よみがえる記憶「Fell to Fern」、キク・ヒビノ氏による新たなサウンドインスタレーション

Kiku Hibino at his opening on June 19, 2022 - Robert W. Karr, Jr.

日本生まれのサウンド・アーティスト、キク・ヒビノ氏が6月19日、最新のサウンドインスタレーション「Fell to Fern」をシカゴ市にあるリンカーン・パーク・コンサーヴァトリーで開始した。このサウンドインスタレーションは9月25日まで、同パーク植物館内の「Fern Room」で体験できる。

ヒビノ氏がこのプロジェクトに着手した時、最初に心に浮かんだのは名古屋の祖父の家で過ごした子供の頃の想い出だった。

ある日の午後、ヒビノ氏と祖父は柔らかいシダと苔の上に落ちているひな鳥を見つけた。どうやら木の上の巣から落ちたらしい。二人はひな鳥が独り立ちするまで大事に育てた。

ヒビノ氏はその想い出とシダの葉の幾何学的な模様に触発され、それらを解釈しながら音楽のパターンとメロディを創作した。「Fell to Fernにおいて私の意図するところは、Fern Roomを強調するためのサウンド環境を創り出すことでした。特に作曲し始めた時は、この部屋を訪れる人達の事よりも植物の事を自然に考え始めました。訪れる人達は音楽よりもこの部屋の植物を楽しむために来るのですから、その人達の事を考えないように試みました」とヒビノ氏は語る

録音中、自分自身がシダや苔であることを心に描いていたというヒビノ氏は「植物は私達よりも賢いと言われています。だから植物は、我々とは非常に違う聞き方をしているに違いないと考えていました」と説明する。「例えば雨や霧雨の音は殆どの音楽よりも広い周波数を持っています。シダや苔はこの様なタイプのサウンドを好むだろうと想定し、楽譜に音符を並べるよりも周波数と振動を作曲の中心におきました」と話す。

録音を進めるに従って、子供時代の記憶が強まって来たというヒビノ氏は「私にはシカゴにあるシダや苔が、祖父の昔の日本庭園とこのFern Roomという2つの時と場所を繋ごうとしているかのように思えます。意味あるように思われる想い出の中から、鮮明で心温まる一瞬々々を捉えるように試みました。この様に進めていく中で、このFern Roomを訪れる人々や家族連れの人達の事を考えるようになったと思います。それらの人々と植物好きだった祖父を持つ私は、同じ価値感を分かち合うのだと思いました。こういった思いが全て繋がって、この曲『Fell to Fern』が完成したのです」と語った。

ヒビノ氏は、自分自身に誠実にである事の重要性を含め、この作曲から多くを学んだという。誠実であることを創作過程に込めたことを通して、真の想い出によって現状の自分に光を当ててくれる新しい扉を開くことができると強く思う事になったと話す。ヒビノ氏は、罪と罰、白痴などの著書で知られる思想家のドストエフスキーの研究を回想し、「古い想い出を辿ることは、いつも楽しい事ばかりではない。しかし、その様な想い出は皆さんを生涯護ってくれる。その様な想い出を一つでも心に留めておけば、いつの日かそれが救済者だった事が証明されるだろう」というドストエフスキーの言葉を語った。

Kiku Hibino and friends at his opening on June 19, 2022 - Robert W. Karr, Jr.

ヒビノ氏のサウンドインスタレーション「Fell to Fern」はLincoln Park Conservatoryのthe Fern Roomで経験できる。9月25日(日)まで。

ヒビノ氏のライブ・パフォーマンスは、7月9日(土)午後2時からthe Museum of Contemporary Art Chicagoで行われる。このパフォーマンスは、Greg Bae氏がスティーブン・ヘス氏やHaruhi氏と共に創作したヴィジュアル・アートワーク「Ex_Radio」のサウンドインスタレーションをヒビノ氏が初公開する。

キク・ヒビノ プロフィール:

日本生まれのサウンド・アーティスト、キク・ヒビノ氏は、視覚的な幻影とモアレ図形によって特異なリズム構造とメロディを持つ電子音楽を創作する。

ヒビノ氏は映画やビデオ音楽からデジタル・マイクロ・サウンドのアート・インスタレーションまで、多くの分野のアーティストや学者らと国際的にコラボレーションしている。その中には、周雨歌、ミツ・サルモン、川口隆夫(ダムタイプ)、シアスター・ゲイツ、マイク・ワイズ、ノーマ・フィールドがいる。

ヒビノ氏の作品は、David Logan Center for the Arts、 Experimental Sound Studio、 Chicago Cultural Center、Three Walls、Compound Yellow、Elastic Arts、Hairpin Arts Center、Hyde Park Art Center、Utah Museum of Contemporary Artなどで体験できる。

ヒビノ氏はシカゴに活動の本拠を置き、数々の賞を受容している。主な賞は、シカゴ市文化関連部より2017 Individual Artist Grant、実験音楽サウンド・スタジオより2021 Outer Ear Artist in Residency、シカゴ・ミュージック・アワーズより2021 nominee for Best Asian Entertainerなど。

英国のワイヤー誌はヒビノ氏の音楽について「消え失せる前にできる限りの想い出を詰め込もうと試みている」と表現し、消失する想い出を捉えて保存することに気を揉んでいると書いている。(2007年279号)

ヒビノ氏は慶応大学湘南藤沢校で電子音楽作曲を学び、岩竹徹氏や田中能(あたう)氏、クリストファー・ペンローズ氏に師事した。カリフォルニア大学サンタ・バーバラ校ではカーティス・ローズ氏、カレン・タナカ氏に師事した。また、メディア・アート&テクノロジーで修士号を取得している。

ヒビノ氏は2021年、クリエイティブ・パートナーのグレゴリー・バエ氏と共に電子音楽のコンサートシリーズS/Nを発足させている。

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