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興味津々、若手研究家発表会(2)
内視鏡手術:医師に求められる新技術

• 内視鏡手術という言葉が近年良く聞かれるようになったが、従来の切開手術とどの様に違うのだろうか。内視鏡手術は器具を操作しているようだが、医師の技術はどの様に培われているのだろうか。
• 杏林大学医学部外科教室の学内講師で、現在博士研究員としてシカゴ大学エバンストン病院で研究中の田中良太氏「シュミレーションを活用した外科教育」について語った。田中氏は人生の半分以上を外科医として過ごした経験を持つ。

• 従来の開胸・開腹手術は、実際に医師が内臓を見、手を入れ、鉗子やハサミを使って手術する。一方、現在主流になりつつある内視鏡手術は、医師がモニターを見ながらツールを使って手術するという大きな違いがある。モニターは二次元で映し出されるものであることから、鉗子を入れる時などは、奥行きの感覚をイメージしながら手術する必要があり、特別な能力が必要になって来たという。

• 三次元の画像を見ながら手術できるロボット手術もある。アメリカで開発されたもので、ロボットアームやハンドコントローラーで操作しながら手術する。アメリカでは盛んに症例数を増やしているが、2014年のFDAの報告によると、2012年に行われたロボット手術に関連して71人が死亡した。田中氏によると、死因の殆どは出血。これに関して約半年前に、手術のトレーニングが必要だという記事が出たことがあるという。
• 元々ロボット手術は、戦場で負傷した兵士の手術を可能にすることが目的だった。トラックなどに設置された戦場近くにあるロボット手術室に負傷者を搬送すれば、そこに専門医がいなくても遠隔手術ができるというメリットがある。この技術は戦場に限らず、通常の生活内でも専門医が遠隔手術をすることが可能となる。例えば田中氏がシカゴにいても、杏林大学病院内の外科手術をすることができる。
• 現在ロボット手術が特に役立つのは前立腺の手術。次第に狭くなって行く骨盤の狭いところにロボットが入って行くことができるのだという。
• 内視鏡手術もロボット手術も低侵襲であることが最大のメリット。従来の開胸手術では、手が入るように30センチぐらい開胸して開胸機を付け、肋骨の間を広げる。内視鏡手術やロボット手術であれば、器具を通すための筒を入れる穴をあけるだけ。だから回復が早い。田中氏は「だから私も低侵襲化に向けた努力はすべきだと思い、内視鏡手術のトレーニングの研究をしている」と話す。

• 内視鏡施術は手術用のツールを患者の体内に入れる場所が支点になっている。つまり手元を右に動かせばツールは左に動くという扱いにくさがある。また、モニターを見て手術するため、モニターを見てツールをコントロールできる技術が必要になってくる。更に、必要な場所をタイムリーに映し出すための内視鏡カメラの操作技術も必要になる。
• しかし今のところ、充分なトレーニングを効果的に行う方法は確立されておらず、田中氏はそのトレーニング方法を研究している。

• シュミレーター

• 例えば飛行機の操縦にはフライト・シュミレーターが採用されている。乱気流を発生させるなど非常時を想定したプログラムが入っている。同じように、内視鏡手術でも不測の大出血に対応するなどのプログラムを組み込んだFLSシュミレーターなどがある。米国では2010年からこのシュミレーターが外科専門医になるための認定試験の一つになっている。田中氏は、「日本でもこの様な認定試験に合格しなければ、内視鏡手術はできないという流れになってくると思う」と語る。
• この他米国では、胃カメラや大腸内視鏡のシュミレーター、動物の臓器を用いたり、人間の遺体を用いた内視鏡手術のトレーニングが行われているという。

• 田中氏は人間の肺に似ている豚の肺を使ったシュミレーションモデルを開発している。このシュミレーションは個人の技術を上げるだけではなく、チームの技術を上げることもできるシュミレーションだという。

• 田中氏は単に技術を上げるだけでなく、技術向上の動機や、その元の一つとなる研修生の評価も必須だという。
• まず、充分な訓練とは、どれぐらいのことを言うのか。ある心理学者の論文によると、タイトルを持つようなチェス・プレイヤーは、若いうちからトレーニングを受けなければ国際的に活躍できるレベルにはなれないことが分かってきているという。
• 田中氏はシカゴに来て以来、何かやろうとサックスを習い始めた。先生と仰ぐ有名なサクソフォーン奏者は若い時から練習を始めていた。そのレベルになるには最低1万時間の練習が必要だといわれている。1日に1時間練習しても1年間で365時間であることを考えると、如何にその人が練習を積んだかが分かる。
• 内視鏡手術に何時間の訓練が必要なのかは分からない、去年よりも上手くなったという客観的な技術評価が必要になってくる。また、向上しようというモティベーションのためにも、明確なゴール設定も必要となる。
• 更に、手術が上手いと思って成長が止まらないように、常に自分を客観的に評価できるような機会を多く持つことが必要になる。
• 田中氏は「単に時間を費やし、経験を積んで上手くなるというのではなく、効率的に上手くなるには工夫が必要。私の研究は、そういうことをやっています」と語った


田中良太氏