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薮中三十二氏が語る
「激動の東アジアと日本」

信頼力・技術力・文化力で世界を納得させるスマート外交を

• 元在シカゴ総領事の薮中三十二(やぶなか・みとじ)氏を迎え、「激動の東アジアと日本」についての講演会が6月5日にアーリントンハイツのダブルツリー・ホテルで開催された。主催はシカゴ日本商工会議所(JCCC)商工業政策運営委員会。同日夕方にはシカゴ日米協会の主催で英語による講演会がシカゴ市で開催された。
• 薮中氏はシカゴから帰国後、アジア大洋州局長となり六カ国協議日本代表を務めた。外務事務次官という重職も務め、現在は外務省顧問、立命館大学総長特別招聘教授、大阪大学特任教授などを務めている。

• 日本代表として北朝鮮問題に取り組んだ薮中氏は、数年間笑顔を見せることができなかったとエピソードを語り、シカゴ時代は非常に楽しかったと懐かしんだ。外務事務次官として4人の首相に海外情勢についてブリーフィングをしていた薮中氏は、「激動の東アジアと日本」について次のように語った。

安倍首相の訪米

• 安倍晋三首相の訪米は成功だった。これには絶好のタイミングという幸運があった。一つは中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)、もう一つは南シナ海の問題浮上だった。
• 米国が「特別な関係」としている英国がAIIBへの参加を決めたことにより、米国と同じ立場をとる日本の存在感が大きくなった。
• 南シナ海の南沙諸島で埋め立てを進める中国への警戒感が強まって来た。4月11日にはニューヨークタイムズが1面を使って埋め立て写真を掲載し、4月17日にはドイツで開催されたG7外相会議が中国の埋め立てを踏まえ、平和的な解決や航行の自由を謳う共同声明を発表した。
• このような状況下で安倍首相とオバマ大統領の会談が4月28日に行われ、安倍首相は非常な歓迎を受けた。

米国と中国

• ヨーロッパでは中国の台頭を歓迎している、一方日本ではそれを喜ばない感情がある。米国はその中間にあると言える。米国全体では、中国が大国になるのは当たり前だという受け止め方をする人が多い。
• 2000年以前の米中間には、国力と軍事力に大差があった。1996年、李登輝氏の総統選出で台湾の独立を懸念した中国が台湾海峡でミサイルを発射した。これに対して米軍は航空母艦を同海峡に派遣し、それだけで全てが終わった。
• 2000年に入ると、中国が伸びてくる。米国は中国に対し「関与とヘッジ」という政策をとった。米国が中国にきちんと働きかければ、中国は責任あるパートナーとして対応してくれるだろうという期待感が高かった。同時に同盟国を大切にし中国の脅威に備えるというヘッジもかけたが、前者の方が遙かに重みがあった。これが米国の今日までの中国に対する立場だった。

• ところが、急速に米国の中で中国に対する見方が厳しくなった。今まで一番警戒感を強めていたのは国防省だった。
• 台湾海峡の時のように、中国が埋め立てて軍事基地を作る東シナ海に米国は出て行けるのか。衝突した場合にはどうなるのか。米国が乗り込むには相当な覚悟が必要となり、容易にアクセスすることを思い留まらせる「access denial」の力を中国は持ち始めた。
• 一方、ホワイトハウスはまだ警戒感を持つには至らない。防衛省はCNNのレポーターを軍用機に乗せ、埋め立ての様子を撮影させた。その映像は多くのメディアを通して報道された。

米国の出方

• 国防省は国連海洋法条約に明記されている12海里の所に海軍の船を出す方向で検討していると発表した。埋め立て地が中国の領海ではないと指摘することで、中国を強く牽制することになる。これに対し中国は、平和のために大問題だと反論した。その後米国は沈黙している。
• 最大の懸念は、反論すれば米国が矛を収めるという誤ったメッセージを中国に送ること。中国の独走を米国が黙認するということになれば、中国は9ドットラインの主張を通し、南シナ海の殆どが中国の内海になってしまう。米政府の出方は非常に大事となる。

日本の動き

• 日本では安保法制に絡みホルムス海峡が議論されているが、議論は南シナ海にあるべき。日本を取り巻く安全環境が非常に厳しくなってきているという現状に対応し、安保法制を変える必要がある。米国と中国が仮に衝突することがあるとすれば、南シナ海が一つの場所であることは間違いない。そうなれば日本はどうするのか。

日中協力の可能性

• 中国は元来、東シナ海の沖縄トラフまで大陸棚が伸びていると主張していた。国連海洋法条約は、大陸棚を持っていれば350海里まで権利を認めている。しかし、その海に複数の国が面している場合は、話し合いによって決めると記載されている。日本と中国は長年もめていたが、2008年6月に福田康夫首相と胡錦濤国家主席の間で、図の四角の部分でガス田の共同開発をしようという合意ができた。これは東シナ海を平和と協力の海にすると謳った合意で、実質東シナ海を中間線によって2つに割っている。
• 中間線から西側にあるシラカバガス田は中国側だが、地下が繋がっていると思われることから中国が自国の法律によって開発するが、日本企業が参加することになっている。
• この2つの合意は条約にする前に漁船衝突事件が発生し、残念ながら条約になっていない。しかし、両トップが何度も確認している合意だという。

• 日本では、古い合意、共同開発は不可能、すでに中国は開発をやっているだろう、と見る人達がいるが、これは間違いだと薮中氏は言う。中国は何も着手することなく、ずっと我慢して待っているのだという。中国は中間線を越えて日本側に来ようとしているが、強行しないのはこの合意が歯止めになっている。薮中氏は「これこそ言わなければ」と同合意による共同開発の必要性を説いた。
• 2014年11月の日中首脳会談で、この合意をやらなければということになった。尖閣諸島問題で自衛隊機が年間450回も緊急発進しており、何が起きるか分からない。「コミュニケーション・チャネルは今日にも作らないと」と薮中氏はその必要性を協調した。

日本がやるべき事

• 中国に対して協力しながら、中国に注文を付けるというのがミソ。第一歩として安倍首相に日本の提案を世界に向けて発信してもらうこと。今日本が持っている一番の宝は安倍首相の発言力であり、安倍首相の発言は大きなニュースになり得る。

• ASEANを仲間に、国際的な世論を作ること。ASEAN諸国が信頼できる国を1国だけ選ぶと、日本が33%と他国に大差を付けている。ちなみに米国は16%、中国は5%。日本はASEANの支持という財産を持っている。

• ASEANが期待するのは、日本が中国と一定の協力関係を結びながら、ASEANと一緒になり、日本の強みである米国を後ろに置いて、日本がリーダーシップをとり、中国が国際社会の良き一員となるように注文を付けること。薮中氏は「これが日本に求められていることであり、正しいメッセージで正しく世界をリードして行くという日本のリーダーシップを発揮してもらうよう、安倍政権に期待をこめてお願いしているところ」だと語った。

薮中氏、インタビュー

• Q:日本も軍事的に動けるようなるべきでしょうか?

• 薮中:日本はやはり平和国家なんですね。その中で守りは固めなければいけない。だから切れ目のない対応をとっておかなければいけない。これは当然なんです。戦うためではなくてね。
• 日本の強みは平和なのであって、世界から信頼されているわけですから、世界が納得するようなスマートな外交をやらなければならない。
• 日本なりの力、それは今まで作ってきた品質、信頼力、技術力、文化力であるわけです。それを総合した外交力があるはずなので、そこを発進力がある安倍総理にどんどんやってもらえば、だいぶ違いと思いますよ。

• Q:安保法制について、戦争に巻き込まれる、安倍総理の説明不足などがフォーカスされて報道されていると思いますが、実際はどうでしょうか?

• 薮中:10本の法律が非常に難しいんですよ。だから全部読んでいる人は殆どいないでしょう。まだお互いの議論が深まってという所まで行っていない。理解は必要ですから、時間をかけてやって行けば、みんなの理解が深まって行くでしょう。誤解もありますからね。これからどんどんやって行くと思いますよ。

• Q:ありがとうございました。

薮中三十二氏略歴

• 1948年大阪府生まれ。在韓国日本大使館二等書記官、在インドネシア日本大使館一等書記官、在米日本大使館一等書記官、経済局国際機関第二課長、北米局第二課長(日米構造協議担当)、国際戦略問題研究所主任研究員(在英国)、ジュネーブ国際機関日本政府代表部公使、大臣官房総務課長、大臣官房審議官、在シカゴ総領事、アジア太平洋州局長(六カ国協議日本代表)、外務審議官(経済・政治担当)、外務事務次官、現在は外務省顧問、野村総研顧問、立命館大学総長特別招聘教授、大阪大学特任教授に加え、寺子屋を作り5つの大学から集まった学生達に議論を戦わせ、グローバル人材の養成が叫ばれている日本で若者達の指導を続けている。
• 著書に「対米経済交渉-摩擦の実像」、「国家の運命」、「日本の針路」がある


Mitoji Yabunaka, former Vice-Minister for
Foreign Affairs and former Consul General in Chicago



A map of the South China Sea (the photo is borrowed from Mr. Yabunaka's presentation)


A map of the East China Sea. A square in the center is the place where Japan and China agreed in 2008 to develop an oil and gas field. (the photo is borrowed from Mr. Yabunaka's presentation)