アンダーソン日本庭園でジャパニーズ・サマー・フェスティバル

写真:法悦太鼓の演奏で始まったアンダーソンガーデンのジャパニーズ・サマー・フェスティバル | 浦山美子

ロックフォードにあるアンダーソン日本庭園で7月30日と31日の両日、恒例のジャパニーズ・サマー・フェスティバルが開催された。新型コロナの影響で、毎夏行われてきたサマー・フェステイバルは2019年以来3年ぶり。暑すぎず涼しすぎず最高の天気に恵まれた週末、イベント再開を待ちわびたアンダーソン・ファンが詰めかけ、庭園内で数々の企画を楽しんだ。 

庭園によると、2日間で訪れた入園者は3,644人でサマーフェスティバルの過去最高、3年ぶりの夏の目玉イベントのために6ヶ月前から準備を進めてきたという。まずは鮮やかな庭園の緑を背景に法悦太鼓の和太鼓演奏で幕を開けた。

写真:ゆかた姿で日本のメロディーを聞かせるシカゴ箏グループ | 浦山美子

パビリオンやその周辺では、そのあとシカゴ琴グループによる演奏、書家・小田碧雲氏による大筆の書道パフォーマンス、寺澤正次氏の飴細工、シカゴ美湖連による阿波踊り、明府真影流による手裏剣術実演、合気道や居合の実演などが次々に行われた。

また庭園内の各所には日本文化会館協賛による体験ブースやワークショップが設置された。

タイ・ヤマモト氏が指導する折り紙やウイリアム・シーハン氏による俳句作りのほか、和紙作りのワークショップや書道挑戦など、庭園をそぞろ歩く人々は多彩な日本文化を楽しんでいた。

30日には、ゲストハウス北側で、スティーブ・ジェンセン氏による日本の伝統工芸「金継ぎ」のブースが人々を引きつけた。

金継ぎは、割れたり欠けたりした陶磁器などを修復し、金や銀、銅などの金属粉で修復部分を装飾する日本の工芸。壊れた大切なものを捨てずに、美しく蘇らせるというもので、近年注目を集めている。

趣味が高じてファイナンシャル・アドバイザーという本業のほかに金継ぎインストラクターの資格を持つジェンセン氏は、修復された花瓶や壺などのサンプルを手に、集まった人々に金継ぎ技術の説明をしていた。

ゲストハウス横で終日訪問客を集めていたのは着物輸入を行うTangerine Mountain Imports & Designsの浴衣や着物、帯や小物の販売。色とりどりの和服や着付けアイテムが並べられ、興味ある客にはお試し着付けも行った。

庭園内のゲストハウスや茶室では、郡司紀美子シカゴ大学シャンペーン校名誉教授とアンダーソン日本庭園茶道研究グループによる茶道の実演が行われた。

サマー・フェスティバルに集まった日本文化ファンや、出展した人々の声を聴いた。

伝統工芸・金継ぎを広める

Kintsugi by Steveのスティーブ・ジェンセン氏

写真:壊れた陶磁器に次の世を与える金継ぎの実演。

スティーヴ・ジェンセン氏 | 浦山美子

 父が宣教師だったジェンセン氏は日本の金沢生まれ。子供時代13年間を日本で過ごした。流ちょうな日本語を話す。アンダーソン日本庭園の創始者ジョン・アンダーソン氏の子息で現在庭園を運営しているデイヴィッド氏とは友だちで、日本を訪れたデイヴィッド夫妻を日本語通訳として案内したという。金継ぎについて説明するジェンセン氏のブースには興味をそそられた人々が集まり、いくつもの質問が飛んだ。

Q:金継ぎとは?

ジェンセン:金継ぎとは、金や銀、プラチナや銅といった金属の粉を使って、壊れた陶器を修復する工芸です。ただもう一度使うためだけでなく、壊れてしまったものをさらに美しく蘇らせることが眼目で、日本の「わび・さび」美学の一部です。壊れたり欠けたり、すり減ってしまったりした古いものにも価値があり、むしろ新しいものよりも美しくなる。人間も同じで、ダメになった人というのはいない、だれでも美しくなれる、という考え方につながる。それを教え広めたいと思っています。

金継ぎの「金」は貴金属の金、「継ぎ」は修理の意味。さらに「次」にもつながる。つまり壊れた品物は次の生命を与えられ、美しく蘇るという意味にもなります。

Q:教えるにはどんなものを使う?わざと陶器を壊したり?

ジェンセン:たとえばグッドウィルのような店に行って、欠けた陶器とか古いものを買ってきて教材として使うことはあります。また、工芸学校のスタジオで生徒が作った失敗作などをもらってきたりします。

たとえばこの花瓶(修理されたサンプルの花瓶を手にして)ですが、これは初心者が直したものでしょう。あまりうまくできてはいません。でも(つなぎ目を)金で装飾してあるので、きれいに見えます。これは陶芸スタジオでできた失敗作で、捨てられるところをもらってきたんです。

Q:金継ぎの工程は?

ジェンセン:日本の伝統的な手法は、「スーパーグルー」といって、強力な接着剤を使って割れたかけらをくっつけます。ここでは歯科用のパテを使ってますが - それを付けて5分間待つ。くっついたらつなぎ目を埋めて、それからやすりをかけて滑らかにします。

次に樹脂、これはカシューナッツの木から採った樹脂ですが、新うるしですね。これを金属粉と混ぜます。ここにあるのはこれは銅粉です。混ぜたものを、接着したつなぎ目に塗りつけます。そうするとこのような完成品になる。金粉は高いので、練習用にはよく銅を使います。

もともと、古くはかけらを接着するのに毒ウルシを使っていましたが、これは手などがかぶれるので、今は使われません。

金継ぎ工芸は400年以上の歴史があります。言い伝えによると、ある将軍の愛用の茶碗が壊れたので中国に修理に出した。ところが戻ってきたものがきれいに修理できてなかったので、お仕えする茶道師匠らに下げ渡した。するとかれらは美しく直したので、以後その修理手法がアートとして発達したと言われています。もともとは朝鮮から伝えられた工芸とも言われ、それが日本で独自の発達をしたということです。

Q:金継ぎを始めたのは?

ジェンセン:ニューヨークにいたときに、日本から金継ぎの先生が来て、金継ぎの技術を教えるということがありました。そのときに学んだんです。今は金継ぎのワークショップを開いて、生徒さんを教えています。

これをやっていると、人は壊れたものを直すということを通して、自分の人生を振り返ったり自分について考えたりするんですね。金継ぎをやることで、壊れた大切なものに気付く、そしてそれを修復し、より美しくしようとする。人が自分自身や他の人とつながることでもあります。

特にコロナによる被害や戦争による破壊など、私たちの世界観や価値観が壊れつつある中で、金継ぎは重要なメッセージを発信していると思います。

最近ではテレビ番組で取り上げられたりして、金継ぎは知名度を上げています。

Q:ガラス製品も金継ぎで直せる?

ジェンセン:ガラスは、かけらがいろいろな角度に反射するので、継ぐのには高度な技術が要ります。継ぎ目をきれいに仕上げるのが難しい。でもできないことはありません。

よく、祖父母の代から家に伝わってきた品物を捨てられずに大切にしてきたのに、それを壊してしまったという人がいます。壊れたからといって捨てないでください。修理して、以前よりもきれいにできるかもしれません。

写真:小田碧雲氏の書「祭り」| 浦山美子

***************************

大筆パフォーマンス:小田碧雲氏

パビリオンの屋根の下で、大きな筆を使ってダイナミックな字を書くパフォーマンスを見せてくれたのはシカゴ在住の書家、小田碧雲氏。日本文化会館で毎月書道の手ほどきをしている。

Q:これは何という字ですか?

小田:「祭」です。きょうはまつりの日なので「祭」を選びました。一番簡単でわかりやすい。楽しんで書きました。

Q:ずっと日本文化会館で指導を?

小田:はい、 教えてます。

Q:あそこに(作品に押す)大きなハンコがありますが、小田さんの名前?

小田:そうです。「小田碧雲」です。

Q:あれは日本で彫ったもの?

小田:そうです、日本です。日本の「篆刻」って言うんですけど、印をつくるプロの先生に頼んで作ってもらいました。シールスクリプトといって、これも芸術のひとつですから。

Q:やっぱり大きいものを書くので大きい印が要るわけですね。

小田:そうですね、これは10センチ四方あります。

**************************

写真:着物をはじめ小物やアクセサリーが並ぶ、人気のタンジェリン・マウンテンのブース | 浦山美子

着物をみんなに:タンジェリン・マウンテン

シカゴ郊外に拠点を置くタンジェリン・マウンテンは、日本から中古着物や小物、装飾品を直輸入、販売する会社。テリーとシェリー 姉妹が設立し、アニメイベントなどに出品するほか、全米を回って着物の着方を教えたりしながら日本の着物文化を広めている。

Q:いろいろな種類の着物のほか、着物アクセサリーもありますね。

テリー:そう、アクセサリー(和小物)がこのごろ増えています。アクセサリーから入って、着物に興味を持ってもらえるといいと思います。

Q:今日は着物の着付けもしていますね。着物を着てみたいが着方がわからないという人にとって、とてもいい機会ですよね。

テリー:そう、まさに私たちが考えている理想の機会です。興味を持つ人たちがいるその場所で、じかに着物を試すチャンスを提供するということですね。

テレビで着物を見たり、アニメイベントで実演を見たり、友だちが着物を着てみたことがあるなどという人はあるかもしれません。でも自分で着てみるというのは、正しい着方がわからなければ、間違うのが怖くて試してみようとしないかもしれません。でも誰でも最初から着方を心得ているわけではないし、何事もやってみなければうまくはなりません。肝心なのは練習すること。その点、私たちはここで、帯や付属品すべてを一つのパッケージにして提供しているので、どこからでも入っていける。何でも興味を持てばそこから着物文化に入っていけます。そのような機会を提供したいと思っているんです。

**************************

気軽に来れます

写真:家族で訪れたアーレット・オチョシンスキーさん(左)| 浦山美子

3歳から10歳まで、4人の子どもたちを連れ、姉とやって来たアーレット・オチョシンスキーさんはシカゴのピルセン地区在住。ピルセン地区はアーティストが多く住むことで知られているが、自分は100パーセント母親業だという。

Q:ここへはよく訪れるのですか?

オチョシンスキー:ここ(アンダーソン日本庭園)の会員になっていますので、1年を通して少なくとも4回は来ます、四季それぞれを楽しむために。ここはほんとに綺麗ですから。

Q:会員にはどうして?

オチョシンスキー:たまたまここに日本庭園があることを知って訪れ、そのときにすぐ会員になりました。私は盆栽、園芸全般が好きなので。ただし盆栽は1,2年の経験しかありませんが、でも楽しんでやっています。インスピレーションを得ようと思ってここに来ます。

Q:この庭園のどんなところが好き?

オチョシンスキー:ここは来やすいんです。シカゴには大好きなフェニックス・ガーデンがありますが、大勢で来ると1列になって歩かなければならないし、グループでは少し不便です。シカゴ・ボタニック・ガーデンは広すぎて全部見るのは大変だし。ここはそれほど広くないから、1日ですべてが楽しめます。

Q:なるほどね、ありがとうございました。

*************************

日本旅行体験者

シーラ・カーヴァルホさんと夫のドノバンさんはネイパービルからやって来た。ドノバンさんは目を引く「日本」をあしらったTシャツを着ている。

Q:どうして日本について興味を?

ドノバン:私たちは日本に2度ほど観光に行ったことがあるんです。

京都、奈良、広島、東京、千葉などに行きました。新幹線に乗って移動しました。

Q:どんな体験でしたか?

シーラ:京都では舞妓さんがお茶を点ててくれたり、奈良公園でシカを見たり。

Q:今日のイベントはどうやって知りましたか?

シーラ:ここには以前も来たことがあって、メールのお知らせをもらうようにしてありました。それでサマーフェスティバルのお知らせもメールで知らせてくれました。パンデミックのせいでずっとガーデンの対人イベントがなくて、今度は3年ぶりなので楽しみにしていました。中西部仏教会主催のギンザ・フェスティバルにも行こうと思ってます。今年は「ギンザ・ライト(Ginza LITE)」ということで8月の13日と14日にひらかれるそうです。

Q:日本文化のファンのようですね。

シーラ:そうです、夫が特に。

ドノバン:僕は日本の武道が好きで、空手を4年ほどやりました。シカゴの極真空手です。ネイパービルにも道場がいくつかありますが、コロナのせいで難しいですね。感染が怖いので子どもたちに空手教室をやめさせた親も多いですし。

*******************************

写真:ブリタニー・ジャクソンさん(中央)、ジャクソンさんの娘(右)と友達の ローレライ・ムーアさん (C) | 浦山美子

日本に行きたい

 ブリタニー・ジャクソンさんは娘とその親友を連れてシカモアからやって来た。

Q:今日のイベントについてはどうやって?

ジャクソン:友人がここにもう何年も来ています。それに娘が日本について興味があって、高校を卒業したらスタディ・アブロードのプログラムで日本に行きたいと言ってるんです。それで日本文化に触れるために今日来ました。

Q:日本や日本文化についてはどう思う?

ジャクソン:日本文化はとても好きですね。人を魅了しますし、芸術性が素晴らしいと思います。

Q:この日本庭園は?

ジャクソン:ここの池や草花など自然の扱い方も、庭園全体のデザインもとてもよくできていて、ここにいるとほんとに自然を楽しむことができます。

色の取り合わせも良く計算されていてきれいだし、何か心が温かくなるようで、自分の家にいるように落ち着きます。庭園内をぐるりと歩くと気持ちが静かに落ち着いてきて、いつまでもここに居たくなります。

写真:デビー・ネメスさん | 浦山美子

**************************

着物・コイ・日本庭園

シカゴのビバリー地区に住むデビー・ネメスさんはグラフィック・デザイナー。夫とともに訪れた。着物コーナーで、茶系のモダンな柄の着物を、黒の帯と取り合わせて試着していた。

Q:この着物、気に入りました?

ネメス:とてもきれいだと思います。古いものを探していたんですけど。この柄は、シンプルで単純な線を使ったプリントだけど図柄が大きすぎないし、とてもエレガントです。着物が作り出すタテ長のシルエットは素敵ですね。

Q:日本のものが好きなんですか?

ネメス:ええ、家の庭にはコイのいる池があって、庭のあちこちに提灯を飾ったり、ほんとに日本風になってきてますね。あとは生け花を少しやっています。

Q:なぜ日本風を取り入れたりするように?

ネメス:最初は庭の池に睡蓮を浮かべて。それからそこに魚を泳がせようということになって、コイということになりました。それでだんだん日本風が広がって。

Q:ここにはよく来るんですか?

ネメス:ええ、ここに来始めでもう5年になります。特に夏には2回は来るようにしてます。それから秋、紅葉を見るため必ず来ます。家には日本のモミジの木が5,6本あるんですよ、鉢植えと地植えで。

ネメスさんの夫:彼女はグラフィック・デザイナーなので、美しいもの、アーティスティックなものに関しては目が利くんですよ。

Q:なるほど、それで着物の好みも「渋い」んですね。

Previous
Previous

野毛洋子が現代博物館でコンサート日本の趣をジャズ&ブルースに織り込み聴衆を魅了

Next
Next

ゴジラの祭典“G-FEST”宝田明さんを偲ぶプレゼンや、ゴジラ映画スター達の講演会も