人権侵害を繰り返すまいと、再定住:シカゴ物語初上映
デイ・オブ・リメンブランス、ヤング日系コミュニティの創作パワー結集
約12万人の日系人強制収容を可能にしたフランクリン・ルーズベルト大統領による大統領命令9066を忘れまいとする「デイ・オブ・リメンブランス(DOR)」が2月19日、シカゴ歴史博物館で開催された。
同イベントは、危機的状況下における市民権のもろさと、為政者による人権侵害を繰り返してはならないという「寝ずの番」の重要性を忘れないために毎年行われている。
式典は退役軍人の会シカゴ二世ポスト1183部隊による国旗設置で開幕し、ホフマン・エステイツ高校のヘイリー・ナカイさんが日系人の立ち退きを命じる1942年の市民排斥命を読み上げた。続いてシカゴ日系人歴史協会プレジデントのジーン・ミシマ氏が挨拶し来賓を紹介、田島浩志在シカゴ総領事も出席した。
Resettlement: Chicago Story(再定住:シカゴ物語)
今年のDORは、強制収容から解放されシカゴに再定住するヤマモト・ファミリーを描くショート・フィルム「Resettlement: Chicago Story(再定住:シカゴ物語)」が初めて上映された。
このフィルムはシカゴの非営利団体「Full Spectrum Features」が制作したもので、強制立ち退きで家を追われ、土地や財産を没収され、遠隔の荒れ地に急普請したバラックに収容され、戦後も住み慣れた土地に戻ることを許されず、伝統を否定され、一から生活を始めるとはどんな事なのか、不法な扱いを受け心を傷付けられた日系人がどの様に苦難を乗り越え再定住して行くのかを、ハイスクール生徒のメアリー、その母のキミエ、祖父のサムを通じて公立校の生徒達に実体験させる。
イリノイ州では2021年7月9日に州法「TEAACH Act (the Teaching Equitable Asian American Community History)」が成立し、2022-2023学校年度から日系人強制収容とその後の米政府の不正を暴く日系人の活動をはじめ、アジア系アメリカ人の歴史や貢献を公立校の授業で教える事を義務づけた。
再定住:シカゴ物語は上記TEAACH Actの教材として、Full Spectrum Featuresが制作した。この作品はフィルム単体ではなく、シカゴ物語のウェブサイトからフィルムにアクセスでき、また、登場人物をクリックすればその人物が自分の背景を物語る。この様な工夫から、視聴者はフィルムを見るだけでなく、日系人が被った強制収容の一連の出来事や被害者の感情を深く理解することができ、自らの体験のように感じることができる。Full Spectrum Featuresはこのプロジェクトを「シネマティック・デジタル・ヒストリー・プロジェクト」と呼んでいる。
ジェイソン・マツモト氏談
Full Spectrum Features
日系四世のジェイソン・マツモト氏はFull Spectrum Featuresの共同創始者で共同エグゼクティブ・ディレクターを務め、再定住:シカゴ物語の制作を率いる。「このフィルムを初上映するのは非常にパーソナル。私は日系コミュニティの一部としてここに育ち、このコミュニティの人々の愛情と支援の繋がりを感じる。このプロジェクトを支援してくれた日系団体の建物の中は安全で歓迎されているのを感じる。このフィルムは私自身の家族の歴史でもあり、強制立ち退き、強制収容、そしてシカゴへの再定住の歴史だ。皆さんもこのプロジェクトに自分自身を見る事でしょう」と語る。
マツモト氏は「シカゴ物語のフィルムと教育用のウェブサイトが完成し、ここからこの教材を米国中の教室、図書館、博物館、会議の場などに届ける大変な仕事が始まる。この努力により人々が、強制収容後に再定住することがどのようなものであったか、よく理解してもらう事ができる」と話す。それゆえにマツモト氏らが創作した登場人物の人間性を視聴者に注意深く学んでもらい、ウェブサイトにある当時の写真や物、ビデオや歴史の話などと視聴者が、人間的な繋がりを持ってもらうことを望むという。
マツモト氏は会場を埋めた出席者に向かい、この教材が使われるように知り合いの先生や生徒達、学校区などに再定住:シカゴ物語の話をして欲しい、力を貸して欲しいと呼びかけた。
実にこのフィルムとウェブサイトの制作には、130人以上の人々が直接手を貸してくれたという。この中には教師、カリキュラム開発者、学者や活動家も含まれていた。この人数の中にはいろいろな面で手を貸してくれた日系組織のスタッフは含まれておらず、すべての人々を含めると一つの町ぐらいの人数になるだろうという。
マツモト氏は再定住が行われた時代の状況を思い起こしてもらうために、一つのエピソードを話した。それは中西部仏教会の創設者、河野行道開教師が書き残したものだった。
1944年7月に300人ほどの日系人が参列する仏教の礼拝がシカゴ市南部で行われた。現在のブロンズヴィルの辺りになる。この頃にはシカゴに定住して来る日系人が増え続けていた。
まだ多くの一世が健在の頃で、礼拝は日本語で行われていた。その途中でFBIエイジェントと米政府の職員らが現れ、河野師の法話をさえぎった。そして、河野師に法話の内容を問いただした。それは死去した家族を追悼する法要だと河野師は説明したが、エイジェントらは「日本人が大勢集まっていることに近隣住民らが疑念を持っている。彼らは、参列者が帰宅する時には4、5人ずつ5分の間隔をあけて出て行って欲しいと求めている」と告げた。これは帰宅に何時間もかかる事だった。
1940年代から50年代にかけてシカゴに再定住する日系人は、白人のクリスチャンで中産階級の価値観に同化するよう明確に指示されていた。複数の日系人が集まらないように、日本語を話さないようにと言われ、多くの再定住者は米政府の監視下に置かれていた。
このような状況にあった再定住時代を思い起こせば「個人的には、今日のように集まれる我々の力の意味深さを失ってはならないという注意喚起に思える。我々の祖父母、両親、叔母、叔父、従兄弟、みんなが抵抗し、権威者の圧力にも拘らず、強く復元力のあるコミュニティを築き、みんなは集まった。今日は集まってくれてありがとう!」とマツモト氏は語った。
マツモト氏によると、このシカゴ物語は3部作のうちの第二弾で、第一弾の強制立ち退きの酷さを示す「オレンジ・ストーリー」は2019年に公開されている。第三弾は、米政府に公式謝罪と補償を求める運動を描くフィルムを製作するという。既に制作に対する助成金の手当ても付いているという。
続いて、再定住:シカゴ物語のプロジェクト・マネージメントと開発を担当したアシュリー・チエミ・マクニール氏(Ph.D.)がウェブサイトの使用法を詳しく説明した。ウェブサイトは円盤状にヤマモト家の背景、メアリー、キミエ、サムのページが現れ、クリックしていけば、それぞれ3人に質問したり、3人が質問に答えたりする相互対話ができるようになっている。
これらの3人のキャラクターはFull Spectrum Featuresのチームが創作したものだが、そのベースは強制収容を被った多くの日系人のインタビューに基づいている。メアリーのようなヤング・アダルトがコミュニティを形成するとはどの様なことだったのか、ウェブサイトのメアリーのページから見ることができるが、これは当時のヤング・アダルト達のインタビューを基にしたもので、インタビューに答えてくれた人達も会場に来ているとマクニール氏は語った。
また、同氏は教育者に対するウェブとフィルムへのアクセスと授業での使い方についても説明した。
また、マクニール氏をモデレーターに、フィルムディレクターでアリゾナ州立大学で映画制作について教える助教授のレイナ・ヒガシタニ氏と、ノースウェスタン大学の客員助教授としてアジア系アメリカ人研究を教えるヘレン・チョー氏によるシカゴ物語制作についてのディスカッションとQ&Aセッションが行われた。
今年のDORは目が不自由な人のためのオーディオ・ディスクリプション(シーンの説明)、リアルタイムの字幕、手話の同時表示がステージ上で実施されるプログラム全体で行われ、どんな人にもアクセス可能な配慮が行われていた。
日系人強制収容のような為政者による人権侵害を繰り返してはならないというメッセージを込めた「再定住:シカゴ物語」の上映と相互対話のウェブサイトの紹介は、最新のデジタル技術を集結させたヤング日系コミュニティのパワーを見せつけ、デイ・オブ・リメンブランスの意味深さを知らしめる日となった。
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Resettlement: Chicago Story
フィルム&ウエブサイト制作:Full Spectrum Features NFP
スクリーン上映:レイナ・ヒガシタニ&ユージン・サン・パク
フィルム・プロデューサー:ジェイソン・マツモト、有紀・坂本・ソロモン、レイナ・ヒガシタニ
プロジェクト・マネージメント&開発:アシュリー・チエミ・マクニール
フィルム・ディレクター:レイナ・ヒガシタニ
エグゼクティブ・プロデューサー:ユージン・サン・パク
ウェブ&インパクト・プロデューサー:キャサリン・ナガサワ
サイト・デザイン&プロダクション:auut studio
デイ・オブ・リメンブランス・スポンサー:
シカゴ日系人評議会、シカゴ日系人歴史協会、シカゴ市民協会、日系人定住者会、シカゴ共済会
協力:シカゴ歴史博物館