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刀に反りがあるのはなぜ?
興味津々、第7回若手研究者発表会

• 数学の面白さって何? 刀に反りがあるのはなぜ? 心臓MRIの新しい技術って? こんな興味をそそる第7回研究発表会が5月24日に在シカゴ総領事館の広報文化センターで開催された。
• シカゴの大学で研究している人達が横の繋がりを作ろうと「Japanese Researchers Crossing in Chicago」を創設し、互いに支援し合うと共に研究内容も発表し合おうと、同発表会が始まった。専門家の集まりだが、発表会では専門外の人達が対象になるので分かり易く説明される。一般の人達の参加も歓迎している。

• 今回の発表は:
• 「整数論と幾何学」
• 越川皓永氏
• Graduate Student, Department of Mathematics, University of Chicago

• 「身近にある鉄・鋼 ~鉄を研究する~」
• 新垣之啓氏
• 主任研究員/Visiting Scholar JFEスチール
• Northwestern University

• 「心臓MRIの新しい技術開発」
• 川路啓吾氏
• Scientist (Staff), Cardiac MRI

• 「整数論と幾何学」

• 越川皓永氏は数学オリンピックに出場した経験を持つ。中学受験持に算数の成績が良かったことから数学に興味を持ち続け、現在はシカゴ大学数学科の博士課程の学生として数学の研究を続けている。

越川氏はまず、ペルの方程式について説明した。
ペルの方程式は x² - 2y² = ±1
整数解を考えると(x=1, y=1)の時に値は-1、(x=3, y=2)の時に値は1、(x=7, y=5)の時に値は-1となる。果たしてxとyの解は無限にあるのか。
その解は (-1 + √2) n に現れる。nを変えていけば、xとyの解が無限に求められる。例えばn が2の時に-3 + 2√2、n が3 の時に-7 + 5√2 となり、(x=3, y=2)や、(x=7, y=5)が現れているのが分かる。
ペルの方程式は紀元前から使われていた。しかし解を求める式が出て来たのは19世紀以降だという。
果たしてペルの方程式はどの様に役立つのか。数学に弱い記者は何とか分かり易い例を見つけた。
図1にあるグレーの部分と白の部分の面積はどちらが大きいか。四角のボックスが縦横に7個並んでいて、グレーの部分は5個ずつなので7x² - 5y² = -1 となり、グレーの部分が一つ少ないことが分かる。
越川氏の説明はさらに幾何学まで進んだが、記者が書けるのはここまで。

• 「身近にある鉄・鋼 
• ~鉄を研究する~」

• 新垣之啓氏はJFEスチール社の主任研究員で、現在はノースウェスタン大学で研究している。専門は電磁鋼板。身近にある鉄だが、いろいろな研究が行われていることを知って欲しいと、様々な面から鉄について説明した。

• 鉄は身の回りのいろいろな物に使われている。金属の可採埋蔵量の85%は鉄で、鉄の年間生産量は14億トンと金属全体の生産量の95%を占める。
• 鉄にはいろいろな違いがある。例えば吊り橋に使われている鉄のケーブルは1平方センチ当たり18トンの外力に耐えられる。高層ビルには太い鋼材を使えば強いが、それでは下の階は柱だらけになりスペースが無くなる。だからいかに硬い鉄を作るかが一つの研究方向だと新垣氏は語る。

• 鉄はどうやって作られる?

• 高炉に鉄鉱石(酸化鉄)とコークス(石炭)を混ぜ入れ、酸化鉄の酸素を炭素で取り出す。次に酸素を吹き込んで、酸素と結びつきやすいシリコン、リン、マンガンなどの不純物を取り去る。このような行程を経て純粋な鉄に近づいて行く。鉄の純度があるパーセンテージになったものが鋼(はがね)またはスチールと呼ばれる。従って鉄とスチールは同じではない。こうしてできた鋼は厚さ200ミリの塊に固められ、更に薄くして鋼板となる。

• 鉄はどうやって硬くするのか

• 金属の結晶には正電化の陽イオンが存在し、自由電子によって結びつけられている。その結合が弱いので変形できる。
• 変形する時に何が起きるのか? 結晶には滑り面があり、トランプのカードが滑るように変形する。これがすべり変形と言われる。
• ここに他の元素を入れて滑りを邪魔すれば、鉄は硬くなる。また、結晶の一個一個が小さくなると隣の結晶にすぐにぶつかるので、鉄は硬くなる。

• 固溶と析出

• 塩は温度が高いと水に溶けているが、温度を下げると塩になる。この固溶と析出が鉄の中でも起きる。
• 溶けた鉄の温度を上げて固溶状態にし急に温度を下げると、原子が動けないのでそのまま固まり固溶状態の鉄を作ることができる。ゆっくり冷やした時に、まだ原子が動けるぐらいに温度が高いと大きな析出物を作ることができる。低温になると原子が遠くまで動けなくなり、小さな析出物になる。
• このような性質を工夫すると、加工し易く加工後に硬くなる鋼板や、衝突した時に一瞬で硬くなる鋼板などを作ることができる。

• 刀の焼き入れ

• 刀の焼き入れとは、どの様なことが起きているのか。鋼は体心立方格子(図2参照)の構造をしているが、温度を上げると面心立方格子(図3参照)の構造に変わる。ゆっくり冷やすと元の体心立方格子に戻るが、急に冷やすと元に戻れず、元に似たような形になろうとする。だから面心立方格子の影響を受けた組織ができる。
• 面心立方格子が少し横に広がって2つの面心立方格子の間に立方体を押しつぶしたような形で体心立方格子ができる(図4参照)。従って体積が増える。一つのユニットに違う結晶が入ることによって更に硬くなるという現象が起きる。これが焼き入れ。

• 日本刀から知る鉄/
• 鋼の科学

• 鋼を叩くことによって不純物を取り除き素材を均一にするという効果がある。
• 焼き入れをする時には、刃の方が薄く背の方が厚い。だから水につけて急冷すると刃の方が早く冷えて上記の面心立方格子の影響を受けた組織になり体積膨張する。すると刀が反るという現象が自然に起きる。刀は焼き刃土を塗って水に入れ、冷却速度をコントロールすることで波紋ができる。
• このようなミクロの世界の変化が起きて、①切っ先は硬くて刃こぼれしにくく良く切れる、②背は柔らかくて折れにくい、③反りがあるので引く力をこめることで切れ味が増す、④脆いところ(折れやすい部分)が少ない、という日本刀ができる。

• 錆

• ステンレスが錆びないのはクロムが入っているから。クロムは酸素と結びつきやすいため、クロムが最初に錆びて薄い膜となる。それが保護膜になって鉄は錆びない。クロムの錆が削れても、またクロムが酸素と結びついて錆の膜を作るので、見た目には金属光沢を失わない状態が続く
• しかし、クロムは高価であるため建材などには少量を使う。クロムは元々酸素と結びつきやすい元素なので、時間をかければ表面に出てきて錆の膜を作る。このため鋼材は錆びたように見えるが、それ以上錆びない。この様な鋼材は橋などに使われている。
• インドのデリーにはアショーカ王の柱と呼ばれる鉄柱があるが、1500年経っても錆びずに立っている。これは上記のような理由だと考えられている。

• 電磁鋼板とは

• コイルに電気を流すと右ネジの法則でN極が出る。そのコイルに鉄を入れると磁力が強くなる。これは鉄の原子一個一個が磁石の役割をしているからで、原子が揃うとN極とS極が強く出る。磁力線が発生して、鉄の中を磁力が走っている状態になる。
• 鉄を磁石化する時には結晶の辺の向きに沿って磁場をかけると磁石になり易い特徴があり、方向を揃えると小さな電流で生じた磁石から非常に強い電磁石ができる。こういう鋼板を電磁鋼板という。
• 電磁鋼板には方向性電磁鋼板と無方向性電磁鋼板の2種がある。前者は結晶の方向を極限まで揃えたもので、一方向だけに磁気特性が高い。後者は向きが違う結晶を均一に分散させたもので、面内のすべての方向で良好な磁気特性を示す。
• 電磁鋼板は変圧器などに使われると電力ロスが少なく省エネ材として使われている。


Figure 1
グレーと白の部分はどちらが大きいか?
四角のボックスが縦横に7個並んでいて、グレーの部分は5個ずつなのでペリの方程式を当てはめると、
7x² - 5y² = -1 となり、グレーの部分が一つ少ないことが分かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


他の元素を入れて滑りを邪魔すれば
鉄は硬くなる。

 


体心立方格子


面心立方格子


面心立方格子の影響を受けた組織


Teruhisa Koshikawa


Yukihiro Shingaki