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日韓は兄弟、アメリカはお父さん
その関係を描く
"God Bless Baseball"


• 岡田利規 作・演出「God Bless Baseball」が1月28日から30日までの3日間、シカゴ現代美術館で上演された。同劇は昨年9月に韓国・光州にオープンしたエイジアン・アーツ・シアターのオープニング・プログラムとして製作された。以後日本やニューヨークなどで上演されている。

• 岡田氏は、アメリカからもたらされ一世紀以上に亘って日本や韓国の国民的スポーツとなっている野球を取り上げ、野球にまつわる様々なシーンを積み重ねながら日韓関係を描く。
• 野球はアメリカから日本に1873年に、韓国には1904年にもたらされたとされている。そして、野球は両国の人々の生活に、社会に、深く関わり続けている。岡田氏は野球を持ち込み、その後も両国民の上に、背後に、そして内面に存在し続けるアメリカを父親に見立て、日本と韓国を兄弟として劇を構成している。そして、日本人俳優に韓国の役を、韓国人俳優に日本の役割を演じさせるという変わった演出をしている。劇中では、韓国語の部分は日本語の字幕で、日本語の部分は韓国語の字幕で、全体のセリフは英語の字幕で掲示される。

• 「God Bless Baseball」は日本女性(野津あおい)と韓国女性(イ・ユンジェ)が舞台に進み出てくるところから始まる。2人は友達でも知り合いでもない様子で、どこから始めようか、何から始めようかと居心地悪そうに舞台に立っている。日本と韓国が並んで同じ舞台に上がれば、この様な感じかも知れない。
• 2人の女性達は野球のルールを全く知らない。そこに昔野球をやっていたという韓国人男性(ウィ・ソンヒ)が現れルールを説明し始める。更にイチローまたはその偽者(捩子ぴじん)が現れ、野球の説明に加わる。4人のユーモアたっぷりの会話に聴衆は思わず笑いに引き込まれてしまう。イチローの仕草を完璧に再現するイチローの偽者も聴衆を楽しませる。

• 説明を聞いた女性達が「あなた達の説明は野球を知っている人には良く分かると思うけど、全く知らない私達には良く分からない」という。それは、「日韓関係を知っている人には分かるが、全く知らないアメリカの人には分からない」と言っているようにも見える。

• 舞台は日本や韓国内での野球人気の話に移る。野球選手達は国民の夢を支えるヒーローだった。日本人大リーガーの草分けとなった野茂選手や大リーグで活躍した韓国選手も、もちろん各々の国の誇りだった。
• 2006年あのWorld Baseball Classicで、日本と韓国は3戦し、韓国が2戦を勝利した。しかし、最終的には日本が優勝、韓国は3位に終わった。「韓国は日本に2回も勝っているのに、日本が優勝するのはおかしい」と舞台の上で韓国側は主張する。

• 日韓双方の国民感情はあるが、国際環境を見るといがみ合ってもいられない。イチローが投げる球が爆弾のように3人の周りに落ちて来る。一つの傘に入っていた3人だが、一人が傘から出て行く。イチローは「危ないよ」、傘に入らないと「危ないよ」と繰り返しながら球を投げる。水もかける。そして、傘の外に立ち続ける一人になぜ危ないか「想像してごらん」と繰り返し呼び掛ける。

• 舞台のセンターにある大きな白い円形の皿のようなものがアメリカだ。ここからお父さん、つまりアメリカの声が流れている。そして、その白い皿が溶けて崩れて行く。
• かつて野球好きだった青年が、過去のトラウマを語り始める。野球は決して好きではなかったが、お父さんが好きだったから野球をやっていた。1点リードの九回裏、フライを取り損ねたために相手チームの2人がホームベースを踏み、大事な試合に負けた。青年は「お父さんはいつも威圧的だった。だから野球を続けたけども、失敗したからもっと練習しようとは思わなかった」と話す。

• 岡田氏は「やがてこの物語は、アメリカという大きな存在に直面することを余儀なくされるでしょう。わたしたちふたつの国のどちらもに大きな影響を与えてきた国。いまもわたしたちにその影響力を行使し続けている国。わたしたちの「上」にいる、わたしたちの「背後」にいる、わたしたちの「中」にある、わたしたちと「共」にある、アメリカ。この大きな影響力と、現状のそれとは違う関係を結ぶことはできないものでしょうか?」と劇の説明で語っている。

岡田利規氏に訊く

• Q:日本人に韓国の役を、韓国人に日本の役をさせておられますが、これにはどの様な意図が含まれているのでしょうか?

• 岡田:自分のよく知らないコンテクストが、自分のわかる言葉で話され、自分の知ってるコンテクストが自分のわからない言葉で話されるという状況をつくったらおもしろいだろうと考えたからです。

• Q:一つの傘に入っていた韓国人女優(日本の役)が一人傘から出ます。ボールが飛んで来たり水がかかったりして「危ないよ」と言われますが、彼女は傘を投げ捨てます。このシーンは何かの歴史的イベントを象徴しているのでしょうか、それとも日本人または韓国人の本音を表しているのでしょうか?

• 特定のイベントを表象してはいません。あれがわたしたちの本音だと言い切ることもできません。オルタナティヴな現実を想像するための第一歩としての、想像上のアクションです。

• Q:昨年9月に韓国で「God Bless Baseball」を上演されています。その時の韓国側の反応はどうだったのでしょうか?  韓国の人々はポジティブに受け取っていたでしょうか?

• たいへんポジティブでした。韓国のお客さんは一般的に日本のお客さんよりも反応がビビッドです。なにせ光州が世界初演でしたし、韓国のお客さんにどう受けとめられるか、それなりにナーバスだったのですが、幕をあけてみるとものすごくよく笑ってくれましたし、テーマもしっかり受けとめて共感してもらえました。

• Q:日本と韓国の関係についてどのようにすべきか、ご意見をお伺いしたいです。

• 僕は自分にできることをやります。この作品をつくったこと、このプロジェクトをやったことは、その一環です。両国は相互理解を深めていくべきですけれども、国家間の関係というのは他のさまざまな事情で良好になったり悪化したりします。そういう国家レベルなんかとは全然別レイヤーの個人レベルの関係のほうが重要と僕は考えたいです。

「God Bless Baseball」:
• 作・演出:岡田利規
• 翻訳:イ・ホンイ
• 出演:イ・ユンジェ、カン・ジョンイム、捩子ぴじん、ウィ・ソンヒ、野津あおい
• 舞台美術:高嶺格
• 衣装:藤谷香子(FAIFAI)
• 舞台監督:鈴木康郎
• 照明:木藤歩
• 制作:黄木多美子(プリコグ)
• 製作:チェルフィッチュ、プリコグ

米国ツアー:
• 「God Bless Baseball」は昨年11月に東京公演を終え米国ツアーへ。ニューヨーク、フィラデルフィア、シカゴ、コロンバス、メリーランドで公演する。

岡田利規氏:
• 1973年 横浜生まれ。演劇作家、小説家、チェルフィッチュ主宰。
• 1997年に「チェルフィッチュ」を結成。横浜を拠点に活動。
• 2004年2月発表の『三月の5日間』で第49回岸田國士戯曲賞を受賞。選考委員からは、演劇というシステムに対する強烈な疑義と、それを逆手に取った鮮やかな構想が高く評価され、とらえどころのない日本の現在状況を、巧みにあぶり出す手腕にも注目が集まった。
• 桜美林大学、早稲田大学、近畿大学国際人文科学研究所/四谷アート・ステュディウムなどでのワークショップやレクチャー等、講師歴多数。詳細は

http://chelfitsch.net/profile.html


岡田利規氏作・演出「「God Bless Baseball」の1シーンより


岡田利規氏作・演出「「God Bless Baseball」の1シーンより