家庭料理はルーツ:Kimono Momがホームクッキングに乗せるメッセージ
2年間で192か国から120万人のフォロアーを集めた大人気ユーチューバー「Kimono Mom」ことモエさんとは、どんな人なのか? ユーチューブを出した経緯とは? ユーチューブ「Kimono Mom」の魅力とは?
こんな質問にモエさんご本人が答えてくれるオンライン・イベント「The Flavors of Japan to Your Table(日本の味わいをお宅のテーブルに)」が8月25日、シカゴ日米協会の主催で開催された。
京都生まれのモエさんは、舞妓・芸妓として十代を過ごし、結婚のために芸妓を引退した。紆余曲折を経て女児を出産し、産後のうつ病に打ち勝とうと自身のアイデンティティである着物と、母が癒してくれた家庭料理を組み合わせ、子育ての日常生活の中で作る家庭料理を2020年からユーチューブで発信し始めた。現在は国際的な視聴者が日本の食材や料理道具を容易に入手できるようにと「ForSmiles」を設立し、日本のホームクッキングを世界に広げている。
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京都で生まれ育ち舞妓になる厳しさを知っている両親は反対し、両親を説得するのに長くかかった。既に高校生になったモエさんに、父は「お前の人生だから、やりたいようにやれ」とようやく舞妓になる事を許してくれた。
モエさんが高校をやめ、舞妓、そして芸鼓になるために家を出、置屋に移ったのは16歳の時だった。
初めの頃は良く母に電話した。夜遅でも母はすぐに電話に出て、モエさんの話を聞いてくれた。料理上手の母はモエさんの好きなものを作って、置屋の裏口に届けてくれた。その料理を食べると涙が止まらなかった。
舞妓になるために毎日伝統芸能の稽古が続いた。稽古は厳しかったが、一生の宝になったとモエさんは言う。
結婚、離婚、チャレンンジ
舞妓から芸妓へと6年経った頃、前の夫に会った。愛する人と結婚したいと芸妓を引退し、東京に移り主婦となった。舞妓・芸妓の仕事一筋だったモエさんは、新しい生活にカルチャーショックを受けた。
前夫は良く海外出張に出かける人だった。モエさんは海外の事を学ぶ一方、料理学校に通った。
前夫と海外に行く時は、日本の食材をスーツケースに詰め込んで行った。海外で日本食を作るのは難しかったが、工夫をしながらローカルの食材で日本食を作ろうと友人らとチャレンジしていた。
だが、前夫はいつもモエさんが家にいることを望み、モエさんは離婚を決意した。
東京に戻って一人暮らしを始めたが、思ったよりも大変だった。その時モエさんは24歳、芸妓の他に働いた経験がなく、それに中卒だった。だから就職は難しく、コネクションに頼っていろいろな仕事に就いた。モエさんは最終的に、京都の実家に戻った。そこに前夫の死亡通知が届いた。
新たな出発とユーチューブ
モエさんは働きたくて離婚した。だが現実はそう簡単ではなかった。自分は変わらなければと思い、心をリフレッシュして再度東京に出た。そして、現夫のモトさんと出会い結婚、女児を出産した。
その後、出産後のうつ病になった。いつも淋しく、社会から切り離された感じがした。この時期にアメリカ人のユーチューバーから、母親と赤ちゃんについてインタビューの申し込みがあった。モエさんは鬱を打破しようと、そのオファーを受けた。
その時に初めてユーチューブが仕事になる事を知った。子供の世話をしながら家でマイペースでやることができ、現状に合うと思った。
ユーチューブのテーマとして、娘に何を残せるかと考えた。振り返れば、苦しい時に自分を支えてくれたのが母の料理だった。舞妓の修行中や離婚後に実家に戻った時など、どんなに苦しい時でも母の料理があった。
ユーチューブ・ビデオを作っておけば、家庭料理のレシピを娘に伝えられる。自分がいなくなっても母の味を思い出し、料理をしながら愛されていた事を感じることができる。そう考えたモエさんはユーチューブ・チャンネルのテーマにホームクッキングを選び「娘へのラブレターとしてビデオを作っている」と話す。「ホームクッキングはルーツを知る事。どんな文化背景で、どんな食べ物で育ったのか、ストーリーを知ることができると思う」と語る。かくして2020年2月から毎週、ユーチューブ発信を始めた。
ホームクッキングに乗せたメッセージ
「私のユーチューブを見る人達にはルーツを思い出して頂きたい、そして苦しい時には強くなって欲しい。日本のホームクッキングを世界に広げているのは、そのメッセージを伝える私のやり方なんですよ」とモエさんは語る。
ビデオには料理だけでなく、家族の日常生活が映し出されている。そこには娘を護り育てる親の責任や、限られた時間を有効に使う工夫が自然な形で表されている。
「鬱は誰にも起こります。その状況は一人では変えられませんが、ユーチューブを見ている皆さんは『遠くの国に住んでいても子供を育てる目的が同じならば母親の気持ちは同じ。一人ではないと感じる』と話してくれます」とモエさんは語る。
「ユーチューブを見ている人達も、コメント欄で自分の国の事を教えてくれます。いろんな国の人が自分の料理、育って来た料理に誇りを持って交流していける世の中になるのがいいなと思っています」と語った。モエさんは自動翻訳ソフトを使い、可能な限り多言語でユーチューブを発信している。
モエさんは先月、日本の食材や料理器具を世界に届けるオンラインストアを立ち上げた。また、多くの調味料を使わなくても良い味付けができる「麺つゆ」を利用したレシピの紹介もして行きたいと、これからのプランも語った。
Kimono Momのウェブサイトはhttps://kimonomom.com/。