日本だけでなく文化庁文化交流使としても海外で日本文化への理解を深める活動を続けている。既に数々の賞を受賞しているさん喬師匠は、2017 年4月に紫綬褒章を受章した。

• 一方、正蔵師匠も落語協会の副会長を務め、古典落語にも精力的に取り組んでいる。数々の賞を受賞し、2015 年には文化庁芸術祭賞優秀賞を受賞した。
• 落語の他にもテレビドラマや映画への出演、アニメの声優など、幅広い活動で知られている。

• 300 席がほぼ満席となった会場に現れた柳家さん喬師匠は、「日本人には夏の風情で暑さを包み隠す文化がある」と話し、風鈴の音、浴衣姿など、涼しさを思い起こさせる情景を話して観客を頷かせた。

• ナス、トマト、キュウリなどの夏野菜にも風情があったが、昨今では年中出回っている。蕎麦も1年中食べられるが、夏の終わりから秋口にかけて出て来るのが新蕎麦だと、ゆっくりと落語「そば清」に入った。

• 蕎麦の発祥の地は大阪だが、東下りで江戸に広がり、町内に一軒ぐらいは必ず蕎麦屋があった。そこに若い連中が集まってワイワイやっている。
• ある日、蕎麦の食べっぷりのいい男が現れた。10 杯を平らげた男に感心した常連客達は、20 杯食べたら賞金を出すと賭けを持ち掛けた。「いやいや20杯はとても…」と言う男は、難なく20 杯を平らげた。30 杯でも同じだった。男は蕎麦の大食いで有名な「そばっ食いの清兵衛」だった。掛け金で儲け、既に家を3軒も建てたというウワサもあるほど。
• 掛け金を取られて悔しい常連客達は、今度は50 杯はどうだと持ち掛けた。流石に返事を先送りした清兵衛は、旅先で消化の妙薬を手に入れた。意気揚々と蕎麦屋に戻り50 杯にチャレンジする清兵衛だが…どんな結末が待っているのか。

• 林家正蔵師匠の最初の演目は、夏の夜にピッタリの「一眼国」。ろくろ首など、祭りの出店には必ずある怪しげな見世物小屋の情景も語ってくれた。

• さて、中入りを挟んで舞台に戻った正蔵師匠は、涼を呼ぶ北海道巡業の話を始めた。狭い日本でもまだ行ったことのないところがある。その一つがスズランで有名な室蘭だった。室蘭限定という言葉に惹かれ、スズランの芳香剤を20 個も土産に買った正蔵師匠、包みを開けてみると「製造元・東京」と書いてあった。

• 「旅は面白いこともあれば、大変なことも。今日は皆さんと一緒に、滝を見に行きたいと思います」と、正蔵師匠は「鼓ヶ滝」に入った。

• 歌行脚に出た旅人が、鼓ヶ滝を訪れて「伝え聞く鼓ヶ滝へ来て見れば沢辺に咲きしたんぽぽの花」と詠む。うたた寝をしてふと目覚めると、辺りは真っ暗。灯りを見つけてその家の戸を叩くと、お爺さん、お婆さん、孫娘の3人が住んでいた。
• 粥をふるまわれたお礼にと旅人が先ほどの歌を披露すると、歌好きというお爺さんが「ここをこう変えると良くなる」とアドバイスした。なるほどと思って手直しを受け入れた旅人に、今度はお婆さんが「ここはこういう風に」と挑発的にアドバイスする。ムッと来る心を抑えて受け入れると、更に孫娘が「そんな言葉は赤子でも言える。ここはこういう風に…」とアドバイスする。一度は声を荒らげた旅人だが、矛先を収めて「なるほど」と受け入れると、歌は「音に聞く鼓ヶ滝をうち見れば川辺に咲きしたんぽぽの花」と見違えるほどの名句となった。
• 木こりに起こされた旅人は我に返り、木こりから夢に出た来た3人の話を聞くのだった…。

• 最後の演目は柳家さん喬師匠の「抜け雀」。小田原宿の宿屋に30 前後の男が泊まり、毎日大酒を飲み暮らすばかりで、6日経っても出立する様子もない。宿賃を心配した亭主が支払いを求めると、絵師だという男は宿賃の抵当(かた)にと衝立に5羽の雀を描き、「戻って来るまで預けておく」と言い残して去って行った。
• 翌朝亭主が雨戸を開けると、衝立に描いてある雀が羽ばたき、外で遊び飽きるとまた戻って来て衝立に納まった。これが話題を呼び、宿屋は増築しても間に合わないほどの宿泊客で溢れた。噂を聞いた殿様が千両で買い上げると申し出たが、律儀な亭主は「預かり物」として売らなかった。
• そんなある日、供の者一人を連れた老人が宿屋にやって来た。さて、何が起きるのか…。
• 宿屋の亭主、若い絵師、宿に来た老人、そして羽ばたく雀の姿が瞼の裏に浮かぶような、さん喬師匠の人情噺だった。

さん喬師匠、正蔵師匠に訊く演目

• 正蔵師匠:今まで続いている会ですから、今までの演目と重ならないように、師匠とご相談させて頂いて選びました。夏ですので、ちょっとお化けが出て来る噺をやってみようと思いました。

• さん喬師匠:私たちの世界では、本当はお客様の様子を見て演目を決めるのが当たり前です。ですから、シカゴ寄席も日本でやるのと何も変わりはないんですね。

• 正蔵師匠:お客様が聞き上手になって来ておられる。「話下手、聞き上手に助けられ」という言葉がありますけども。
• 今日は鼓ヶ滝をやりましたが、皆さんが鼓をご存知かどうか、舞台に上がる前にさん喬師匠に訊きました。師匠が「今日は絶対に大丈夫」とおっしゃって下さったので、鼓ヶ滝をやりました。

• さん喬師匠:例えば「うわばみ」のように、一つの言葉が分からなくても、こちらの動き方でどういうものかを想像して自分の世界を作って下されば、それでいい訳ですよ。それが落語のいいところですよ。

Q:どうもありがとうございました。


柳家さん喬師匠


林家正蔵師匠