お座敷三味線ジャズ、シカゴ・ジャズ・フェスティバルに初登場

シカゴ・ジャズ・フェスティバルで演奏するタツ・青木氏と豊秋アンサンブル

 日本伝統音楽とシカゴ音楽を融合させる創作音楽家のタツ・青木氏率いる「豊秋アンサンブル」がこの秋開催されたシカゴ・ジャズ・フェスティバルに初登場した。

 メンバーはタツ・青木(エレクトリック三味線)、ローリー・アシカワ(バイオリン)、杉本舞(アルトサックス)、細川忠道(ベース)、そして希音・青木(和太鼓)。

 豊秋アンサンブルはタツ・青木氏が前衛音楽を探索するバンド、ミユミ・プロジェクトから派生した日本の趣を生かしたジャズを創作するグループで、シカゴ・ジャズ・フェスティバルの一会場となったシカゴ・カルチャラル・センターのクラウディア・キャシディ・シアターで9月1日にデビューを飾った。

 演奏曲は「十五夜」、「江戸屋」、「希音&舞によるショート・デュオ」、「かき鍋」、「エピソード四章」の5曲。

 中秋の名月を間近に控えた9月に聞く「十五夜」や「江戸屋」はたおやかな日本情緒を含み、「かき鍋」は板塀越しに聞こえて来るお座敷三味線を思い起こさせる。望郷に浸る聴衆の耳をつんざくジミー・ヘンドリクス風のエレキ三味線サウンド、畳みかけるようなアルトサックスの前衛的サウンド、時に優しく時に激しい巧みなバイオリンの響き、奏者の腕から流れ出るような和太鼓の音、ステージを行き交う個々のサウンドを下支えする重厚なベース。耳慣れたポピュラー・ジャズとは全く違うステージだった。

三味線ジャズについて訊く

Q:ポピュラーなジャズと全く違うので、驚きました。日本の趣を入れたジャズというのが今回のテーマですか?

青木:そうですね。今回のジャズ・プロジェクトをやるために集まってもらったバンドです。シカゴ・ジャズ・フェスティバルで日本人/日系人だけのバンドは今までになかったので、それはちょっと面白かったかなと思います。

Q:タツさんは和洋音楽を融合させた新鋭的な音楽を創作されて来て、その地位を築かれているのでいろいろな展開が可能だと思うのですが、今回のジャズバンドで目的とされているのは?

タツ・青木氏

青木:今まで伝統的な三味線、アバンギャルド・ジャズの中での三味線、オルタナティブ・ロックの中での三味線などやって来ましたが、本当に三味線の曲をベースにしたジャズをやるバンドをやりたかったんです。

 僕は芸者の家の出身だから、長唄や小唄の三味線をそのままジャズにとユニークな使い方をしているんです。お座敷三味線を基本にした、三味線ジャズバンドなんですよ。

Q:ジャズって、8ビートや16ビートってあるでしょう?お座敷音楽には合わないのでは?

青木:そういうビートはみんなが言う「メインストリーム」のジャズ。ロックにもジャズにもオルタナティブがあるわけだから、僕らの世界はメインストリームのジャズではないジャズのコンテクストでやっています。だから僕らの音楽を聴きに来てくれる人達は、メインストリームの音楽をやることは期待していないんです。

Q:ジャズは黒人の人達の喜怒哀楽がベースになっていると思うのですが、三味線ジャズにもマイノリティの主張があるのですか?

青木:お座敷三味線と言うのは、昔から長唄や清元、常磐津などをやる日本舞踊や歌舞伎の世界の人達からは下に見られて来ました。だから王道ではないんですね。

 ジャズもそうでしょう。西洋のクラシック音楽が王道で、ジャズやロックは邪道と見られる時代があった。今はジャズの王道もロックの王道もあるし、王道ではないものもある。

 シカゴ・ジャズ・フェスティバルは、15年前には僕のミユミ・プロジェクトのようにアバンギャルドのバンドがメインステージに立てた時代もあった。近年は新しい世代のプログラムになって来て、メインストリームのものを集めるようになった。

 その中で三味線ジャズを入れてくれたのは、そういうものを理解している人もいるんだなぁと思いますね。そういう違ったものが入って来るのは、30年前からすれば進歩したと思いますね。

 最近はもっとインクルージョンがあっていい、いろんな文化が入っていいという流れが出て来ています。だけどアジア系のジャズって殆どないじゃないですか。

Q:日本もそうですけど、アジアの音楽ってジャズのリズムになりにくいのではないですか?

青木:でも、そのリズムにする必要もない訳じゃないですか。アプローチとしてはアバンギャルドですが、違う音楽の種類から来ているリズムもある。

バイオリンのローリー・アシカワ氏(左)とアルトサックスの杉本舞氏

ベースの細川忠道氏

和太鼓の希音・青木氏

 三味線ジャズには和太鼓だけでドラマーがいないから、ジャズ好きの人はシンバルが聞こえていないとスイングできないように思い込んでいる。だけど、ドラマーが入ると日本やアジア音楽特有の「間」がなくなってしまうんですよ。

 一般のジャズファンには分かりにくい所もあったかも知れません。だけど、三味線ジャズは普通のジャズとは全然違う訳です。

Q:タツさんは20年、30年と和楽器を前面に出していろいろな音楽を創作され、音楽家としての地位を築かれています。だからこそタツさんは日本の趣を持ついろいろな実験音楽をメインストリームのステージに出していくことができます。それは日本コミュニティとしても非常に重要な事だと思いますので、その地位を大切にされて下さい。

 ありがとうございました。

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