キッコーマンがジェファーソンに新工場、地元と共に成長を目指す
キッコーマン・フーズ社(在ウィスコンシン州)新工場の鍬入れ式が6月12日、同州のジェファーソン・カウンティで行われ、地元の熱い歓迎を受けた。
キッコーマン・フーズ社は日本製造業の米国進出の草分けとして、1973年に同州ウォルワースで醤油製造を開始し、地域社会に根差し、地元と共に成長する日系企業として地元との信頼関係を築き、今や世界最大の醸造醤油の生産工場となっている。昨年は創業50周年を地元と共に祝った。
ウォルワースの北約60kmの所にあるFood and Beverage Innovation Park に建設されるジェファーソン新工場の敷地は、240,000平方フット(約22,300平方メートル)で、2026年秋に出荷開始予定。生産するのは醤油と照り焼きソースを含む醤油関係製品。
東京に本社を置くキッコーマン社は、ジェファーソン新工場建設に10年間で5億6,000万ドル(約800億円)を投資する。また、ウォルワース工場の拡張も計画しており、投資総額は8億ドルとなる。
鍬入れ式では、茂木友三郎名誉会長(Honorary CEO and Chairman of the Board of Kikkoman Corporation)が、地元や州と共に成長するキッコーマンの意向を表明。トニー・エヴァーズ・ウィスコンシン州知事、ジェファーソン・カウンティのアドミニストレーターのベン・ウィマイヤー氏、ジェファーソン市のデイル・オッパーマン市長、トミー・トンプソン元州知事がそれぞれ、キッコーマンとウィスコンシン州がこれまでに築いた信頼関係を元に、新工場への新技術の導入や環境重視などを通じて両者が共生し、ジェファーソンがウォルワースのようにコミュニティとして成長する事に大きな期待を寄せ祝賀の言葉を贈った。
茂木友三郎名誉会長挨拶
茂木友三郎名誉会長は「ウィスコンシンに戻って来るのは、いつも嬉しい。私の第二のホームだと思っている」と話し、「50年以上前に米国初の醤油醸造工場をウォルワースに建設し、皆さんとのチームの一部となったことを名誉に思う」と挨拶した。そして、当時の鍬入れ式で、日本とウィスコンシンの仲間達が希望に燃えて友好を分かち合い、その工場は間もなく世界最大の醤油生産量を誇る工場となったと語った。
1998年には同じ仲間やパートナと共にカリフォルニアの地に立ち、ホルサムに米国第二工場を開いた。そして茂木会長は、北米のために最良の醤油製品を生産する、米国の第三工場となるジェファーソン工場の構想について語った。
次世代の工場となるジェファーソン工場には、再生可能なエネルギーの使用とエネルギー効率を高めた設備により、CO2排出を低減する。また、地元の雇用を創出する。和食のかなめである醤油の醸造は時間と手間を要するが、キッコーマンは3世紀以上に亘る醸造技術を次世代の工場で実現する。
キッコーマンは1957年にサンフランシスコに販売会社を設立し、日本からの醤油の輸入販売に勤しんで来たが、醤油を世界の調味料として位置づけ、1970年代にウォルワース工場の建設に踏み切った。これは日本企業による最早期の工場進出であり、米国における日系企業の一つの歴史となった。
ウォルワース工場の成功は、キッコーマンとウィスコンシンとの間に築いた信頼関係にあった。茂木会長は「ウォルワース、そしてウィスコンシンの人々は、我々が到着したその時から我々を暖かく受け入れてくれた。我々のパートナーシップは常に、協力、尊敬、忠誠心、創造性、友情、勤勉さという共通の価値観に基づいている」と話し、「今日我々は、ジェファーソンのコミュニティとウィスコンシン州に、新工場建設とウォルワース工場の拡張に少なくとも8億ドルの投資を約束する。ジェファーソンを選んだのは半世紀前にウォルワースを選んだのと同じく、市場へのアクセス、優れた労働力、原料の中心地であること、水質の良い水の供給、そしてオープンハート精神のパートナーシップを持つコミュニティであることだ」と述べた。
そして茂木会長は「キッコーマンはウィスコンシンを信頼し、我々はこの素晴らしい州が我々を信頼してくれることを喜ばしく思う。我々の協力関係は半世紀前に、信頼のみを頼りに始まった。そして今日、その協力関係は成長と文化の繋がりが絶えることなく継続することを約束している」と語った。
トニー・エヴァーズ州知事挨拶
トニー・エヴァーズ州知事は、茂木会長の言葉に応えるように「我々は今日、この工業団地で鍬入れ式を行う。今日のイベントは、キッコーマンのような世界的ブランドの会社と更なる関係を深める、ウィスコンシン州の重大な節目となる」と述べた。
そして、エヴァーズ州知事は「ウィスコンシン州最大の貿易パートナーの一つとして、キッコーマンのような日本企業とウィスコンシン州との堅固な結びつきは、ウィスコンシン州の経済成長を牽引し、イノベーションを強化し、州内の地域社会や住民に貴重な雇用機会を創出して来た。今、ここジェファーソンにキッコーマンの新しい工場が加わり、ウィスコンシン州内で増加している日本一流企業の設備面積をより拡大することになる。ウィスコンシン州民と州の未来に、この関係継続が約束されている事を誇りに思う」と語った。
更にエヴァーズ氏は、ウィスコンシン経済開発コーポレーションと共に「我々はキッコーマンの拡大支援として、向こう12年に亘り最高1,550万ドルまでの企業誘致ゾーン税額控除を提供する」と述べた。
最後にエヴァーズ氏は「キッコーマンは高品質の製品生産で知られており、我々ウィスコンシンのやり方と完璧に合致する。何か優れたものを作りたければ、ウィスコンシンで作ればよい」と話し、「これからの50年、60年、70年の成功を楽しみにしている」と語った。
-- ウィスコンシン州知事室の2024年4月10日付のリリースによると、日本はウィスコンシン州の11番目に大きな貿易相手国で、同州の輸出先としては10番目、輸入先としては10番目にランクされる。(出典:ウィスコンシン経済開発公社)
-- ウィスコンシン州には日本企業81社が進出しており、同州内224カ所で運営している。これらの企業によって8,900の雇用が創出されている。2013年からの日本の投資額は26億ドルにのぼり、カナダに次ぐウィスコンシン州第2位の投資国となっている。
ベン・ウィマイヤー氏挨拶(ジェファーソン・カウンティ・アドミニストレーター)
ジェファーソン・カウンティのアドミニストレーター、ベン・ウィマイヤー氏は、キッコーマン・フーズのフード&ビヴァレッジ・イノベーション・パークへの工場進出に対する熱い思いを語った。
同氏は、ジェファーソンが望む革新技術の導入による次世代の工業パークの構想が、キッコーマンの投資によって実現される事が、同パークに大きな違いをもたらすという。
ウィマイヤー氏は「我々はミッドウェストの64の候補地と争い、キッコーマンは我々のカウンティを選んでくれた。これはコミュニティの歴史だ。キッコーマンのビジネス運営だけでなく、キッコーマンが地元コミュニティや組織団体と仕事をするという同社のビジネス文化がある。投資したコミュニティの一部だという良識がある。持続可能性、良質な水、家族支援の生涯雇用など、共有する価値観がある。我々は、キッコーマンがコミュニティと共にというコンセプトを受け入れてくれていることをありがたく思う」と話す。
「これは我々のストーリーだ。我々がこのキッコーマンの特別な投資を前に進めるストーリーの一部であることを誇りに思う。キッコーマンはジェファーソンの未来のチャプターのリーダーであり、他のビジネスと共に地元コミュニティを織りなして行く。投資とはドルだけではなく、キッコーマンと共に成長する我々のコミュニティのエコー・システムだ」とウィマイヤー氏は語った。
デイル・オッパーマン・ジェファーソン市長挨拶
ジェファーソン市のデイル・オッパーマン市長は「我々はキッコーマンがこの地を新工場建設地として選んでくれたことを光栄に思うと共に、キッコーマンを両手を広げ敬意をこめて歓迎する」と挨拶した。
そしてオッパーマン市長は、キッコーマン新工場敷地へ向かう新しいストリートを「キッコーマン・ウェイ」と名付けると公式発表した。
キッコーマンの新工場は、キッコーマン・ウェイとイノベーション・ドライブの角にある。
トミー・トンプソン元州知事挨拶
トミー・トンプソン元州知事は、キッコーマンがウォルワースに米国初めての醤油醸造工場を建設する経緯について語った。
1957年、当時キッコーマン取締役会の会長だった茂木友三郎氏の父が、カリフォルニアにキッコーマンの輸入販売会社設立を決断した。
1968年から70年代初めにかけて友三郎氏は父に、キッコーマンは米国で成長すべきだと進言した。トンプソン氏は「日本の取締役会は成長機会を見なかったが、友三郎氏は見た」と話す。
友三郎氏は取締役会を説得し、父の承認を得た。全米200カ所の候補地を調べた友三郎氏はウォルワースを最終候補地と決めた。一方、当時ウォルワースを含む地域を代表する州下院議員だったトンプソン氏は、キッコーマンの進出申請を受け、それを承認したと語った。
そしてトンプソン氏は、「ウォルワース工場は小さな会社としてスタートしたが、友三郎氏のリーダーシップにより、今や醤油醸造の世界最大の会社となった」と述べた。
トンプソン氏は「ウィスコンシン州はチーズでナンバーワン、クランベリーでナンバーワン、醤油でナンバーワンだ」と述べ、「行け行けウィスコンシン! ジャパン! キッコーマン! 茂木ファミリー!」とエールを送った。
記者会見
鍬入れ式後、別室で記者会見が行われ、茂木友三郎名誉会長を始め、キッコーマン社堀切功章代表取締役会長、茂木修代表取締役専務、ミッシー・ヒューズ氏(ウィスコンシン経済開発公社CEO)、ベン・ウィマイヤー氏(ジェファーソン・カウンティ・アドミニストレーター)が出席し、メディアの質問に答えた。
Q:ウォルワース工場の拡張ではなく、なぜジェファーソンに新工場を?
A by 茂木友三郎名誉会長: 一カ所に製造を集中させ過ぎるのは、リスクを生む。そういったリスクを回避するために、新たな工場を建設する決断をしました。
Q:キッコーマンのジェファーソンへの工場拡大の重要性とは?また、ウィスコンシン州経済へのインパクトは?
A by トニー・エヴァーズ州知事:キッコーマンは積年の企業であり、ウォルワースで半世紀以上に亘り醤油を醸造している。同社のジェファーソン・カウンティへの生産拡大は非常に重要で、州全体の(発展)努力にもかかわる。
キッコーマンは実にジェファーソンの住民に違いをもたらしてくれる。同社の製造設備は率直に言って醤油メーカー以上の意味があり、ウィスコンシンの発展に力を貸してくれている。彼らは包括的で、キッコーマンが州にもたらす文化は途方もないほど大きく、仕事が上手く行くようにパートナーとして長い間一緒に仕事をしてくれている。
明らかにキッコーマンの進出でウィスコンシン州の経済は上がっている。また、文化的にも成功していると思っている。そして、皆さんも何かにつけ思い出すだろう。キッコーマンはいろいろな組織や団体の主要な支援者であり、この州のために取り組んでくれる。そして継続して支援してくれる。従業員を大切にし、もちろん自社製品を大切にし、利益を出すばかりでなく、ウィスコンシン州のいろいろなコミュニティへの気配りも忘れない優秀な企業だ。
Q:インセンティブは魅力的?
A by 茂木友三郎名誉会長: 州や連邦政府のインセンティブは魅力的で、もちろん我々はありがたく思っている。しかし、一つはウィスコンシンの地の利の良さです。ウィスコンシンは米国の中心にあり、米国の多くの市場にアクセスできる。もう一つ重要な事は、ウィスコンシンの人々が勤勉で誠実である事。もちろん他にも、ビジネスに魅力的な要因は他にたくさんありますが。
50年前にウォルワースに工場を開く時は、アメリカについて厳密な調査を実行した。すべての州を比べてみて、最終的にウィスコンシンを選んだ。50年のビジネス運営で我々は、ウィスコンシンが非常に良い所であることを再確認し、我々はウォルワースに次ぐ第二の工場の地として、ウィスコンシンを選んだのです。
Q:ウォルワースの拡張について、設備やタイムラインは?
A by 茂木修専務: 工場の拡張は可能な限り醤油の生産性を上げる事にあります。ですから、ウォルワースの工場の生産性はかなり高いものです。我々は米国で50年間工場を運営していますが、高まる大豆ベース製品の多様性に対して、私としては弱みを感じています。ですからジェファーソン第二工場では、そういった需要に対応する製品の生産に集中します。米国内の新しい需要に応えるためによりフレキシブルな、大豆ベース製品の小バッチ生産が可能になります。
Q by シカゴ新報:800億円の巨額投資をされますが、円安が続く中でどの様に投資を取り戻されるのですか?
A by 茂木修専務:これは通貨為替レートのリスクですね。我々はこのリスクを避けるために米国で製造運営をやっています。つまり我々が米国内で得た利益は、ジェファーソン工場に投資する訳です。米国の運営は米国でという事で、ビジネスとして理にかなっています。我々は米国で良い利益を出していますので、もしも米ドルの利益を日本円に変換するとしたら、以前よりも大きな額になるでしょうね。
A by 茂木友三郎名誉会長:もう一つ重要な事を付け加えるならば、日本では価格競争が激し過ぎて利益を出すのが難しいという事があります。もちろん米国でも価格競争はありますが、それは非常に限られており、適切な利益を出すためには過度な競争は避けたいという傾向があるようです。我々はできる限り、価格競争を避けなければなりません。日本ではそれが激し過ぎて、米国に比べると適切な利益を出すのが非常に難しいんです。
シカゴ新報:どうもありがとうございました。