日本語メインに戻る
興味津々、若手研究家発表会
ナノの世界から宇宙まで、
研究の世界をのぞく

 ナノサイズってどれぐらい小さいもの? 宇宙ってどれぐらい大きいもの? 電子顕微鏡って何? 甲状腺の働きって何?  こんな興味をそそる研究発表会が若手研究家の間で定期的に行われている。発表の場は在シカゴ総領事館の広報文化センターで、一般の参加も歓迎されている。難しい内容もあるが、誰にでも分かるように噛み砕いて説明してくれるのが発表会の魅力でもある。第5回目の発表会は10月26日に行われ、4人の若手研究家達が興味深い発表を行った。

 発表は:
・「分子の自己組織化と機能性材料の開発」
By佐藤浩平氏(ノースウェスタン大学Postdoctoral Fellow, Shimpson Querrey Institute for BioNanotechnology in Medicine)

・「宇宙論の考え方」
By本橋隼人氏(シカゴ大学Associate Fellow, Kavli Institute for Cosmological Physics)

・「顕微鏡って何?-電子でモノが見える仕組み-」
By野間口恒典氏(Research Engineer, Hitachi High Technoloties America, Inc. ノースウェスタン大学Visiting Scholar, NUANCE)

・「身近な内分泌疾患:日常生活で接する病気と症状」
By岩山秀之氏(シカゴ大学Postdoctoral Scholar, Department of Endocrinology)


【1】分子の自己組織化と
機能性材料の開発

佐藤浩平氏は「分子の自己組織化と機能性材料の開発」について語った。題名を見ると難しく感じるが、一言でいうと、ナノサイズの物を作ろうという研究。宇宙に出ようという時代に小さければより多くのものが運べる。また、医療の進歩のためにはナノスケールのものは必須となる。

ナノサイズとは?

人間の身長の約千分の一がミジンコ。その千分の一が大腸菌。更にその千分の一がDNAの幅で、これがナノサイズと呼ばれるもの。
1メートルの10億分の1が1ナノメートル。地球の大きさの10億分の1が1円玉ほどの大きさになる。イメージできるだろうか。

どうやって作るのか?

 基本的には、①大きなものを削り出してナノスケールの物を作る、②より小さな物を作って望みのナノサイズの物に組み立てる、の2つの方法がある。
①の例はパソコンの集積回路。配線の網目の大きなものを作って光を当て、陰を転写させる。それをレンズで縮小し、基盤の表面に焼き付ける方法を取っている。
1970年代初期にインテルが作ったものは幅約10マイクロメートルの回路で、それが繋がっている。2013年にはその幅が22ナノメートル位になり、この40年で約450分の1に小さくなった。もの凄い進歩だが、大きなものを縮小して作る技術は今後数年で限界が来ると言われている。

こうした背景から②の方法が進んでいる。
例えば細胞膜。我々の身体を作っている細胞を仕切る壁のような細胞膜は、丸いボールに足が2本生えているような形の分子から出来ている。これが二重の層を作ってびっしりと並び幕を作っている。その幕が並ぶことによってナノメートル、最終的にはマイクロメートル位の大きな構造体を作っている。
「我々の身体は小さいものから大きいものを作るまさに教科書」だと佐藤氏は説明する。小さいものが自発的に集まる現象を「自己組織化」という。この様に生命現象で見られる自己組織化を、人工的に実現したいというのが佐藤氏の研究。

このメリットは?

小さな物が集まっているので動かし易い。また、細胞膜のように1個が欠損しても他の部分が集まってきて自己修復することができる。これは他の材料ではなかなか実現できない性質だという。更に大量生産できるというメリットがある。小さいものを大量に作って細胞膜のようにきれいに並ばせれば、大量生産ができる。

どうすればきれいに並ぶのか?

 並ばせるための基本ルールは①水と油は混ざらない、②プラスとマイナスは引きつけ合う、の2つ

 例えば細胞膜のボールと2本の足は、ボールの部分が水、足の部分が油の性質を持っている。これを水に入れると水の性質を持つボールの部分が油の性質を持つ足の部分を隠すような形で表面に集まって行く。細胞膜としてきれいに並ぶ理由になっている。
②について言うと、例えば塩はナトリウムのプラスと塩化物イオンが交互に無限に並んでいる。DNAは2本の鎖がくっついている。1本1本を見ると、プラスとマイナス部分が上手く配置されている。

これらが自己組織化の例だが、この様な自己組織化を人工的に望み通りに配置することはできないのか。

佐藤氏は日本での研究中、海洋生物ホヤの一種から輪のような形の分子が見つかったと論文で読んだ。これを上手く使えないかと思った佐藤氏は研究を始めた。
その分子のサイズは1ナノメートル。それを上手く集めて並べればナノサイズのチューブができないだろうか、構造をアレンジして自己組織化をプログラミングできないだろうかというのが研究課題だった。

分子は中心部が比較的水の性質、端の部分は油の性質を持っている。これを元に分子をデザインして実際に有機化合物を作った。
試行錯誤の末、輪が積み重なってチューブを作ることができた。また、プラスとマイナスの方向が一致して、電気をかけると思い通りの方向に並べることができることがわかった。
この性質を利用すれば1ナノメートルの配線や、積み重なる向きを変えることでオン・オフの制御ができる。電気が通る道を自在に変える材料を作ることができたという。

 自己組織化を人工的に自在にできるようにして発展させれば、脊髄損傷で下半身不随になった場合など、切れた神経の再生にも道を開くことになるという。
ホヤの輪状の分子にヒントを得た佐藤氏の研究は失敗を繰り返しながら成功した。しかし、分子をデザインしたものが望み通りに自己組織化するとは限らない。佐藤氏は「個人的に一番の課題だと思っているのはミリ秒で起きてしまう自己組織化のスピードをコントロールすること。遅いと水と油の認識がし易くなり、きちんとした構造ができるが、そのコントロールが難しい。将来はその研究をしたい」と語った


1ナノメートルを地球と比べると、1円玉ぐらいの大きさになる。


水と油は混ざらない。このため水の性質を持つボールの部分は水に触れるところに集まり、油の性質を持つ部分は水を避けるように内側のほうに集まり細胞膜を作っている。

佐藤氏が作ったナノサイズのチューブ。

佐藤浩平氏(ノースウェスタン大学 Postdoctoral Fellow, Shimpson Querrey Institute for BioNanotechnology in Medicine)