第37回日本語弁論大会、28人が学習経験を堂々と発表

第37回日本語弁論大会の出場者と審査員。前列中央は田島浩志総領事

 第37回日本語弁論大会が3月25日、在シカゴ総領事館広報文化センターで開催され、日本語を学ぶ学生28人がイリノイ、インディアナ、ネブラスカ、ミネソタ、ウィスコンシンの5州から 参加し熱弁を振るった。スピーチの内容も困難を乗り越えた経験や前向きな気持ちで開けた世界、日本語学習を通して学んだことなどが発表され、興味深い弁論大会となった。

 挨拶に立った田島浩志在シカゴ総領事は出場者に向かい「皆さんは将来の日米友好関係の希望の代表者だ」と述べ、日米間で活躍する過去の出場者を紹介した。

 第7回日本語弁論大会で優勝したスティーブ・フェルドマン氏は、今や2億人のヴューアーを持つ日米バイリンガルのユーチューバーとして活躍している。

 第14回日本語弁論大会で姉妹都市大阪賞を受賞したジェイソン・ジョーンズ氏は、後日日本政府の奨学金を受けて大阪大学の修士課程で学び、その後博士号を取得し助教授となり、米国や海外で日本研究についての講演を続けている。

 田島総領事は「両人のストーリーは、どの様に皆さんが日本語能力を使って日米間の懸け橋を築くかと言うほんの2つの例だが、この弁論大会への出場はそのゴールへの重要なステップであり、コンテストの結果に拘わらず、この舞台に立つために努力して来た自分自身に誇りを持って欲しい」と出場者を励ました。

 また、総領事は出場者を指導し勇気付けて来た先生達や保護者の労をねぎらい、同弁論大会の共同開催者、審査員、寄付者や協力者に感謝の気持ちを表した。

 さらに、エンターテインメントだけでなく精神力を鍛えるけん玉の実演のためにゲスト出演してくれたスィーツス・けん玉・ファウンデーションのジョシュア・グローヴ氏に礼を述べた。

 

 日本語弁論大会は第1カテゴリー(小中学生)、第2カテゴリー(高校生)、第3カテゴリー(大学生)の3つに分けて開催される。各々のスピーチの後には審査員から日本語で質問があり、スピーチ内容を本当に理解しているかどうかも試される。流暢な日本語で話すだけでなく、スピーチとしての質が総合的に評価される。

 同弁論大会は在シカゴ総領事館、シカゴ日本商工会議所、シカゴ日米協会、シカゴ姉妹都市インターナショナル大阪委員会の共催で開催されており、多くの企業が協賛している。

 出場者にはグランドプライズ、姉妹都市大阪賞、1位、2位、3位、4位、シカゴ日米協会賞、イリノイ日本語教員協会賞、シカゴ総領事館広報文化センター賞が贈られた。入賞者名は英語面を参照。

受賞者スピーチ

 

コナー・ドゥウィーさん

 グランド・プライズを受賞したのはコナー・ドゥウィーさん(ウィスコンシン大学マディソン校)で、スピーチタイトルは「傷跡」。

 予定より早く生まれたドゥウィーさんはお腹の中に穴があり、手術が必要だった。そのために多くの傷が残ったが、高校生になるまでに成長した。だが高校に入る前まではゲーム以外には何も興味がなく、喧嘩早いがいつも負け犬だった。

 転換期が訪れたのは高校入学前の夏だった。「僕のヒーロー・アカデミア」というアニメを見て、主人公が夢を叶える姿に感動したというドゥウィーさんは、自分を変えたい、頑張りたいと思うようになった。

 それから1年間でドゥーウィーさんの生活は180度変わった。本気で勉強し、成績がぐんぐん上がり、翌年には優等生クラスで授業が受けられるのではないかと期待できた。

 また、クロスカウントリー・クラブにも入り、素晴らしい走りを見せる同級生のライバルに追いつこうと、春シーズンを目指して準備を進めていた。

 だがある日の登校中、ドゥーウィーさんは胃の激痛に襲われた。生まれた時の手術によってできた瘢痕組織と呼ばれる傷跡が胃の中に蜘蛛の巣のように広がり、再手術を余儀なくされた。

 これにより数か月の入院となり、食べる事も自分で立つこともできなくなり無力感に沈んだ。退院後も普通の生活にはなかなか戻れなかった。夏休みには、春学期で休んだ授業を受るために登校したが、歩くだけで息が切れた。このような生活の中でドゥーウィーさんは、今までの努力が全て無駄になったと感じ、やる気が砕けた。

 その時に母が手を差し伸べてくれた。「普通の生活に戻りたかったら、優等生クラスの授業を受けたかったら、走れるようになりたかったら、あきらめない事だ」という母の言葉がドゥーウィーさんを救った。

 再び懸命に勉強に励み、徐々に走れるようになった。完全復帰には多くの時間がかかったが、3年生の時に遂にライバルに勝つことができた。

 ドゥーウィーさんは「お腹の傷は私を苦しめましたが、今日の自分を作ってくれました。私の傷のように、誰にもある傷が我々の体の一部になり、あきらめない強さを教えてくれます。傷に貰った強さがあるからこそ、母が私に言ってくれたように、私達は誰かのために手を差し伸べられるでしょう」とスピーチを結んだ。

 ドゥーウィーさんにはJALより5万マイルのマイリッジが贈られた。

 

ウィリアム・パンデスさん

 姉妹都市大阪賞を受賞したのはウィリアム・パンデスさん(デュポール大学)で、スピーチタイトルは「イエスの力」。

 パンデスさんは、何かを求められたらいつも「イエス」と答えなさいという映画「Yes Man」の金言を紹介し、「私もイエスの力を感じたことがあります」と本題に入った。

 昨年12月に日本行きの飛行機に乗っていたパンデスさんは、飛行機のエンジントラブルで別便に乗り換える事になった。そこで事情を良く呑み込めていない視聴覚障害を持つ日本人に出会った。その人に話しかけるべきかと自問したパンデスさんは、自分に「イエス」と答えた。そしてその日本人にテキストで状況を説明してあげた。

 イエスと答えた縁で2人は仲良くなり、互いに連絡先を交換した。その日本人は大阪に住む田中さんという人物だった。

 一方、イエスの答えは問題をもたらすこともある。成田空港に着いたパンデスさんは、航空券を買うお金が足りないから貸して欲しいとフィリピン人に頼まれた。自分の家族もフィリピン出身であることから「イエス」と答えた。

 その後、大阪に着いたパンデスさんは、ホテル代が足りなくなっている事に気が付いた。困って神頼みをすると、そこに田中さんから「私の家に泊まりませんか」とメッセージが届いた。もちろん「イエス」と答えた。

 パンデスさんは子供の頃に両親から、知らない人がキャンディをくれたら絶対にノーと言えと教えられていた。なので、知らない人の家に泊まって大丈夫だろうかと気になった。

 寝ていると人の気配を感じた。目を開けるとナイフを持っている人影が見えた。ここで死ぬのかと戦慄が走った時、「もっと毛布要る?」と声を掛けた人影は田中さんだった。胸を撫で下ろしたパンデスさんは「イエス」と答えた。

 翌日、田中さん一家と一緒に大阪城に出かけ、日本の歴史や文化について教えてもらいながら楽しい午後を過ごした。田中さんの奥さんからも、田中さんを助けてくれた事に感謝しているとお礼を言われた。そして普通なら突然の招待を断る人が多いのに、パンデスさんがイエスと答えたことに驚いたと話してくれた。

 パンデスさんは「もし私がフィリピン人の男にノーと言っていたら、そして田中さんの招待にノーと言っていたら、田中さんや家族と知り合う機会はなかったでしょう。大阪を冒険するチャンスもなかったはずです。イエスの答えは人にやさしさを教えてくれました」とスピーチを結んだ。

 パンデスさんにはシカゴ姉妹都市インターナショナル大阪委員会より、大阪への往復航空券と2週間のホームステイが贈られた。

 

アヤーン・サイードさん

 第3部で1位となったのはアヤーン・サイードさん(ミネソタ大学)で、スピーチタイトルは「忘れられない初めての海外旅行」。

 サイードさんの家族に父親はいない。貧困は知らずに育ったが長女として母を助けようと、高校4年生の時にアルバイトを始めた。

 少しずつ貯金ができて、4年間日本語を勉強していたサイードさんは友人と日本へ旅行に行くことに決めた。母は「若すぎる」と反対したが、「日本に行ったら将来やりたいことを思いつくかも知れない」と思い日本行きを決めた。

 いざ飛行機に乗り込むと母が恋しくて泣いてしまったが、日本に着くと2日ぐらいで日本に慣れた。ホテル近くに住む高齢者夫婦がしばしば優しく話しかけてくれ、サイードさんの日本語を褒めてくれた。

 アフリカ系アメリカ人のサイードさんは事前に、日本に行った人の話をたくさん調べた。特に黒人の人達の経験について知りたいと調べてみると、電車の中で隣に座りたがらない日本人の事や外国人嫌いのお年寄り、知らない日本人から急に髪を触られたなどの話が多かった。

 「そのことを覚悟しましたが、必要ありませんでした。話しかけてくれた日本人はみんな本当に優しかったです」というサイードさんは「何でも自分で経験してみるまでは決めつけたり、他の人の経験を鵜呑みにしてはいけないと、この経験を通して感じました」と話した。

 日本に行く前のサイードさんは、人に話しかけるのが怖くて会話が苦手だった。だが日本へ行って違う人生を生きている人達と話した事で、会話の楽しさに目覚めた。そして、人との出会いが楽しくなり、その人達の事をもっと知るために、その人達の文化や生活を理解したいと思うようになった。

 日本旅行を通じてサイードさんは世界の広さを直に知り、将来自分がやりたいことも見えて来た。

 「その広い世界い飛び出して、素晴らしい経験を積みたいです。実際に経験することで自分に向き合う事ができるし、インターネットや他の人からは得られない世界を見る事ができます。他の文化や生活を学べる海外旅行がもっとできるように、これからも日本語や外国語の勉強を続けて行きます」とサイードさんは語った。

 サイードさんには米州住友商事より100ドルの商品券、パナソニック・コネクト・ノースアメリカよりワイヤレス・ステレオ・イヤーフォンが贈られた。

 弁論大会で審査員を務めたマーガレット・オコーネル氏は、外国語を習得する自らの経験を出場者に語った。同氏はエヴァンストン・タウンシップ高校で日本語教師を務め、以前はJETプログラムに参加し、日本の生徒達に英語を教えていた。

 オコーネル氏はまず「皆さんの日本語学習の成果が、皆さんの経験やアイデンティティなどのスピーチ内容に深く反映されていて、私はとても感動し非常に印象付けられました」と出場者を称賛した。

 オコーネル氏は14歳の時から日本語を学び始めた。外国語の学習は日常とは違う目を通して世界を見る事であり、新しい文化や社会的価値観や思想を見る事だと話す。

 また、外国語学習の旅は一生のコミットメントであり、自らも毎日日本語の新聞を読んで語彙を増やしているという。

 オコーネル氏は人気連載漫画の「舞妓さんちのまかないさん」を例に挙げ、京都弁や舞妓さんの言葉など新しい言葉が無限に出て来るが、それにうんざりせずに学びのチャンスだととらえて学習を続けて欲しいと出場者を激励した。

出場者にけん玉を教えるジョシュア・グローヴさん(左)

 審査員が採点を行う間、弁論大会会場ではスィーツ・けん玉・ファウンデーションのジョシュア・グローヴ氏がけん玉の技を披露した。けん玉を巧みに操るだけでなく、10個並べたけん玉を見事にけんに収めるなど、非常に難しい技を人前で失敗せずにやりこなすという精神力の強さも見せてくれた。

  グローヴ氏は4人の出場者を舞台に上げ、けん玉にチャレンジさせた。すぐにできる生徒、繰り返すうちにできる生徒、なかなかできない生徒と様々だったが、グローブ氏は一人できずに残った生徒を指導しながら、最後まであきらめずに続けさせ、成功させた。

 グローヴ氏は「けん玉はオモチャだが、それだけではない」と述べ、「最後に一人残り、引け目を感じながら皆が見ている前で、時間を気にしながら、大きなプレッシャーの中でチャレンジを続け、けん玉をやり遂げる。どれほど大変な事か今、皆さんは見ただろう。けん玉は己に打ち勝つ精神力を鍛えてくれるものだ」と出場者に説いた。

  出場者は弁論大会の結果を待つ間、公邸シェフの伊藤聡氏が用意してくれた寿司やデザートで団らんのひと時を過ごし、けん玉にもチャレンジした。

受章者

 グランド・プライズ:

    Connor Dewey

姉妹都市大阪賞:

    William Pandes

 第一位:

    Sofia Gulfan, Edward Lee, Ayaan Said

第二位:

    Anja Lebata, Joshua Jimenez, Calvin Eckl

 第三位:

   Lila Dondzik, Edith Estridge, May Vang

第四位:

   Aviana Dulay, Petra Tilden, Bingxian Lin

 シカゴ日米協会賞:

    Grace Kebata, Gretta Burke, Tyler Hunter

 IATJ 賞:

   Bryce Thoma, Amanda Lambert

JIC 賞:

     Noelle McLendon, Zachary Deutsch, Petra Tilden, Nina Djukic, Heather Bey, Brandon Classey, Aishi Wang, Sonya Davis

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