企業進出するならミネソタへ:医療革新技術クラスター、メディカル・アレーが支援

医療関係のベンチャーキャピタル企業、エンゲージ・ベンチャー・パートナーズはメディカル・アレーに参画している(ウェビナーより)

  世界有数の医療革新技術クラスターで、米国最高ランクの病院メイヨー・クリニックをはじめ世界的に有名なメディカル・センターをメンバーに持つ在ミネソタ州のメディカル・アレーを紹介するウェビナーが8月29日、ジェトロ・シカゴ事務所の主催で開催された。

 ウェビナーでは、①メディカル・アレーのグローバル・プリンシパルのカイル・ジョーダン氏がメディカル・アレーの紹介とサービスについて、②オットースフィアのプリンシパル兼CEOのステファン・オットー氏が米国進出を目指す日本のスタートアップ企業へのメンター・サービスについて、③エンゲージ・ベンチャー・パートナーズの創業者兼社長のスティーブ・シグモンド氏と同じく創業者でプリンシパルのモーガン・エヴァンス氏が投資戦略と、投資先となるスタートアップに求める事項について語った。

メディカル・アレー

 カイル・ジョーダン氏によると、メディカル・アレーはミネソタ州のツイン・シティと呼ばれるミネアポリスとセント・ポール地区を中心に医療技術や機器などのネットワークを広げる世界有数の革新的医療技術のクラスターで、医療技術を持つ日本企業の米国市場参入を支援するシステムがあるという。

 メディカル・アレーは医療技術大手のメドトロニックが主導し、医療技術や機器関係企業・組織が共に問題に取り組もうと1984年に発足した。

 現在ミネソタ州には15,000社の医療関係会社があり、メディカル・アレーのメンバー企業数は750社に近づきつつある。メンバー企業はロゴの写真を一瞥すれば分かる通り、米大手の医療保険会社ユナイテッド・ヘルス・グループや全米最高の病院と評価されるメイヨー・クリニック、前述のメドトロニックなどミネソタに本拠を置く医療関係企業や組織が加盟している。

 また、フェデックスやベストバイなど医療外の企業も加盟している。例えばフェデックスはその航空輸送ネットワークを通じて世界へ医療機器を運ぶことができ、メディカル・アレーへの加盟により利益があるという。ベストバイはデジタル医療リサーチに強い組織として知られている。ミネソタ州では50万人が医療関係で雇用されているという。

メディカル・アレーの加盟企業・団体(ウェビナーより)

 メディカル・アレーは医療機器で良く知られているが、現在の半分近くのメンバーはデジタル関係だという。ミネソタは歴史的に、革新技術が育つ環境がある。

なぜミネソタなのか?

 第二次世界大戦後、米政府がミネソタとテキサスのソフトウェア分野に集中投資し、多くのコンピューターソフトウェア技術者がミネソタに流入した。ジョーダン氏の父もその一人。

 医療機器の大手ボストン・サイエンティフィックがミネソタに進出すると、それまでのコンピューター技術が医療機器に転用された。このためにミネソタは医療機器技術に強い。ボストン・サイエンティフィックは本社をマサチューセッツに於いているが、本社人員数の10倍をミネソタに配置している。

 一方、ミネソタは米国で最良の病院だと評価されるメイヨー・クリニックの発祥の地であり(1800年代後期)、医師であった父を継いだメイヨー兄弟が病院を非営利団体化し、医療提供組織として発展させ、今日も革新的医療技術を患者に提供している。

 また、ミネソタ大学では1968年に世界初の骨髄移植を成功させ、メイヨー・クリニックでは1969年に股関節の交換を成功させるなど、ミネソタ州は数々の革新技術や医療システムを生み出している。このような背景があり、メディカル・アレーでは革新技術を開発するスタートアップを歓迎し、支援している。

メディカル・アレーの支援

 メディカル・アレーの700を超えるメンバー企業や組織の密度の高い専門的なネットワークを見れば、米国市場を狙う日本企業の助けとなる事が分かる。日本企業が持つ既存製品が、どの様に米国市場向けに調整できるかなども知ることができる。

 また、既に様々な調査が行われており、一から調査をする必要がないこともポイントの一つで費用節減に貢献できる。

 ミネソタでは歯科関係、オーダーメイド医薬品、臓器移植技術などの分野が非常に強く、将来への期待が大きい。特に移植分野では80%から90%の移植可能な機器がミネソタで製造されているか、少なくとも技術が開発されている。また、メディカル・アレー加盟のミネソタ企業が、FDAの市場導入前審査承認の40%を取得している。

 この様に在ミネソタの多くの医療関係企業がFDA認可を得るためのプロセスを経験しているために既にノウハウがあり、FDAの信頼もある。ミネソタの医療関係コミュニティは概して、他の米国コミュニティよりも約26%早い、約6.5か月でFDAの認可を得ることができる。

 メディカル・アレーは投資家、メドトロニック、ボストン・サイエンティフィック、3Mなどの投資部を持つ企業、コーポレイト・パートナー、200を超えるベンチャー・キャピタル会社などのネットワークを持っており、米国ビジネス参入を望む日本企業を支援することができるとジョーダン氏はミネソタに進出することを促す。

 メディカル・アレーでは、同組織の支援がどのように評価されているのか、医療機器企業やデジタル医療企業、投資家らのトップを対象に昨年調査を実施した。

 その結果によると、投資家から特に高い評価を得た。だからこそ、成長を志す日本企業はミネソタに来てメディカル・アレーを利用すべきだとジョーダン氏は語った。

メンター・サービス

 オットースフィアのステファン・オットー氏は、米国進出を目指す日本のスタートアップ企業へのメンター・サービスについて語った。

 オットー氏は1982年に渡日後、25年間日本で仕事をした。夫人は日本人。今までに3社の子会社を設立しており、取り扱った製品は主に高額の大型医療機器。2007年に米国に戻り、アメリカと日本の両側から医療機器の問題点や狙いに対処する知識や経験を持っている。

オットースフィア(ウェビナーより)

 フルタイムから引退後は、米国、オーストラリア、カナダ、イスラエルの企業4社にメンタリングを行い、同時に2社の立ち上げを支援した経験も持っている。

 米国市場参入を目指す日本スタートアップ企業に対し、オットー氏が指摘する重要点は6点。

1. コミュニケーションがうまく機能しているかどうか、自問自答すること。狙いやゴールが米国にある会社と完全に一致しているか、相手側は自社の強みを良く理解できているかがポイント。メディカル・アレーやメンターとやり取りをして手助けを受けるのであれば、これらの点が非常に重要になる。

2.既にパートナーを見つけている場合は、パートナーが参入しようとしている市場への知見を持っているか、理解できているかを熟考する事。また、自社の方針や製品、将来へのヴィジョンを理解しているか自問する事。さらに、日本での成功を米国でどう活用できるか、パートナーが成功に必要なサポートシステムを持っているか、これらについてのコミュニケーションができているかを考える。必要なサポートシステムが不足していれば失敗する可能性があることを留意しておく事。

3.日本の厚生労働省の認可は降りているのか。降りていれば米国でも成功する可能性が高くなる。だが、個別に見ていく必要があり、パートナー側と案件ごとに、ディールごとに、ステップごとに密にコミュニケーションが取れていなければならない。

4.売り上げ以外のゴールや目標で意思疎通ができているか。両者間でどんなディールが妥当か、どんな合意が可能かを理解しておくことが重要となる。

5.潜在的なパートナー、メンターのデューデリジェンスの実施は最重要点の一つであることを肝に銘じておく事。

6.最後にオットー氏が挙げたのは、無償で得られる情報や市場知識は、ゼロ円の価値しか無いという事。良いメンターも市場知識もお金がかかることを忘れてはならない。

※ジェトロでは日本のスタートアップ企業向けに、一定時間のメンタリングを負担する支援を提供している。

投資を得るには

 エンゲージ・ベンチャー・パートナーズはベンチャー・キャピタル企業で、早期ステージの医療技術企業に対して投資し、素晴らしい投資リターンを出すことをミッションとしている。

 同社では投資先企業が最初のアイディアを出しチームを組んだ後で、資金調達のための製品開発や調査、臨床分析や市場分析などのステージで手助けをしていくというベンチャー企業。約100社の投資先を数か月をかけて精査し、上位2社に対して投資することを判断している。

 その上で、メディカル・アレーに加盟している投資家を募り、共同で投資するという形をとっている。

 ミネソタ州には「ミネソタ・エンジェル・税控除」というプログラムがあり、あらゆる分野のスタートアップに投資すれば税控除が得られるという特典がある。これが投資家にインセンティブを与え、非常に多くの投資家が積極的な投資を行い、イノベーションに繋がっているのだという。

 エンゲージが投資するのは、50万ドルから150万ドル+SPVという規模で、投資先の判断基準は次のようなポイントを重視している。

 

 まず、早期の研究開発製品であること、ユーザーフィードバックや前臨床データを見て、本当にマーケットにニーズがあるのかを検分する。特許取得済みの製品であれば、防衛可能な明確な特許を取得しているか、コア技術を特許で保護できるかを見て行く。

 ソフトウェアという保護できない知的財産がある場合は、明確な競合参入に対する障壁の有無も見て行く。

 その上で見て行くのが商業戦略。米国市場で商業的なパートナーを持っているかどうか、参入地区案、更に製品の対価が得られる説得力ある企画かどうかを重要視する。薬事承前に投資案件の精査を実行するため、認可の可能性については重要なポイントとなる。

 そして、リターンを得られるまでの期間を設定しているか、長期計画を持っているか、そして、事業が上手く行かなくなった時の引き際を設定しているか、こういったポイントも投資判断の重要なカギとなるとモーガン・エヴァンス氏は語った。

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