再生をテーマに第3回シカゴ日本映画コレクティブ

劇場とオンラインで10作品を上映、観客賞に断捨離パラダイス

左より)断捨離パラダイス上映会場、観客を歓迎する坂本有紀氏、世界は僕らに気づかないの上映会場

(このウェブページのすべての写真はYukako Y. Wrenn氏提供)

シカゴ市サウスサイドにあるレトロ感あふれるThe Music Box Theatre

 中西部で唯一の日本映画祭「第3回シカゴ日本映画コレクティブ」が6月22日から7月1日まで、インディペンデント長編映画10作品のラインアップで開催された。このうちオープニングとエンディングの2本は劇場で上映され、8本はオンラインで上映された。

 シカゴ日本映画コレクティブ(CJFC)は、長年シカゴで日本映画祭を開く構想を温めてきた坂本有紀氏(Coyote Sun Productions代表)が共同設立者の河野洋氏(Mar Creation代表)と共に2021年に創設したもので、シカゴ日本映画コレクティブ実行委員会の主催、Full Spectrum FeaturesとCatch Us Performing Artsの後援で開催されている。

  オープニングでは「断捨離パラダイス」(萱野孝幸監督)、クロージングでは「世界は僕らに気づかない」(飯塚花笑監督)がシカゴ市ノースサイドにあるレトロ感溢れるThe Music Box Theatreで上映された。

 オンライン上映の8作品は、物語風4本、実験映画1本、ドキュメンタリー3本で構成され、心打たれる作品、考えさせられる作品、目を離せないサスペンスドラマなど多様な作品がラインアップされていた。オンライン上映作品は「eventive」というプラットフォームの使用により、全米から視聴することができた。

 

切れた糸も再生できるというメッセージを込めた
第3回シカゴ日本映画コレクティブのポスター

 今年のシカゴ日本映画コレクティブのテーマは「再生(regeneration)」。坂本有紀氏によると、今回ラインアップした映画を見て、自然とそのテーマが湧いて来たものだという。コロナ禍の中で人種や民族間だけでなく、普段の生活の中にも家族、夫婦、友人間で様々な理由によって分断が表面化した。だが、それが漸く一旦収まり、人々の気持ちが前向きになって来た。例えばみんなで映画を見て、同じ場面でみんなが笑うと、何か一つのものを共有していて、人と人との間に繋がりを感じさせる。分断を乗り越え、切れた糸をもう一度繋げるように、人との繋がりを再生して行く大切さを10作品の映画から感じ、それをテーマに選んだ。

 

オープニング上映作品「断捨離パラダイス」

 日本で流行した「断捨離」とは、不要なものを欲する気持ちを断ち、不要なものを捨て、物への執着から離れる事を意味する。

 その言葉から想像すれば「断捨離パラダイス」という映画の内容も想像できそうだが、想像を絶する大量のゴミとそれに関わる人々の人間模様が視聴者を虜にして放さない。

あらすじ

 突然の手の震えによりキャリアを絶たれたピアニストの白高律稀は、絶望から立ち上がろうとゴミ屋敷の専門清掃業者「断捨離パラダイス」で働くことを決意する。

 蝶ネクタイを外して作業着姿となった白高は、気絶しながらもゴミ屋敷に住む人々の様々な事情を目撃して行く。6篇の繋がりのあるエピソードから成る、涙あり笑いありの人情喜劇。

 作品について

ゴミ屋敷という奇想天外な舞台に登場するキャラクター達もこの映画の大きな魅了だ。ピアノからゴミに手を染めても変わらない白高律稀(篠田諒)の清潔さ、大らかに白高を受け入れる断捨離パラダイス社長の市木八吉(北山雅康)、老害そのもののゴミ屋敷住人・金田繁男(泉谷しげる)、理想の女性として愛されながらも恋人に言えない秘密を持つ岸田万莉子(武藤十夢-元AKB48)などなど、続けてもう一度見たくなるような、胸に残る幸せ感が心を軽くしてくれるような、目を覆うような汚さの合間から木漏れ日が差し込んで来るような映画だ。

 断捨離パラダイスを観劇後、日本映画ファンのマイケル・ウィリアム・フォースター氏は「素晴らしい映画でした。あの映画はデリケートで刺激的で、それにレトロ感もある完璧な日本映画の特徴が出ている作品だと思います」と語る。

日本映画のペースは、フォースター氏が持つアメリカ間隔とは少し異なるようだ。また、あるシーンを見て何の事だろうと思う事もある。

 そんな所も良く見ているフォースター氏は「映画のペースの変わり方も良かった。我々が見ていたアメリカの映画よりも良かったですね。日本の映画は総ての質問に答える必要はないし、見ている人がしばらくの間、映画の登場人物の人生の一部になる事ができるんです。それが日本の映画の好きな所ですね。それに、日頃注意を払わない社会の違う面も見せてくれますね」と話す。

 そして、「断捨離パラダイスは、それぞれのキャラクターが人生に持っている散らかした所を象徴してメッセージを送っているように思えます。それは誰にも当てはまるような事で、散らかったものが彼ら自身をワクワクさせているのかも知れませんね」と語った。 

萱野孝幸監督:

 1990年生まれの大分県出身。九州大学芸術工学部 画像設計学科卒業、「夜を越える旅」がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021の国内コンペティション長編部門で優秀作品賞と観客賞を受賞、東京国際映画祭にて上映される。堤幸彦監督、本広克行監督、佐藤祐市監督を中心とした映像製作プロジェクト「SUPER SAPIENSS」で脚本を担当している。

 萱野氏は福岡県在住。ロケーションで地元や隣県の佐賀を撮影現場として掘り起こしてくれるのが魅力の一つでもある。


  シカゴ日本映画コレクティブ終了後、視聴者の投票により「断捨離パラダイス」が今年の「観客賞」に選ばれた。

 公式サイトは:https://danpara.jp

クロージング上映作品「世界は僕らに気づかない」

 「世界は僕らに気づかない」は、異なる文化を持つ母親と息子が不安定な感情をぶつけ合う愛の問題についての物語。  

 この作品はまた、大阪アジアン映画祭の協力のもと、シカゴ-大阪姉妹都市50年記念祝賀としても出展されている。

 

あらすじ

 群馬県太田市に住む高校生の純悟(堀家一希)は、フィリピンパブに勤めるフィリピン人の母親レイナ(ガウ)と一緒に暮らしている。父親のことは母親から何も聞かされておらず、ただ毎月振り込まれる養育費だけが父親との繋がりとなっていた。

 純悟には恋人の優助(篠原雅史)がいるが、優助からパートナーシップを結ぶことを望まれても、自分の生い立ちが引け目となり、なかなか決断に踏み込めず、一人苛立ちを抱えていた。

 そんなある日、レイナが再婚したいと恋人を家に連れて来る。見知らぬ男と一緒に暮らすことを嫌がった純悟は、実の父親を探すことにするのだが…。

作品について

 2022年公開の『フタリノセカイ』で商業デビューを果たした飯塚花笑監督が、レプロエンタテインメント主催の映画製作プロジェクト「感動シネマアワード」にて製作したオリジナル長編第五作。

 飯塚監督が自身の経験をもとに、8年の構想期間を経て結実した作品で、主人公・純悟役を任されたのは、「東京リベンジャーズ」(2021年 英勉監督)でパーちん役を演じ、その存在感ある輝かしい演技が評価された堀家一希。映画初主演という重圧の中で、複雑なバックグラウンドを抱える難しい役柄だが、飯塚監督と深いコミュニケーションを取ながら共に丁寧に役作りをした結果、悶々として自分の本当の感情を吐露できない純悟を見事に演じきっている。

 息子である純悟への深い愛情を抱きつつも、感情的に厳しい態度をとってしまう母親・レイナを演じるのは、スコットランド人の父親とフィリピン人の母親を持つガウ。本格的な演技には初挑戦ながら、観客の視線を釘付けにするパワフルな演技を披露している。 

 

飯塚花笑監督:

飯塚花笑監督は1990年群馬県生まれ。大学在学中に根岸吉太郎監督や脚本家の加藤正人氏から映画製作について学んだ。

初の長編映画「僕らの未来」が2011年にぴあフィルムフェスティバルで審査員特別賞を受賞、2019年にはフィルメックス新人監督準グランプリを受賞した。2022年には「フタリノセカイ」を初めて劇場公開した。

 飯塚監督は現代の日本、特にトランスジェンダーやシスジェンダーの目を通して映画を制作している。

 公式サイトは:https://sekaboku.lespros.co.jp

新規企画:CJFC X

 シカゴ日本映画コレクティブではCJFC Xという新規企画を進めている。これは日本のステイタスを持つ映画祭の協力のもと、それらの映画祭で評価された映画をシカゴの映画ファンに見てもらおうという企画で、映画を通した文化交流の促進も目指す。

映画観覧だけでなく、ディスカッションの機会なども設け、日本映画や物語の美しさやなどを語り合い、シカゴと日本の意味深い繋がりを育む。

   CJFC Xについての情報はhttps://www.cjfc.us/cjfcx.

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オンライン上映作品は以下の通り。

 

1. Backlight | 逆光(須藤蓮監督)

 70年代の夏、22歳の晃は、好意を抱く先輩吉岡と尾道の実家に招き、ある日、幼なじみの文江と変わり者のみーこと遊びに出かける。みーこに惹かれる吉岡をはた目に、晃は困惑と苦悩に包まれていく。

公式サイト:https://gyakkofilm.com/

 

2. Cafune/カフネ(杵村春希監督)

 高3の瀬川澪は、彼氏(渚)の子を授かる。澪は妊娠を渚や家族に打ち明けられず、無比の親友(夏海)だけに吐露する。澪は困難を乗り越え、隠していた気持ちを渚に伝えた。世界遺産•熊野が舞台。

公式Twitter:https://twitter.com/Cafunekumano

 

3. I Quit Being “Friends”/友達やめた(今村彩子監督)

 「わたしはマイノリティ」と思っていた、耳のきこえない私を変えたのは発達障害のまあちゃん。親しくなればケンカも増える。仲良くやっていくには?わたしたちは自分達にカメラを向けました。

公式サイト:http://studioaya-movie.com/tomoyame/

 

4. NOT BEER/NOT BEER(中川寛崇監督)

 二人組の詐欺師が金の買取に老女ハルエを訪れると、お通夜が行われていた。遺書には「通夜に最後まで残った人物が遺産相続」とある。弁護士とハルエの孫の四人が騙し合うハートフルコメディ。

公式 Twitter: https://twitter.com/Notbeerbut_M

 

5. Resonance/ひびきあうせかい RESONANCE(田中トシノリ監督)

 東京育ちの拓次は、都市の変化と人々と自然の分断を感じ、沖縄で音楽家たちと「サークルボイス」を設立。人声を合わせた一時的な平和な世界を創造し、言葉、国、時を超える拓次の映像と音楽の旅。

公式サイト:https://resonance-movie.jimdofree.com/

 

6. Toward Zero/零へ(伊藤高志監督)

 バットを振り下ろす、スコップを引きずる。独特の強迫的な描写が散りばめられた伊藤高志監督が新境地を開く集大成的作品。摩訶不思議な人物らの物語が、静謐かつ緊張感を持って交差。 “零”へ向かう。

 

7. Twilight Cinema Blues/銀平町シネマブルース(城定秀夫監督)

 青春時代を過ごした銀平町に帰ってきたワケありの近藤は、映画好きのホームレス(佐藤)と映画館の支配人(梶原) と出会い、映画館のバイトを始める。映画館を取り巻く人々と再生し始めるが・・・。

公式サイト:https://www.g-scalaza.com/

 

8. Underdogs/なれのはて(粂田剛監督)

 マニラの貧困地区に住む「困窮邦人」と呼ばれる4人の日本人高齢者。隣人の助けを借り、日銭を稼ぎ、毎日を送る。帰国せず、人生を全うする男たち。7年の歳月をかけて迫ったドキュメンタリー。

公式サイト:https://nareno-hate.com/

 

●シカゴ日本映画コレクティブの情報は、https://www.cjfc.usで。

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