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【3】身近な内分泌疾患:
日常生活で接する病気と症状

 岩山秀之氏は甲状腺疾患について話した。
甲状腺とは首の前、喉仏の下にある内分泌の臓器で、甲状腺ホルモンを合成・分泌する。
興味深いことに、写実性を重視するルネッサンス以後の絵画には、甲状腺が腫れた人物があちこちに描かれている。ミケランジェロも「首が腫れてきた。甲状腺腫に違いない」という記録を残しており、当時は甲状腺腫を写実的に描くのがブームになっていたようだ。
裏を返せば、甲状腺が腫れている人が多かったということになる。岩山氏によると、当時は甲状腺の治療がなかったために、今に比べると100倍ぐらい多かったという。

 甲状腺疾患は栄養素・ヨウ素の不足、先天的な異常により起きる。ヨウ素は海藻類やそれを食べる魚に多く含まれている。それらを良く食べる日本人は最低摂取量の4倍から5倍のヨウ素を摂取しており、発症率は低い。しかし、ハンバーガーの生活を続けているとヨウ素不足になる可能性がある。従って、海草や魚を食べない食生活を送る地域や国では発症率が高い。摂取量がほぼ一定である塩にヨウ素を入れると甲状腺疾患が劇的に減ったという情報が出たことから、今では多くの国で食塩にヨウ素が添加されている。

甲状腺ホルモンの働き

 殆どすべての組織に働き、心拍数、発汗、基礎代謝量の調整など作用は非常に多様。
川や湖で生まれた鮭が育って、海への降下時期を決めるのも甲状腺ホルモンの働き。オタマジャクシがカエルになる時期に甲状腺ホルモンが足りないとカエルにならず、大きなオタマジャクシになる。鶏はコケコッコーと鳴くが、甲状腺ホルモンが足りないとコケコッコーと鳴く行動をしなくなる。

過剰と不足でどんなことが起きるか?

・過剰は甲状腺機能亢進症といい、イライラ、発汗、手の震え、動機、脈が速い、暑がりなどの症状が出る。また、攻撃的になったりもする。バセドウ病は機能亢進症の一つ。
・不足の場合は甲状腺機能低下症という。いつも眠い、気力がない、皮膚がカサつく、寒がり、手や顔がむくむなどの症状が出る。


母子手帳と甲状腺

 母子手帳に先天性代謝異常の検査結果が貼り付けてある。クレチン症が先天性甲状腺機能低下症のことで、生後から不足していると知能発達に問題が生じる。しかし、治療すれば正常になる。

家庭の医学と甲状腺疾患

甲状腺ホルモンは過剰でも不足でも甲状腺が腫れることが多い。岩山氏によると、学校に検診に行くと首が腫れている生徒が100人に1人ぐらいいるという。首の腫れは自分では気付きにくいため、家族が気をつけて見てあげる。甲状腺が腫れていても、熱は持っていない。感染して腫れる場合は熱を持つ。
元気がない、反抗的、学校を休む、やる気がない、身体がだるい、首が太い、喉に違和感を感じるなどのうち、2でも当てはまれば甲状腺異常を疑ったほうが良いという。特に1年間身長が伸びないということがあれば、病院に行く。
甲状腺異常は女性が男性よりも約4倍多く、女の子は注意すべき。また、反抗期、中二病、不登校も甲状腺疾患が原因になっている場合もある。岩山氏は「甲状腺疾患は薬で治る。『病院に行くか』と子どもに声を掛けるような、頼れるお父さんになって欲しい」と語った。

 岩山氏がシカゴ大学で研究に取り組んでいるのは、脳細胞に甲状腺ホルモンを取り込むことができない患者への治療法。
血液中にある甲状腺ホルモンは血管の壁を通り抜けて脳内に入り、MCT8というタンパク質を通って脳の神経細胞に入る。しかし、このタンパク質が働かなければ、血液中にたくさん甲状腺ホルモンがあっても神経細胞に取り込むことができず、話すことも歩くこともできなくなる。ところが、AAVというウィルスを利用すれば病気を起すことなく神経細胞内に甲状腺ホルモンを取り込むことができるという。現在そのウィルスを使って甲状腺ホルモンを取り込めるのは正常な場合の40%程度。岩山氏はこれを80%から90%に引き上げたいと語った。


ルネッサンスj以降の絵画には、甲状腺が腫れた人物があちこちに描かれている。


血液中にある甲状腺ホルモンが脳の神経細胞に入って行く経路。MCT8というタンパク質が働かないと、血液中の甲状腺ホルモンを取り込むことができない。

岩山秀之氏(シカゴ大学 Postdoctoral Scholar, Department of Endocrinology