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サメの顎はヒトの耳の骨?
  興味津々「シカゴ在住若手研究者による研究発表会」

 興味津々「シカゴ在住若手研究者による研究発表会」が4月13日、在シカゴ総領事館広報文化センターで行われ、3人の研究者が発表した。発表会は今回で3回目。
 シカゴの大学で研究している人達が横の繋がりを作ろうと「Japanese Researchers Crossing in Chicago」を創設し、新着者の生活立ち上げ支援や情報交換の場とすることになった。

 今回の発表内容は:
・「形態学ってなんだろう?」
By足立礼孝氏(シカゴ大学Postdoctoral Scholar, Organismal Biology and Anatomy)

・「骨格筋チャネル病 ~Bedside-to-Bench, and vice versa~」
By久保田智哉氏(シカゴ大学Postdoctoral Scholar, Dept of Biochemistry and Molecular Biology)(大阪大学大学院医学系研究科 神経内科学)

・「俺たちにデータを! 経済学者のビッグデータ活用」
By 浅井顕太郎氏(シカゴ大学Doctoral Student, Economics)

 シカゴ大学の足立氏は①形態学の概要、②比較形態学からのEvo-Devo(Evolutionary Developmental Biology―進化発展学)、③今の話題について発表した。

形態学とは:
 形、骨、筋肉、神経などが一体どういう形をしているのか、位置関係がどうなっているのかなどを観察して記述する学問。
 その歴史は古く、200年以上前に遡る。形態学からいろいろな研究分野にその影響が出ている。
 形態学(モノフォロジー)と名前を付けたのは詩人のゲーテ。ゲーテは政治、鉱物などの研究の他、解剖学や形態学もやっていた。

 形態学は大きく分けて、他の動物と比べる比較形態学と、構造物の働きを研究する機能形態学がある。足立氏の研究は比較形態学。

サメの顎はヒトの耳の骨?

 ヒトを含めた哺乳類の耳の中には、鐙骨(あぶみこつ)、槌骨(つちこつ)、砧骨(きぬたこつ)という3つの骨がある。鼓膜にこれらの3つの骨がくっついて神経に繋がり、鼓膜の振動を耳の神経に伝えている。
 この3つの骨は、実はサメの顎(あご)と同じという仮説を足立氏は出している。

なぜなのか、その証拠は:
 サメの顎には上顎、下顎があり、上顎の後ろに上顎を支える骨がある。これがヒトの耳の中の3つの骨が対応すると昔、形態学者が発見した。
 さらに調べると、サメの顎には噛むための筋肉(咀嚼筋)がついている。そして、これを動かすための三叉神経がある。更に、骨の少し上のところに三半規管がある。
 ヒトの耳もこれと似たような位置関係をしている。サメの咀嚼筋が後ろに伸びて耳の所についており、同じように三叉神経に支配されている。また、平衡感覚を保つ三半規管が耳の骨の傍にある。位置関係が酷似していることから、3つの骨は同じではないかと仮説を立てたという。

 第二の証拠は、原基が同じであること。サメの胚とヒトの胚を調べると、3つの骨はサメもヒトも同じ所から出てくる。
 また化石を調べると、顎の骨がだんだん小さく変形して耳の中に入って行くという過程が捉えられた。
 発表会では、発表の途中でも質問ができる。サメの顎は一つであれば、耳は一つしかできないのではないだろうか。足立氏によると、ヒトなどの哺乳類は顎の骨が増えて左右に4つぐらいずつできた。顎に一つの骨を使い、残りは耳に入れたということになるという。

指はどうやってできたのか?

 魚がどうやって陸に上がったのは大きな謎だが、ヒレからどのように手や指ができて行ったのだろうか。
 ユーステノプテロンという魚の化石には、ヒレの中に骨がある。アカントステガという魚のヒレには腕の骨があり、8本の指の骨がある。2000年ぐらいまではこの2つの化石の間にどの様な進化が起きたのか分かっていなかった。

 足立氏の先生が北極圏にあるカナダへ行き、地層を観察したところ、化石が出てきた。その化石には魚のようなうろこがあり、サラマンダーやワニのような頭を持つ。ヒレには腕の骨のようなものがあり関節もある。ヒレは体の下の方から出ていて、筋肉が付着する部分がたくさんある。腕立てをするに十分な筋肉があったと考えられる。この様なことから、陸の上を這いずり回ることができたのではないかと考えられ、最初に陸に上がった魚とも推測できる。この化石はティクターリクと名付けられている。

魚は指を作る遺伝子を
持っていたのか?

 指を作るにはHox遺伝子が重要な役割を果たしている。この遺伝子をなくしたマウスは指がなくなる。
 マウスにはHox遺伝子の発現を制御する領域がゲノム上にある。それは魚にもある。ゼブラフィッシュの発現領域をマウスに入れてアクティビティを観察したところ、アクティビティはなかった。従って、魚にはマウスの指を作るような発生メカニズムはないと考えられた。
 しかし、指のようなものを持ったヒレが見つかったことから、足立氏の先生は魚にも指を作るメカニズムがあるかも知れないと考え、原始的な特徴を持つチョウザメで調べてみた。すると、チョウザメのヒレにはHox遺伝子が出ていた。もっと原始的な特徴を持つエイにもHox遺伝子が出ていた。現代のゼブラフィッシュからは失われた特徴が原始的な魚にはあるかも知れないという考えは当たっていた。そして、魚はマウスの指を作るのに必要な発生機構の一部を魚は持っていたのではないかという仮説に至った。
 この論文に異論を唱える研究チームもあり、議論が続いている。今Evo-Devoではホットな話題だという。
 
ヒトの祖先は
どんなものだったのか?

 ヒトの祖先はある時期に両生類に似ていて、ある時期は魚に似ている。更に遡るとサケのようになり、更に遡ると円口類になる。
 円口類で生き残っているのはヌタウナギやヤツメウナギ。これらはウナギに形態が似ているだけで、かば焼きで食べるウナギとはまったく違っている。
 円口類には顎がなく、三半規管もない。鼻の穴が1個しかなく、胸ビレ、腹ビレ、肩、首がない。
 これよりも遡ると、ナメクジ、ホヤ、ウニの仲間、更に昆虫に分かれた仲間の祖先となる。

 足立氏らが研究したいのは、こういった祖先から顎を持ち2個の鼻の穴を持ち、ヒレがあるという祖先にどうやって進化したかを調べること。
 調べる方法は、たとえば顎を例にすると、ヤツメウナギとgnathostomeという顎のある魚との比較で見ることができる。2つの魚の細胞は、「顎を作りなさい」というシグナルの受け取り方が違う。シグナルとはたんぱく質が細胞に対して情報を伝えるもので、情報を受け取った細胞が何か違うアクションを起こす。
 ヤツメウナギとgnathostomeという魚では情報を伝える範囲が違い、これによって顎ができるかできないかが変わってくるのではないかと考えられる。足立氏らはさらに、ヒレがどのようにできるかについても仮説を立てて研究を続けている。

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 若手研究者発表会では、今ホットな話題となっているSTAP細胞についての自由討論が行われた。

 ある研究者は1980年から1981に米国で起きた捏造事件について話した。マーク・スペクターという大学院生がラッカー指導教授の学説を実験で証明した。これは指導教授の考えにのっとって、出したい結果が何でも出せる状態にしてデータを出したもので、捏造だった。
 論文については取り下げとなったが、スペクターが事件発覚以前に出した5つの論文は取り下げられていない。しかし、捏造事件が起きたために誰もその論文を信じていない。STAP細胞の実験の虚実は不明だが、科学界へ与えるインパクトは殆どないという。
 また、再現できない実験はたくさんあるが、上手く行かないものは取捨選択されて行くので主流には影響がない。さらに、捏造すれば将来が無いことが分かっているから不正はめったに起きないという。
 スペクター事件では、ラッカー教授はその後の人生を真実追及のためにほぼ費やすことになった。一方、スペクターは失踪し、退学になり幸せにはならなかった。不正を起した人は放っておいても処罰されることになるという。

 理研の立場はどうなのかという意見も出た。
 記者会見では科学面の問題が労務規定などの民事的な方向に変わっていった。また、特定国立研究開発法人指定の話が取り沙汰されている時に理研はメディアを集めて大々的にSTAP細胞の発表を行った。理研側に発表を利用する下心はなかったのか。メディアを多く集めたためにメディアが騒ぎすぎている。論文は論文で戦えばよいという意見もあった。

 小保方さんは未熟だったという報道もある。しかし研究者はそのようなことは言い訳にならないと指摘する。米国大学では科学者としての道徳の授業が必須になっており、コピー&ペーストをしてはいけないことや引用する時には出典を明記するなど、当たり前と思えることを再確認させているという。
 日本では正規に研究スタッフになる時に研修があるという。実験ノートや研究ノートは義務付けられている。それをチェックするのはグループリーダーや雇用主だが、小保方さんはユニット・リーダーであったため誰かに見せていたかどうかは不明。

 いずれにしても、こうした事件が起きると研究者に対する規制がいろいろとできる。細かい規制に縛られて真面目にやっている研究者が一番困ることになる。真面目にやっている若い研究家の作業を増やさないで欲しいという意見もあった。 (次号に続く)

足立礼孝氏