日本語メインに戻る
JETROエネルギーセミナー
米国石油業界を取り巻く市場・政策動向

• シェール革命後生産が急増し、原油・天然ガスの世界最大産出国となった米国の石油業界を取り巻く環境と世界に与える影響は何か。また、エネルギーで世界制覇を目指すトランプ政権の政策とは何か。JETROシカゴ事務所の上村真氏(エネルギー担当ディレクター)によるセミナーが8月22日、JCCC事務局ビルに隣接するプレジデンツ・プラザで開催された。同セミナーは、JETROシカゴとJCCCの共催で開催された。

シェール革命と米国石油産業

• 既に世界最大の原油・天然ガス生産国となった米国のエネルギー業界は益々好調。
• 米国では1900年代初期にテキサスで大油田が発見され、以来生産量は増え続けた。1970年代をピークに原油生産量は落ちたが、2008年頃に起きたシェール革命により、米国の原油・天然ガスの生産量は急伸した。この1、2年はシェール革命第2段階と言われ、更に急伸している。
• 1921年には日量百数十万バレルだったものが、2018年には日量約1,095万バレルを記録し、前年比17%増、過去10年で2.2倍に増加した。(1バレル=159リットル)

• シェール革命:技術革新により非常に硬い頁岩(けつがん)の中に入っている原油や天然ガスを取り出すことができるようになり、商業的に利益が出るようになった。
• 従来の垂直な井戸とは違い、底部から水平にパイプを伸ばし、そのパイプの各所に穴をあけて原油やガスを集める。

• 主要なシェールオイル鉱床は、テキサス州のバーミアンとイーグル・フォード、ノースダコダ州のバッケン。この3カ所で米国原油生産量の55%を占める。
• 主要なシェールガス鉱床は米国北東部のアパラチア山脈沿いのマーセラスやユチカと上記のテキサス州。

原油・ガスの増産の環境とその影響

プラス要因:
• 原油・天然ガスの増産が進んでいるが、2015年の後半から2016の後半にかけて原油価格が非常に落ちた。その間に効率的な生産・経営ができる技術が進んだ。

• トランプ政権による環境規制緩和政策、税制改革法による減税が石油産業の追い風となり、米国内のタイトオイル・タイトガス開発、インフラ設備、製油所能力拡張、石油化学設備、天然ガスに随伴して産出するNGL(天然ガス液)の輸出基地などへの投資を後押した。
• 特にNGLから分離されるエタンはポリエチレンの原料となり、石油化学プラントの建設ラッシュを引き起こしている。また、NGL由来の製品輸出も増加している。

マイナス要因:
• 石油産業は鉄パイプを多量に使う。米国通商拡大法232条による鉄鋼・アルミへの追加関税がマイナス要因となったが、それを乗り越えて現在も好調。

世界への影響

• シェール革命で原油生産量が急増した米国は、首位を争っていたロシアとサウジアラビアを抜き、世界最大の産油国となった。原油自給率が低かった米国は、中東やその他の産油国に強く出られなかった。ポンペオ米国務長官は、シェール革命が世界を変えるゲーム・チェンジャーだと述べているという。
• その他の主な産油国はカナダ、中国、イランだが、各々の産油量は米国の半分にも及ばない。

米国内原油生産量

• 米国の原油生産の日量は2019年7月段階で約1200万バレル。ちなみに日本で昨年処理した原油量は日量306万バレルで、米国はその4倍を生産している。
• 米国産の原油の特徴は、軽く硫黄分が少なく性状が良い。米エネルギー省は、米国の生産量は今後もまだまだ伸びて行くだろうと見ている。

• シェールオイル増産は儲かるのか?ブームは続くのか?
• 新たに井戸を掘る新規坑井損益分岐点は1バレル当たり50ドル以上。原油価格が50ドルを超えていれば開発できる。
• 一方、既存坑井限界コストは30ドル台半ば。これを下回れば損になる。2016年には当時の限界コストの34ドルを下回った。
• 2019年7月の国際指標価格(Brent)は63ドルだが、米国内指標価格(WTI)は56ドルで50ドルに近づいている。新規坑井への投資は若干控え気味になっているのが現在の状態だという。

シェール坑井

• 生産が一番活発なパーミアン鉱床における平均的な水平坑井の長さは、2013年の5,000フィートから今年第2四半期は8,500フィートと大きく伸びており、坑井当たりの生産量が増えるという技術革新が続いている。
• また、同地区ではエクソンやシェブロンなどの巨大企業が非上場企業の買収によりシェアを広げ、生産性も上がっている。

掘削済み未仕上げ(生産開始前)の抗井数推移

• 井戸を掘ったまま生産が開始されていない掘削済み未仕上げの坑井(DUC)数は、昨年まで増え続けていたが、今年に入って横ばいとなっている。
• DUCは言わば在庫のようなもので、原油を生産しているのは掘削した坑井の約8割。これは原油価格を見ながら売るという業界の一手段でもある。米国内の5つの鉱床だけで約8,000本の坑井があるという。

確認埋蔵量

• 確認埋蔵量とは商業的に成り立ち、現在の技術で掘り出せる原油の量がどれ程あるかという事で、シェール革命のような技術革新が起きると埋蔵量は増える。
• 2016年と2017年の確認埋蔵量を比較すると、原油は20%、天然ガスは36%増えている。

• 米エネルギー省による米国原油生産量見通しによると、硬い岩盤にあるタイト・オイルの生産増が続き、2020年には日量1,500万バレル、2034年頃までには1,500万バレルを超える生産が続き、2040年まで1,400万バレルを上回る生産量を維持する。

原油・ガスの輸出増加

• 米国の原油や天然ガスの増産が、世界貿易に影響を及ぼしつつある。
• 米国は元来「Energy Independence」を謳い、自給率を上げるために輸出は原則的に禁止していたが、2015年末にオバマ政権が解禁した。現在はトランプ政権が原油・天然ガスで覇権を取る「Energy Dominance」を謳っている。

• 米国の原油輸出は解禁後右肩上がりで増加し、輸入はかつての日量1,000万バレルから現在は800万バレルを下回る水準となっている。ネット輸入量は日量1,000万バレルから400万バレルまで低下した。
• 現在も輸入しているのは、重く硫黄分を多く含む性状の原油を安く買い処理する設備を持つため。
• 輸出に力を入れるのは、国内取引価格のWTIよりも国際価格のBrentの方が高く、国際市場に出した方が利益が高く、軽く硫黄分が少ないという性状に商品価値があることが要因となっている。

• 米国の原油輸出量は2016年の日量60万バレルから、2019年は5月には280万バレルに増加している。主な輸出先はカナダの東部、中国(貿易摩擦により昨年8月以降は減少)、韓国、台湾、シンガポール、日本、オランダ、イタリア、イギリス、南米など多様化している。

• 米国の原油輸入相手国は、NAFTA(USMCA)圏内からの輸入が半分以上。ベネズエラとサウジアラビアも多かったが、ベネズエラは経済制裁のため今年2月から大幅に減少、サウジアラビアもかなり減少している。だが米国の原油の輸出入の両建ては続く。

パイプライン、輸出基地

• 原油生産の好調で、産地から輸出港があるメキシコ湾岸地域を繋ぐパイプライン工事が活発化している。
• 2018年12月の米金融情報企業のMorningstarは、メキシコ湾岸地域で15の原油パイプライン増強計画があり、これらがすべて実行されると日量770万バレルの送油能力が追加されると報じている。

• 米国には原油の大規模な輸出基地は3つしかない。そのうち大型タンカーVLCCが着岸できるのはルイジアナ・オフショア・オイル・ポートのみ。
• 他の2つ、テキサス州にあるシーウエー・ターミナルとMODAイングルサイド・ターミナルは港が浅く、大型タンカーを沖に留めて中継ぎしている。水深を深くするなど、港湾の整備にも大きく投資が進んでいる。

米国産天然ガス・NGL
(天然ガス液)の現状と見通し

• 天然ガスでも米国はロシアを抜いて、世界最大の生産国となっている。
• 天然ガスの生産は、ペンシルベニア、ウエスト・バージニア、オハイオなどアパラチア山脈沿いの地域で非常に増えている。これが原油との大きな違い。

• 今年2月の年次エネルギー展望のベース・シナリオによると、シェール・ガスの生産は伸び続け、2050年の予想でも右肩上がり。
• トランプ政権の政策は、アパラチア山脈沿いに石油化学プラントを建設して経済活性化を図りたい意向。

天然ガスの輸出入

• 国際的に価格競争力のある天然ガス(LNG)を液化し、アジアなどへ輸出する。
• 現在動いているLNG輸出ターミナルルは3カ所のみだが、今までのLNG輸入基地を転用して多くのLNG輸出基地が2022年にかけて稼働を開始する。大阪ガスなど日本のガス会社も輸出基地に投資している。

天然ガス液(NGL)

• 天然ガスが出ると、天然ガス液が一緒に出て来る。生産量は日量約450万バレルで2030年には600万バレルまで増加すると予想されている。
• NGLの主な成分はエタン4割、プロパン3割、ブタン、天然ガソリンなどで、日本はプロパンの最大輸出先。
• 2011年の日本のLPガス依存は、中東87%、米国1%だったが、現在は中東24%、米国70%に逆転している。
• (※シェール革命は日本のLPガス業界に大きく影響している。今後同様なことが石油化学製品にも起きると予想されている。)
• NGL由来の石油化学関連事業の進展

• シェール革命による影響はポリエチレンにも及び、米国の生産が非常に増える。生産増加によるアジア輸出が予想される。

• NGLの4割がエタンで、これを使ってエチレン、更にプラスティックなどの材料になるポリエチレンを作る。ポリエチレンの需要はアジアを中心に非常に伸びると予想されている。

• NGLをエタンやプロパンなどに分離する精留塔がテキサス州モン・ベルビュー周辺に多く建設されており、日量200万バレルという世界最大のNGL精留能力を有している。また、2.5億バレルの貯蔵能力を持つ。テキサスやルイジアナでは化学会社や大手石油会社によるNGL精留塔建設投資が非常に多く立ち上がっている。

• 一方、アパラチア山脈沿いの地域のNGL貯蔵能力は約900万バレル。テキサスに比べるとインフラ面で遅れているが、シェルなどに投資の動きがあるという。

米国石油精製業界をめぐる状況

• 米国は原油の処理能力でも世界一で、伸び続けている。
• 原油から石油製品を作る能力は、メキシコ湾岸地域が53%、2番目は中西部で2割、あとは西海岸と東海岸。全体の処理量は現在日量1,880万バレルで、日本の約5倍。

• 石油製品全体の約半分がガソリンだが、今後ガソリンの消費量は減って行く。これはEV車によるものではなく、ガソリン車の燃費の向上が一番の原因。一方、走行距離は増えている。

• 米エネルギー情報局によると、米国内の石油製品の需要は、2036年には2017年比で6%程度減少する見込み。米製油所は90%以上の稼働率を維持し、価格競争を生かして20年間にわたり石油製品輸出を拡大して行くシナリオ。現在の輸出先は中南米だが、5年後から10年後には輸出先の拡大が起こり得るという。
• (※石油製品の需要は減少して行くが、熱量ベースで言えば石油はまだ一次エネルギーとしては最大。化石燃料が2050年でもまだアメリカの一次燃料源として圧倒的に多い。)

トランプ政権のエネルギー政策

• 原油・天然ガスの生産・輸出を通じてエネルギー覇権を目指す。そのためにオバマ政権時代の環境規制を悉く緩和した。

• 過去1年に提案されたトランプ政権による主なエネルギー関連政策は5つ、①農業政策と関連したバイオ燃料の利用促進、②自動車燃費規制緩和によるガソリン需要維持、③州、市など地方政府と重複した規制に関して、連邦法を緩和する(メタンガス排出規制や二酸化炭素排出削減目標の緩和)、④エネルギー・インフラ事業の承認手続きのスピードアップを目指す承認権限の変更、⑤鉄道によるLNG輸送を可能にするための規制緩和。

バイオ燃料

• バイオ燃料の利用促進は非常に大きい。
• 米国ではエネルギー自立安全保障法で、輸送用燃料にバイオ燃料の混合が決まっており、2022年までのバイオ燃料の使用量目標がある。しかし状況が変わり、バイオ燃料が国内需要を上回っている。輸出か需要の拡大がその対策となり、ブラジルやカナダに輸出している。
• 需要拡大では、ガソリンに10%混ぜていたエタノールを15%に引き上げることを可能にする規則改正を最近実施した。中西部のトウモロコシ農家のロビー活動の影響は大きい。
• しかし、エタノールは揮発性が高く、多くの自動車会社はエタノール15%のガソリンで故障が起きた場合は保証の対象外にしている。この様な対応があるため、15%混合の実施までには数年かかると見られるが、エタノールは増えて行くと予想されている。

燃費規制の緩和によるガソリン需要の維持

• オバマ政権時代に2025年には乗用車などの燃費をガロン当たり54.5マイルに引き上げる燃費基準を決めた。
• トランプ政権はこれを2020年型から43.7マイルに緩和しようとしている。これに対してカリフォルニア州他13州が対立している。
• これに関して今年7月、カリフォルニア州大気資源局と、フォード、ホンダ、BMW、フォルクスワーゲンが、トランプ政権の基準よりも厳しいが元来の基準よりも若干緩い自主的な新燃料基準に合意した。これは企業平均燃費を2026年にガロン当たり50マイルにするもの。


講演する上村真氏