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日本の生徒はなぜ数学が良くできる?
秘密を探る講演会「日本の数学」by 高橋昭彦氏

• 日本の生徒はなぜ数学が良くできるのか? その秘訣とは何か? 高橋昭彦氏(デュポール大学准教授)による講演会「日本の数学教育」が8月29日、主催者のシカゴ日米協会で開催された。

TIMSSビデオ研究で分かったこと

• 米国では1990年代後半から2000年代初めにかけて数学教育に興味が持たれ、米教育省によるTIMSS(The Third International Mathematics and Science Study)ビデオ調査が行われた。同省は米国、ドイツ、日本の8年生の教室にビデオカメラを持ち込み、数学の授業がどの様に行われているかを調べた。調査した教室数は、米国81、ドイツ100、日本50。日本が少ないのは調査対象が50でも100でも変わらないと言う見方によるもの。

• 米教育省は数百万ドルをかけて同調査を実施・分析した。その結果、米国内の数学教育はどのクラスでも殆ど同じ教え方で、他の2国とは非常に異なることが分かった。

• この調査結果は1999年に出版された「The Teaching Gap」(著者:J. Stigler & J. Hiebert)
• に表されている。

問題解決と論理的思考を育む日本のアプローチ

• 米国の数学者らは、米国の数学教育改善に日本の数学教育が良い例となると見ている。
• 日本の数学の教師らは、問題の解き方を説明する前に生徒に問題を出す。米国では常に問題の解き方を教えた後で問題を出す。

• 米国の数学者らは、まず生徒自身に問題を解こうとさせることが重要だと提案しているが、米国の教師らはこのやり方に躊躇していたという。
• 米国では1980年代に問題解決をメインにする動きがあったが、実現には至らなかった。一方、日本では米国の数学者の提案を真剣に受け止め、80年代から90年代にかけて問題解決をメインにする数学教育にシフトが行われた。特に小学校では90年初期までに問題解決を基本とする教科書を使うようになった。

良く教える数学が失敗の元に

• 数学者ショーンフェルド氏によると、生徒にとって良く教えられることが大失敗に繋がるという。
• フォーマル・マスマティクスで答えの検証のやり方を教えられても、生徒に発見や創案は育たず、教えられたことを問題解決に使えない。問題が解けなければ数分で止め、その問題をスキップしてしまう。実際にテスト問題に5分をかけても解けなければスキップして次の問題に行きなさいと教える先生も多い。

• 生徒の間には天才だけが数学の問題が解けるもので、自分は出来なくても良いという消極的な学習態度を持つようになる。だからこそ生徒にもっと問題について考える機会を与えるべきだと高橋氏は語る。

TIMSS調査結果

• 2003年にTIMSSが4年生を対象に調査を実施した。TIMSSが指定した数学の課題を、調査対象国の学校が授業で教えておき、その後調査するというもので、その課題は既に教えている国もあれば、それほど取り上げていない国もある。
• 調査結果を見ると、国際平均では73%の生徒がTIMSSの数学課題を教えられており、正解率は53%だった。
・ シンガポールでは82%が教えられており、正解率は74%。
・ 米国では82%が教えられており、正解率は58%。
・ 日本では54%が教えられており、正解率は69%。

• 高橋氏は、1990年代初めまでに問題解決に重点を置く数学教育に移行した日本では、4年生になるとそのやり方に親しんでおり、過去に見たことのない問題でも自ら解決しようとする力が育っていることが分かるという。

• OECDの国際的な生徒の学習到達度調査「2015年教育ポリシー・アウトルック」によると、日本のスコアは読み取り、数学、科学ともトップ。今年3月の同調査ではトップではないが、スコアは十分に高いという。
• 日本の生徒の社会的、経済的環境による学力へのインパクトは9.8%と一番少ない。一方、米国では同インパクトに40%の差があり、また、都市部と過疎地では学力に16%の差がある。

考える数学

• 米国の数学者は考える数学について、問題解決を考えると同時にその過程を振り返ることで改善でき、矛盾や緊張、驚きによって誘発され、質問したりチャレンジする雰囲気によって支えられると述べている。高橋氏は、多くの数学教師は教室での対立や緊張を好まず、避けようとすると話す。しかし、調査を見れば、生徒の考える数学を発達させることは重要だという。

問題を考える

• 図1のような図形を一本の線で真っ二つに分けるにはどうすればよいのか?
• 正方形の折り紙は2つに折れば半分になる。縦、横、斜めに折っても半分になる。もっと発展させれば、角と角を合わせなくても、折り紙の端から中心点を通って反対側の端へ線を引けばちょうど半分にする事ができる。では、正方形と長方形が組み合わさっている場合はどうするのか?
• これを先に教われば簡単だが、自分で考えつくのは簡単ではない。だから教えるだけでは生徒が自分で答えを出す助けにはならないと高橋氏は語る。

• また、高橋氏は「数学を教える目的は、生徒が自ら考える力を発達させるように誘発することであり、答えを正したり、式を覚えさせることではない」と語る。
• 更に、答えを出すことがゴールではなく、複数の解決法を見出す事ができるように導くことが数学教育の目的だと語る。だからこそ問題解決へのプロセスがより重要となるという。
• この過程で黒板の使用が大事となる。複数の生徒のアイディアを黒板で比較して見せ、生徒にノートを取らせ、生徒から出たアイディアをヴィジュアル化することが教育者の重要な役割となる。

数学教育者の3つのレベル

• レベル1の教育者は数学の基本的知識を持ち生徒に教えることができれば、誰でも数学の先生になれる。高校生でも妹や弟に教えることができる。だがプロフェッショナルとは言えない。

• レベル2の教育者は、数学について生徒が理解できるように説明できる教育者を言う。だが、例えば432を3で割る割り算を紙と鉛筆を使って計算する時に、なぜ割られる数(432)の左側から割って行くのか、説明できる必要がある。

• 計算機があるのになぜ紙と鉛筆による計算に多くの時間を費やすのか。これは数字の意味の理解や、足し算、引き算、掛け算、割り算における数字と数字の関係を理解するのに重要となる。また、どんな掛け算にも使う九九にどんなメカニズムがあるのか説明できるのがレベル2の教育者となる。

• 本当のプロフェッショナルと言えるのはレベル3の教育者。このレベルの教育者は生徒に数学の基本を理解させる機会を提供し、練習問題を開発し、生徒が自ら数学を学ぶように支援しなければならない。こうした学習を企画できなければならない。
• 高橋氏は「残念ながら米国の殆どの先生はレベル1。レベル2の先生に当たれば幸運な方。日本では1980年代から90年代にかけて、レベル2から3へのシフトが行われた」と語った


日本の数学の教え方を説明する高橋昭彦氏(デュポール大学准教授)


図1:1本の線で真っ二つに分けるには?


考えられる複数の答え


考えられる複数の答え