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【2】宇宙論の考え方

 本橋隼人氏は、宇宙はどの様に膨張したのか、宇宙の中身は何かについてシカゴ大学で研究している。よく宇宙飛行士になるのかと訊かれるが、宇宙飛行士やロケットに関することは宇宙工学、望遠鏡で天体を観測するのは天文学、本橋氏の分野は物理学で、銀河を点とみなしてその分布を調べ、宇宙の膨らみ方はどうなっているかなどのことを考える学問。

宇宙はどれぐらい大きいのか

 我々の太陽系で一番大きな惑星は木星で、地球の約10倍の大きさ。太陽は地球の約100倍で、木星の約10倍。地球から太陽までの距離は1億5千万キロで、光の速さでも8分20秒かかる。
地球の100もある太陽も、他の恒星に比べると小さい。37光年の所にあるアークトゥルスという恒星は太陽の10倍、ペテルギウスは太陽の100倍、まだ大きな恒星もある。
これらの星は天の川銀河の一部に過ぎず、また天の川銀河も銀河集団の1つに過ぎない。宇宙の膨張に関するデータやシュミレーションから、写真のような宇宙全体像が描かれている。天の川銀河が属する銀河集団も、もっと大きな銀河集団の集まりの一つに過ぎない。
少しでもものが多い場所では重力、引っ張る力が強いから、もっとものが集まってくる。一方、ものが少ないところでは益々少なくなる。宇宙は膨張しているので引っ張る力、集まりを妨げる働きもある。その兼ね合いからこのような形に今のところは落ち着いているという。

宇宙の進化は?

 最近の宇宙論では、一気に加速膨張が起き、その後水素、ヘリウム、リチウムなどの軽い元素ができた。その後に宇宙の「晴れ上がり」があり第一世代目の星が誕生、重い元素が星の中の高密度・高圧力の中で合成された。それから銀河ができ、再び加速膨張状態になっている。本橋氏は「これが非常に問題になっている」と語る。
一度大きな爆発があったとしても、重力があるので膨張は段々と減速するはず。だが130億年も経って加速膨張するのは訳が分からない。これが本橋氏の研究テーマだという。

宇宙の中身

 アインシュタインの一般相対性理論がある。方程式は左辺が重力定数、右辺が宇宙の中身を司る運動量テンソルと呼ばれる。簡単に言えば、宇宙の膨らみ方は中身で決まるということになる。
宇宙の膨らみ方は観測から分かる。一方、宇宙の中身は光っているものしか見えないが、銀河やガスなどを観測してこれぐらいの中身がありそうだと見積もることができる。そうすると、アインシュタインの方程式に矛盾が生じてくるという。現在見積もられている中身だけではその膨らみ方は説明できず、加速膨張や銀河がなぜ勢い良く回転しているのか、銀河の構造がなぜ早く形成されるのかなども説明できない。これを説明するには、今の見積もりの何倍もの物質が必要になるという。この様な背景から、宇宙にはまだ見えない何かが存在するのではないかという考えから出てきた。それが、ダークマターとダークエネルギーと言われるもの。
ダークマターは未だ見つかっていない素粒子ではないかと言われているが、その実態は何も分かっていない。しかし、今後数十年、または数年でその実態が明らかになる可能性はあるという。
一方、宇宙を加速膨張させているダークエネルギーは、今世紀中に解明されるのは無理かもしれないと本橋氏は語る。

 こういった矛盾が生じてくると、アインシュタインの左辺か右辺を修正すべきなのか。ダークエネルギーはどこから来るのか、また、宇宙の膨らみ方の定規が元々違っているのではないかという見方もあるという。
ニュートン力学は地球上の放物運動などの予言には十分な精度を持っているが、太陽系のスケールになると合わなくなる。例えば彗星の近日点は段々とずれて来るが、ニュートン力学では見えない惑星を想定しなければ説明できなかった。しかしそんな惑星は存在せず、一般相対性理論を取りりれると、彗星の軌道のズレまで全部説明できるのだという。太陽系のスケールになると、重力で時空間が捻じ曲げられる重力レンズなどが存在する。太陽の向こう側にあるはずの銀河が見えるのは光が重力レンズで曲がってくるからだという。
本橋氏は、物理学は自然に隠されている真理を解き明かす学問であるというのではなく、必要な精度まで現実を近似させていく学問だという。
ニュートン力学が太陽系スケールになると間違っているのは、そのスケールで必要とされる精度がないということになる。一般相対論は確かに太陽系スケールでは彗星の近日点や重力レンズによって良く調べられている。しかし、宇宙の広いスケールにおいて一般相対性理論が正しいという保証はないという。
理論が予言するものと実際の観測が会わなくなってくる。それは観測技術が発展したからだ。そうなると理論も修正が必要になる。「物理学はそうやっていつも発展して来た」と本橋氏は語る。

宇宙論は役立つのか?

宇宙の広がり方が分かったり138億年の宇宙の歴史が分かったりするのが、人間が100年生きて行く上で何の意味があるのか。本橋氏は「はっきり言って何の役にも立たないですね」という。
一方、科学は100年後に思いがけないことに役立つという類の論文もあるという。一般相対性理論は、実はGPSに役立っているという。100年前にアインシュタインが方程式を書いた時にGPSなどは考えていなかっただろう。しかし、技術が発展したことによって応用されるようになった副産物といえるかもしれない。
本橋氏は「サイエンスは何の役に立つのか? 僕はそこが好きですね。ひたすらパズルを解いていくようなものです。宇宙がどんな構造をしているのかを知りたいから(研究を続ける)ということですね」と語った。


我々の太陽系の惑星サイズの比較


我々の太陽よりもずっと大きい恒星がある。


我々の天の川銀河が属している銀河集団も、宇宙構造の中の1点に過ぎない。

本橋隼人氏(シカゴ大学 Associate Fellow, Kavli Institute for Cosmological Physics


アインシュタイン方程式


宇宙の歴史と膨張