リダクション8と太鼓レガシー19、ライブに帰還
日本伝統音楽と西洋音楽の融合を探る
和洋音楽の融合により新しい音楽の可能性を探る「リダクション8」と、和太鼓演奏の芸術性を高める司太鼓の「太鼓レガシー19」が、それぞれ12月17日と18日にシカゴ現代美術館のエディリス・ニーソン・シアターで開催された。
過去2年間、両公演は新型コロナによるパンデミックで縮小版やストリーム公演を余儀なくされたが、3年ぶりに劇場ライブで行われた。
長年の稽古の積み重ねの上に成り立つ日本伝統芸能の深淵さに敬意を払い、現代音楽の背景の中で新しい音楽の美的感覚を追求する試みは、太鼓レガシーのエグゼクティブ・ディレクターのタツ・青木氏が骨太のリーダーシップにより具現化している。
青木氏はプログラムの挨拶の中で「太鼓レガシーとリダクションのシリーズは、本国から離散した我々エイジアン・アメリカンや日系アメリカンの文化の反映であり、伝統の脈絡や血筋を通して構築し進化するする美的思想の創造と言える。現代音楽の背景の中で我々のアイデンティティを表すものだ」とメッセージを送る。
同公演には日本から、長唄三味線の杵屋千鶴師匠、鼓の梅屋貴音師匠、笛の福原百恭師匠、日本舞踊の藤間君栄師匠が出演した。また、シカゴからはドラムのハミッド・ドレイク氏、ハンド・ドラムのマイケル・ゼラング氏、フルートのニコル・ミッチェル氏、サクスフォーンのエドワード・ウィルカーソンJr.氏、管楽器のムワタ・ボーデン氏らがゲスト出演した。
リダクション8
リダクションはタツ・青木氏とムワタ氏のデュオ「菊」で始まった。そこに希音・青木氏の大太鼓が入り、三味線の杵屋千鶴師の掛け声と共に、梅屋貴音師と福原百恭師の鼓と笛が入り、「吉原雀」の演奏が始まった。
そこに藤間君栄師が日本舞踊を舞い始め、日本でもなかなか見られない長唄の三味線、鼓、笛、日本舞踊の4師匠の共演となった。
司太鼓による壮大な和太鼓演奏「絡み」、続いて「歴々」が演奏され、フルートのニコル・ミッチェル氏とアルトサックスのエドワード・ウィルカーソンJr.氏が加わり、和太鼓と西洋楽器の共演を見せた。
希音・青木氏の大太鼓と美弓・青木氏の笛、その後にマイケル・ゼラング氏のハンド・ドラムと梅屋貴音師の大鼓(おおつづみ)が入り、シカゴの藤間流日本舞踊「秀舞会」の師匠・藤間淑之丞師が「舞」を踊った。この様なリズム楽器を背景に日本舞踊を踊るのは初めてのチャレンジだったという。
最後はタツ・青木氏の小太鼓、司太鼓の和太鼓による「山代借り」が演奏され、徐々に福原百恭師の笛、フルート、サクソフォーン、ハミッド・ドレイク氏のドラムセット、永弦・青木氏の和太鼓セット、ゼラング氏のハンドドラム、ムワタ氏のテナーサックス、タツ・青木氏のベースが入りフィナーレの大共演となった。
ステージでの演奏の他、曲と曲との合間には福原百恭師の笛とフルートの共演、杵屋千鶴師とタツ・青木氏による三味線の共演、フルートとアルトサックスの共演、杵屋千鶴師のソロ演奏などが行われ、伝統的な長唄の演奏や、耳と耳で聞き合う即興演奏が繰り広げられた。
公演後、タツ・青木氏は「久しぶりに日本のお師匠さん4人に来て頂いて、今日の番組を構成できたのは非常に嬉しかったですね。やっとライブに帰ってきたなぁと言う気がして、嬉しく思いました」と語った。
「護る」と「攻める」
杵屋千鶴師匠
長唄三味線の専門家の杵屋千鶴師匠は、伝統継承と新しい音楽との融合は「護る」と「攻める」という事だと語った事がある。「護る前に必ず攻めがないといけない。護ってばかりいたら決められた枠しかない。もう一度聞きたいと思って下さるような音楽の出し方を、日本の伝統音楽の演奏家も考えて行かなきゃいけない。だから私はタツさんのお手伝いをさせて頂いているんですよ」とパンデミック前のリダクションで語っていた。
杵屋氏は日本でリサイタルを開き、攻めの伝統音楽の出し方を実践して来た。2020年はそのリサイタルの10周年を開く予定だったが、パンデミックでキャンセルせざるを得なかった。
久々にシカゴに戻った杵屋師は「シカゴに来れて、みんな元気でハッピー」と笑顔で語る。日本では舞台数が非常に少なくなっていたが、2022年辺りから少しずつ増え、演奏会場も満席にすることが許可されたという。「私も2022年はいくつかお仕事をさせてもらいました。来年もきっとシカゴに来たいと思いますので、よろしくお願い致します」と語った。
梅屋貴音師匠
鼓の梅屋貴音師匠は、「カーン」と響く大鼓の痛快な音を聞かせてくれた。この音を出すために、日本では鼓の皮を火に当てて湿気を飛ばすが、シカゴは乾燥しているので良い調子で打てるのだという。
リダクションでの演奏曲は特に決まっておらず、舞台に出て幕が閉まるまで演奏する。「即興なので難しいですけど、周りの人達と自由にできるので、開き直ってやっています。シカゴもリダクションも楽しかったです」と語った。
福原百恭師匠
笛の福原百恭師匠は「この舞台の空気が素晴らしいというか、シカゴの街自体がとても雰囲気がいいですよね」と語る。
音階も音程も違うフルートとの即興演奏を見事にこなした百恭師匠は「フルートの方について行く感じでやりました」とさらりと話す。「皆さんにいらして頂いて、こう言う場所で演奏させて頂くというのは本当に嬉しいです」と語った。
藤間君栄師匠と藤間淑之丞師匠
吉原雀を踊った藤間君栄師匠は静岡からリダクションに出演した。踊りの中で片足立ちで静止するなど、息を呑むような素晴らしい踊りだった。
シカゴの藤間淑之丞師によると、ジャクソンパーク内にあるフェニックス・ガーデンで行われる盆踊りを本格的なものにしたいと、静岡の盆踊りの指導を君栄師匠にお願いしているのだという
エドワード・ウィルカーソンJr.氏
リダクションで毎年アルトサックスの即興演奏を見せてくれるエドワード・ウィルカーソンJr.氏は日本の伝統音楽や楽器との共演について「タツさんとは少なくとも30年は一緒にやっている。だから良いコンビネーションがある。そうだね、我々は上手くいくような道を見つけているですよ」と語った。
太鼓レガシー19
司太鼓の「太鼓レガシー19」はリダクションの翌日の18日に行われ、「上げの合方」、「高砂丹前」、「歴々」、「お稽古八番」、「畑君」、「八丁堀」、「元値」、「六番」、「海波」、「合方一番」のパフォーマンスが行われた。