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筋肉はどうやって動くの?
興味津々「シカゴ在住若手研究者による研究発表会」2

 第3回「シカゴ在住若手研究者による研究発表会」で、久保田智哉氏は「骨格筋チャネル病」という難しい病気の原因をどの様に突き止めて行くかについて発表した。久保田氏は、日本では大阪大学大学院医学系研究科
神経内科の臨床科に所属していたが、現在はシカゴ大学の生物学分子生物学課でポストドクター研究員として研究している。

 私達にはものを考えたり動く指令を出す大脳、バランスをとったりする小脳、呼吸や意識などに重要な役割を果たしている脳幹、全部の神経の導線となる脊髄があり、脊髄から細い神経(末梢神経)が筋肉や皮膚に分布している。脳から指令を送って筋肉を動かしたり、皮膚から何かを感じるような回路を神経回路と呼ぶ。これは電気回路の様なもので、断線すればすぐに問題が起きる。身体の中で電気シグナルを司っているのがチャネルと呼ばれるもので、タンパク質から成っている。

「何故そこが悪いのか」
遺伝性神経筋疾患のメカニズムを調べる

 例えば、なぜ筋肉がおかしくなったのか、その原因を見つけるのは容易ではない。遺伝子の異常が見つかったとしても、それが症状の原因であると一言で言ってしまうことはできない。
遺伝子にはタンパク質になるエクソンという所と、それ以外の部分がある。エクソンという部分が集まって、mRNA(メッセンジャーRNA)というタンパク質の設計図のコピーが作られて、タンパクが作られて、タンパクが集まって細胞ができる。その細胞が集まって臓器、身体ができる。これだけのステップがあるので、診断のプロセスは以外に難しいという。

 ミオトニー症候群と呼ばれる希少難治性筋疾患を持つ男性の場合、発達した筋肉を持っているが、それは筋肉が肥大しているもので、歩くのもやっとという位に筋力が弱い。ギュッと手を握ると、ゆっくりとしか開けない。一体何が原因なのか。

 筋肉に針を刺して放電状態を調べると、通常であれば筋肉の放電は針を刺した時だけに起き、あとは静かになるが、この男性の場合は筋肉を動かしていなくても脳から筋肉に信号を伝える活動電位が自立的に連続して出ていた。

活動電位とは何なのか?

 私達の細胞は、細胞内の方が電圧が低く維持されている。電気シグナルを司るチャネルにはナトリウム(Na)チャネル、カリウム(K)チャネル、クロライド(Cl)チャネルの3つがある。
Naチャネルはナトリウムしか通さない、Kチャネルはカリウムしか通さないという選択性があり、そのバランスの中で細胞の中が陰性に振れるような形で維持されている。

 頭で手を動かしたいと思ったら、刺激電流として電流が流れ筋肉に到達する。徐々に電流を加えられることによって筋の細胞膜の電位が上がり、ある電位に達した時にNaチャネルが急激に開いてナトリウムが細胞の中へ流入してくる。ナトリウムは陽性のイオンなので、今まで陰性だった細胞が陽性に転じる。この細胞膜の電位の上がり方が活動電位の発生と呼ばれている。

 この活動電位の発生後、Naチャネルは自分でブレーキをかけてナトリウム電流を流れにくくする特徴がある。これがNaチャネルの不活化と呼ばれる。
その他にKチャネルとClチャネルが細胞の中から外へそれぞれイオンを通す役割がある。これらが働くことで、一旦上がった活動電位をもとの状態に戻す。それで活動電位が収束する。
この様な電気的なやり取りを私達の細胞は常にしている。

 男性の場合は活動電位が収束せず発火を続けており、筋の細胞膜が常に興奮しやすい状態となっている。
ミオトニー症候群の研究で2つの原因遺伝子が分かっている。ひとつは電位依存性ナトリウムチャネル(SCN4A遺伝子)で、もうひとつは電位依存性クロライドチャネル(CLCN1)遺伝子。
これらの遺伝子を調べることで、この男性の場合はSCN4A遺伝子の、Naチャネルのエクソン21の下流にあるイントロン21に異常があることが分かった。
更に詳細な分析で、男性には2対1の割合である正常なタンパク質を作る設計図と異常なものを作る設計図があるのではないかということが分かった。しかし、タンパクの異常が病気の症状の原因と言えるのか。

 まとめると、男性のSCN4A遺伝子のイントロンに変異があり、変異はメッセンジャーRNAのスプライシング機構に影響し、スプライシング異常で起こるチャネルも異常な機能を持っていた。異常な機能はコンピューター・シミュレーションに入れると、男性の検査で見られたミオトニー放電が再現された。
以上の多段階ステップを踏んで、遺伝子の異常で症状が出ていることが分かったという。原因が分かったことで、筋の細胞膜の興奮性を落としてやるという治療の手段も分かった。

 久保田氏の研究目的は、電気活動を視覚的に捉えること。連続写真や動画として捉えられたら非常に良く分かる。しかし、結晶となったタンパクは動かすことができないため、難しいという。
アプローチとしては蛍光色素を使ってエネルギー・トランスファーの距離を捉えること。例えば音さを振動させて別の音さを近づけると振動が移る。これがエネルギー・トランスファーで、別の音さに振動が伝わるのはその距離による。だから振動の強さから反対に距離を割り出すことができる。このようなイメージでチャネルのエネルギー・トランスファーを視覚化することが可能だという。
さらに久保田氏は遺伝子を調べて病気の原因をつきとめ、患者に合わせたテーラー・メイドの治療薬ができれば、と語った

久保田氏