第8回継承日本語弁論大会
出場者20人が多文化の中での発見や挑戦を語る
第8回継承日本語弁論大会が2月4日、在シカゴ総領事館広報文化センターで開催され、イリノイ、ミネソタ、ウィスコンシンの各州から出場した20人の生徒達が堂々と日本語でスピーチした。スピーチの題名は「ドクターマーティンルーサーキングへ敬意をこめて」、「繰り返してはいけない歴史」、「三つの母国語を持つと言う事」、「第2外国語にスペイン語を選んだ理由」、「世界の共通語」など、複数の言語や文化背景を持ち、既にグローバル視点を認識している生徒達の思いが込められていた。今年は40人近くの応募者の中から厳選された20人の発表で、レベルの高い大会となった。
継承日本語弁論大会は日本語を継承する子ども達や学生達の発表の場として2017年に創設されたもので、在シカゴ総領事館、シカゴ日本商工会議所、シカゴ日米協会、シカゴ姉妹都市インターナショナル大阪委員会が共催している。
継承弁論大会は小・中学生を対象にした第一カテゴリーと、高校・大学生を対象にした第二カテゴリーに分けて行われる。各々のスピーチの後には審査委員長から日本語で質問があり、その答えも評価の対象となる。
小学3年生から大学4年生まで20人の出場者を歓迎した柳淳在シカゴ総領事は、同弁論大会が2017年の初回から今日までに益々盛んになり、今年は過去最高の応募者を得たと話した。そして、その中から第一関門を通過して来た出場者に「おめでとう」と呼び掛けた。
また、また柳総領事は、出場する生徒のために常に時間やエネルギーを注いでくれた先生達や、子供達を勇気付け支えて来た保護者や家族の労をねぎらい、感謝の気持ちを表した。同時に、共同開催者やスポンサー、審査員を務めた教育関係者の協力に礼を述べた。
柳総領事は、日本の背景を持つ子供達が米国で日本語を学ぶ環境について、コミュニティベースの非営利団体運営による日本語学校であったり、補習校の国語課であったりといろいろなセッティングがあり、教育手段に水準がなく教科書や教師も標準化されていない事を知ったと話し、この様な実態について国際交流基金が一つのイニシアティブを発足させていることをお知らせしたいと語った。国際交流基金のロサンジェルス・オフィスでは昨年11月に継承日本語教育をサポートする新規プログラムを発足させており、この様な努力が継承日本語学習者の環境を改善してくれるものと願っていると話し、出場者の皆さんが日本語の学習を継続し、将来2つの国の人々の架け橋となってくれることを望むと語った。
登壇した出場者は、緊張しながらも堂々と日本語でスピーチし、平憲子審査員長の質問にも日本語で答えた。
弁論大会終了後には軽食が提供され、出場者は家族や友人と歓談しながら緊張をほぐした。
その間に審査員による受賞者の決定が行われた。受賞結果は柴田勉領事/広報文化センター長から発表された。
主な受賞者スピーチ
グランド賞スピーチ
グランド賞を受賞したリオ・ハナズカさん(シカゴ双葉会補習校中学部)のスピーチは「親の英語を笑うのはよそう」。
ハナズカさんは4歳の時にアメリカに来て以来、英語を第一言語として教育を受けて来た。家庭ではもちろん日本語で話している。
ハナズカさんは中学生の少女らしく、日本人の母の英語を恥ずかしく思う事があった。この様な話題を友人と笑いながら話すのは、全く悪気のない事だった。ある日母と買い物に行ったハナズカさんは、母の英語が店で通じないのを見てクスクスと笑ってしまった。この様な経験は誰でも一度はしているものだ。
ハナズカさんは昨年の夏休みに日本の中学校に体験入学した。補習校で好成績を得ていたハナズカさんは自信たっぷりだったが、漢字のテストはバツばかり。日本の中学では漢字の「とめ」や「はらい」が正しくできているか、非常に厳しい。帰宅したハナズカさんは恥ずかしさと苛立ちで泣いてしまったが、母は優しく「良い経験したじゃない」と言って、一緒に勉強をやり直してくれた。
今度は自分の名前を漢字で書けなかった。補習校ではひらがなで「りお」と書いていたが、「凛桜」書き慣れない字を書くのは難しかった。帰宅したハナズカさんは、さっそく父に「なぜそんなに難しい漢字を選んだのか」と食って掛かった。父はハナズカさんの目を見て、その意味を説明してくれた。
「日本人は古くから桜を愛でる。私に、世界のどこにいても厳しい冬の寒さに耐えて美しい花を咲かせ、人々に春の希望を与える存在になって欲しいと願いを込めたそうです」とハナズカさんは説明する。「私は漢字にこれほど鮮やかな春の情景や強いメッセージが込められている事を微塵も知りませんでした」とその感動を語った。
両親は日本語の僅かな文法の誤りを正すよりも、母国語で家族の世界を共有し一緒に感動したい、美しい日本語を引き継いで欲しいと願い応援してくれていた。ハナズカさんは、母の英語を笑った瞬間を思い出し、殴られたような感覚になったという。「親しき中にも礼儀あり」、その第一歩は一番身近な両親だとハナズカさんは気が付いた。
「補習校で学ぶ私達は、英語と日本語で思いを表現でき、日本とアメリカの架け橋になれるはずです。人をリスペクトできれば世界中の人達と繋がることができます。更に言葉の理解を深めて言語の習得と人格の形成に精進したいと思います」とハナズカさんはスピーチを結んだ。
ハナズカさんにはANAより日本への往復航空券が贈られた。
第1カテゴリー、第1位のスピーチ
第1カテゴリーで第1位に選ばれたレンタロウ・リダーさん(ミネソタ・ジャパニーズ・スクール、5年生)のスピーチは「立ち上がる紙、支えられる命」。
2024年元旦、石川県で大きな地震が起き、リダーさんは「僕がアメリカでできる事はないだろうか」と考えた。食べ物やコートを送っても交通が寸断されていて届けることが困難。折鶴を送っても本当に困っている被災者の人々の助けになるかどうか分からない。
そこでリダーさんは小さい頃から折っている大好きな折紙の事を考えた。中でも面白いのは平折りで、tessellationとも呼ばれ、一瞬のうちに平面から立体に変形させることが可能だ。
例えば大きな地図をコンパクトに折りたたんで、必要な時にパッと広げるのに便利で、折り目がジグザグになっているために破れにくく、開け閉めが簡単で、三浦折りとも呼ばれている。この三浦折りは、太陽光パネルをコンパクトに折りたたんで人工衛星に積むためにも採用されている。
リダーさんは平折りの活用法について調べている時に、避難所で素早く組み立てられる段ボールの間仕切りがある事を知った。丈夫な上に工具も必要とせず、災害時のスペースや材料が限られている時こそ平折りが活躍しそうな予感がした。
そして、「将来平折りの技術を作って、地震に強い家を作れたら」と思った。今は3Dプリンターで作られている家もあり、その様な技術を合わせれば安心して住める家が増え、地震が多くても故郷に住み続ける人が増え、過疎化が防げると考えた。
「千羽鶴を折る気持ちが平折りの技術に進化して、いつか被災地の人々の喜びになるパワーになればと願っています」とリダーさんスピーチを終えた。
第2カテゴリー、第1位のスピーチ
サツタニさんは言葉が大好きで、読み書きも読解することも大好きだという。スピーチでは、四字熟語や二字熟語について語った。
それらの成り立ちや、構成される漢字が気になると「とことん調べる」というサツタニさんは、その前に自分で一度考察し、由来を予想することにしている。例えば「一部始終」という四字熟語は最初から最後までという意味だが、なぜ一部という反意語が付くのだろうか?
サツタニさんの考察では、ある出来事は人生や時代の一部であることから、その出来事の最初から終わりまでとすれば納得できる。また、一般的に一部始終は人生などの長い期間には使わない。
ところが調べてみると、サツタニさんの予想は違っていた。一部始終という四字熟語にある一部とは、物事や書物の一部分という意味ではなく、書物全体を「一部」と表しているのであり、一部始終とは一つの書物の初めから終わりまでを意味する熟語だった。
もう一つの面白い例は、「告白」や「独白」など、何か大切な事を打ち明ける時に使う言葉に白という色を表す言葉が使われていること。これはなぜだろうか?
白には神聖、純粋、無垢という印象があり、告白や独白は意味の良し悪しに拘わらず無垢なものを一変させてしまう事を告げることだと思われる。
サツタニさんがさっそく調べてみると、やはり予想とは違っていて、「白」という字にひらがなの「す」を付けると「もうす」と訓読みでき、物を言うと意味があった。そうであれば「自白」や「白状」の意味も良く分かる。
サツタニさんは「同じ漢字や同じ音の響きにもたくさんの意味が眠っています。街中の看板やテレビから流れて来るニュース、小説、マンガ、私は毎日を言葉の海だと思います。たくさん溢れてしまって、誰一人としてそのすべてを把握しきれていないなんて、まるで宝石のようです。だからこそ私達は言葉を磨いて、その意味や成り立ちを考えるべきだと思います。たくさん考えた後で答えを知ると一層理解が深まります。きっと良い意味で言葉に裏切られる面白さに魅せられると思います」とスピーチを結んだ。
リダーさんとサツタニさんには米州住友商事より100ドルのギフトカードと、北米パナソニックコネクトよりワイヤレス・イヤフォーンが贈呈された。
Other Awardees:
2nd Prize:
Yulia Lizama, Taihei Eastwood
3rd Prize:
Ryoga Hayashi, Senri Ger
4th Pirze:
Anna Sekiguchi, Ibuki Takahashi
JASC Award:
Hugo Strulovici, Mikoto Matsuda
JIC Award:
Kai Senzaki Coughlin, Haruaki Horii, Julia Mitsunaga, Eito Tabion, Nanami Tamura, Louis Burke, Leia Tanaka, Zen Nagao, Nolan Wade