「共に次の経済を構築する」をテーマに、第52回日米中西部会開催
世界における日米の方針・競争力と強靭性の強化、企業が取り組む革命・協力・持続可能性、政・官・民が一堂に会し、発表を共有
日米中西部会の第52回合同会議が9月11日から13日までの3日間、シカゴ市にあるJWマリオット・ホテルで開催され、日米両側の企業や団体から317人が出席した。今回のテーマは「共に次の経済を構築する」で、各スピーカーの話やパネルディスカッションを通じて、各政府レベルや企業レベルで具体的に何が行われているのかを分かち合う貴重な機会となった。
中西部会は日本と米中西部を中心に、貿易や相互投資の促進を目指し、1967年にシカゴで第一回合同会議が開催された。現在は中西部12州が参加し、合同会議が毎年東京と参加州のいずれかの都市で交互に開催されている。シカゴでの開催は2003年以来、19年ぶりの開催となった。
長年中西部会の日本側議長を務めたキッコーマン(株)の茂木友三郎氏(取締役名誉会長 取締役会議長)に代わり、井口武雄氏(三井住友海上火災保険名誉顧問)が日本側の議長を務めた。米国側はゴードン・ドービー氏が議長を務めた。
同合同会議にはラーム・エマニュエル駐日米大使、冨田浩司駐米日本大使、田島浩志在シカゴ総領事、進藤雄介在デトロイト総領事、J.B. プリツカー・イリノイ州知事、エリック・ホルコム・インディアナ州知事、ピート・リケッツ・ネブラスカ州知事、グレッチェン・ウィットナー・ミシガン州知事、山本一太群馬県知事、三日月大造滋賀県知事らが出席した。
また、井口氏は「この様な環境変化の対応に向け、両国政府、各県、各州が改革を断行している。各民間企業も大きな変革を進めている」と述べ、例として日本企業が開発した微生物によって分解されるプラスティックに言及した。これは既にストロー、紙コーヒーカップの蓋、ホテル用の歯ブラシなどに使用されているという。
最後に井口氏は「この合同会議で、中西部会の素晴らしい伝統に新しい風を吹き込むような議論、ネットワーキングによる日本と米国中西部の政・官・産業など、あらゆる層で真の友情が生まれることを期待している」と語った。
これまでの投資決定はコストと効率性重視で行われて来た。だがコロナ禍、中国による威嚇、ロシアによる食料とエネルギー供給の不安定化などで投資環境は一変し、現在の投資判断基準は安定性と持続可能性となっている。エマニュエル氏は「アメリカにはこの安定性と持続性が豊富にある」と誇示した。
第二点は、向こう20年から30年の国際ビジネスのカギとなるエネルギー安全保障。米国には天然ガス、再生エネルギー、原子力、水素燃料など潤沢なエネルギー資源があり、投資チャンスがある国だとエマニュエル氏は力説する。
また、従来のマーケット参入の重点は販売量だったが、近年はデータ収集となっている。日米はデータ協定を結んでおり、不確実性の時代にあって、安定性の礎になる。「このようなチャンスを両国は使って行くべきだ」と述べた。
過去3年間で、米国における第一の外国投資国は日本。同時に、日本における第一の外国投資国は米国。
「投資に重要な安定性、持続可能性、エネルギー安全保障、データの確実性。この中で日米が互いにオファーできることはたくさんある。だからこそ互いの投資が増えている。日米は関係を持つだけでなく、価値観、原理原則を共有するという信頼関係がある」と述べ、向こう30年は日米同盟を更に深化させ、世界の手本となる事にワクワクしていると語った。
世界は2年に亘るパンデミックによる経済や社会の混乱、民主主義国家と権威主義国家間での戦略的競争、台湾海峡問題などで、国際関係はより複雑になった。このような状況下で、日米両政府は経済パートナーシップにおける優先事項に焦点を当て、再調整を行おうとしているという。
パートナーシップ優先事項の一つは、競争力と強靭性を強化し、強い立場で戦略的競争に臨むことを意図する。
バイデン大統領と菅義偉首相(当時)は昨年4月にコア・イニシアティブの立ち上げを発表した。コアとはcompetitivenessとresilienceの最初の2文字を組み合わせたもので、競争力と強靭性を意味する。
このイニシアティブの下、両政府は先端デジタル技術の開発における協力の推進、バイオテクノロジー、5G、ポスト5G、バイオテクノロジー、AI、量子情報科学などの先端科学分野におけるパートナーシップの強化、半導体などの機微なサプライチェーンにおける協力について約束した。
また、気候エネルギー協力、水素や先進原子力技術などにも大きな関心を寄せている。
もう一つのパートナーシップの優先事項は、貿易政策。
近年の不公平な貿易慣行、国内産業への悪影響懸念、米国のTPP離脱などで、貿易へのマイナス・イメージが出ているのは否めない。
世界的な戦略的競争に対する懸念が高まる中、日米は特にインド太平洋地域において自由と法に基づく貿易促進にリーダーシップをとり続ける必要性を再確認した。
例えば、デジタル取引や金融サービスと情報技術を結び付けたFinTechのような新しい形態の出現を目の当たりにし、誰がこれらの形態の取引ルール設定を率先するかにより、経済の未来に大きな影響を与えるだろうという。
冨田大使は、経済成長するインド太平洋地域において価値観と原則を共有する国際共同体を構築することがコア・イニシアティブの目的であり、貿易と投資による地域教育が主要な手段となる事が認識されているからだと語った。
コア・イニシアティブは日本と米国中西部の経済パートナーシップにどの様な影響を与えるのか。冨田大使は「良好な影響」だと見る。
中西部には労働倫理、質の高い労働力、交通網、教育、治安、友好的な人々、自然環境、仲介する人の力、長年培われた信頼があり、貿易投資先として非常に魅力がある。また、既に先端科学分野の施設もある。
冨田大使はまた、「インド太平洋地域の自由で法に基づく貿易促進の取り組みの最前線に、日米両政府がしっかりと立つことにより、莫大な経済的、戦略的利益が得られると信じている。その努力が実を結べば中西部が主たる受益者になるだろう」と語った。
イリノイ州には5つの空港、14の港を持ち、米国第3位のハイウェイシステムを持つ。また、7本の第一級鉄道も持っている。
また、原子力、風力、太陽光、天然による発電により電力を安定供給する他、電力の輸出も行っている。脱炭素により気候変動を阻止し、新しい発電手段により雇用を創出する州法が発効し、クリーン・エネルギー時代への移行を加速させている。
投資進出する企業には優遇策を設けており、積極的にEVメーカーを招致している。現在州内のジョリエット、ディケイター、リリアンなどでEV車、電気バスやトラックなどのメーカーが工場を建設している。
工場進出に欠かせない要素として、教育レベルの高い有能な労働力を有している。小学校から高等学校までの教育システムは、米誌ニューズ&ワールド・レポートで全米随一と評価されている。
テック開発やイノベーションにも力を注いでおり、スタートアップを支援する1871という支援組織や世界で一番と評価されている、新規ビジネスのインキュベーターも用意されている。
また、シカゴはワールドクラスの都市であり、企業本社の立地場所として成長を続けている。
枚挙にいとまがないイリノイ州の投資進出環境により、2021年までに400社を超える企業が拡張またはイリノイ州内にビジネス拠点を移している。
プリツカー氏は、日本企業をパートナーや友人としてだけでなく、我々の隣人としてイリノイ州に迎えたいと語った。
歴代の在シカゴ総領事は2017年よりジェトロ・シカゴと共に「グラスルーツキャラバン」を組み、日本企業が投資している地域を訪問し、互恵的な直接投資や相互貿易の促進を図っている。
田島氏も既に管轄地の10州を訪問し、各地域の政・官・民のあらゆるレベルで協力関係強化を図っている。
このキャラバンを通じて、ICT(情報通信技術)の活用や都市と農村部の格差など、日米に共通する課題に気付かされたという田島氏は「日米の企業が上手くコラボレーションすることでこれらの問題に対処できるだけでなく、日米関係をより強固なものにできると信じる」と語った。
インディアナにはトヨタ、スバル、ホンダ、アイシン、NSKなど、多くの日本企業が進出しており、7万人を雇用している。「成長を経験し機会が生まれてきたという結果を、日本とインディアナの人達が受益をしている」とホルコム氏は語る。
山本一太群馬県知事をインディアナに迎え、経済的、学術的、文化的な関係強化を再確認したという。
ホルコム氏は「経済活動は時に厳しく、世界的な視野を持つ事を求められる時期になって来た。日本のようなパートナーを持ち、将来の経済、エネルギー、コミュニケーション、モビリティなどがどう変わって行くのか、共に考えることができる。だが期待するだけでなく責任を持って(具現化を)果たさなければならない」と述べ、教育を重視し、労働力を開発し、また、インディ500で優勝した佐藤琢磨選手とピットクルーの戦略からもインスピレーションを得て、「将来に向けて準備して行かなければならない」と語った。
三日月県知事が紹介する滋賀県の4つの強みとは:
滋賀県には古くから大陸文化や技術取り入れるという進取の気風があり、織田信長に代表されるような海外との関わりを大切にする精神がある。
このように滋賀県には人や社会、環境に対してオープンでフレンドリーな精神が根付いており、P&Gをはじめ、多くの米国企業の主要工場がある。また日本大手グローバル企業の研究開発拠点もある。
更に、環境や持続可能性を大切にする経済活動を実施しており、水素を活用し、総ての電力を再生可能エネルギーで賄う世界初の実証実験が、パナソニックによって滋賀県で進められている。
滋賀県では300年前の江戸時代から近江商人が、売り手、買い手、社会の事を考える「三方良し」というビジネスモデルを実践して来た。現在世界ではステイクホールダー資本主義として同様のビジネスを目指している。三日月県知事は「三方良しを世界に向けて発信し、多くの皆さんに知ってもらう事が世界の平和と持続的発展に繋がると信じている」と語った。
群馬県の強みは、東京から1時間弱という地の利。自然に囲まれ地震や台風の被害が少なく、企業立地も盛んに行われている。また、日本で最高の温泉地と言われているのは群馬の誇りだという。
プロシンガーとしてCDも出している山本県知事は、群馬の魅力をビデオで紹介し、自らのギターの弾き語りで「Stand by me, stand by you」と日米関係強化を呼びかけた。
山本県知事は、「背広姿でメガネをかけ、名刺ばかりを配りまくる」というかつての日本人ビジネスマンのイメージを破り、スタンディングオベーションを浴びた。
パネルディスカッション:
イノベーション、コラボレーション、サステイナビリティ
中西部会合同会議では3つのパネルディスカッションが行われた。概要は次の通り。
イノベーションによる構築をテーマに、社会的課題への迅速対応とイノベーションの加速、人種・文化・経験など異なる多様な人材からアイディアを得る企業方針Diversity and Inclusion、他社との協力によるイノベーションへの取り組み、人材育成によるイノベーション、アイディアをイノベーションに繋げる企業の環境づくりや支援、アイディアをイノベーションに具現化する過程における過去の経験によるバリア、新しいアイディアを育てる企業文化、コンペティションによるオープン・イノベーションづくり、悪いアイディアによるイノベーションのリスク、失敗に学びイノベーションに繋げるチャレンジなどについて議論された。
パネラー:ジェイムズ・カーリン氏(JPモーガン・チェイス)、鈴木純氏(帝人)、ケン・カビラ氏(成田製作所)、小川哲男氏(北米トヨタ自動車)
モデレーター:デイヴィッド・ベイカー氏(America’s Urban Campus)
コラボレーションによる構築をテーマに議論が行われ、脱炭素、包摂的で自由な移動、日本の食文化を広げるなど、大きな目的を共有できる時に競争を越えてコラボできることが共有された。
また、競合相手とイノベーションが起きるように交流して意図的にコラボレーションを作ることもあり、反対に異なる分野の人がアイディアを出し合った時にコラボレーションが自然発生しイノベーションが起きる事もあるとの意見もあった。
企業の投資進出や現地運営は、地元政府、ビジネス、地域住民などあらゆるレベルの人々とコミュニケーションをとることによって協力が強化され、事業の成長やリスク緩和など、互いにメリットがある。また米政府が打ち出したチップ法で投資増加に繋がるなど、国家の支援策により日米の協力が強化されるところもあるとの意見もあり、パネリストが実例を挙げて議論が進められた。
パネラー:平子裕志氏(ANAホールディングス)、ダリン・ビューロー氏(デロイト・コンサルティング)、辻亮平氏(キッコーマン・フーズ)、ロバート・W・カー Jr.(不二製油)
モデレーター:佐々木伸彦氏(ジェトロ)
サステイナビリティによる構築をテーマに、リサイクル事業と従来の供給事業とのバランス、専門家の早期導入によるサステイナビリティの事業への統合、古きを捨てる意思決定がカギとなる持続可能なスタートアップ、従業員や若者への教育による持続可能な社会づくりの模索、サステイナビリティを追求する企業への投資により持続可能な環境づくりへの参加を望む投資家、社会の変化を機敏に感じることによる持続可能性への対応、実数データによるサステイナビリティへの動機付け、人の移動低下による環境への負荷削減、対面会議とヴァーチャル会議の価値を見極めた使い分け、既にサステイナビリティが事業に含まれている事が当然となった社会などの事例がパネリストにより共有された。
パネラー:タイラ・マイヤー氏(ラーマ―・ジョンソン・コラボレーティブ)、黒石邦典氏(丸紅)、間下直晃氏(経済同友会)、メリサ・ワシントン氏(ComEd)
モデレーター:キャサリン・ハーレイ(アルゴン・ナショナル・ラボラトリー)
閉会に当たって
デトロイト総領事館管轄地のミシガン州とオハイオ州においては、日本が依然として主要な外国投資国家であり、920以上の日本企業施設があり、105,000人の直接雇用を提供している。
進藤総領事は、自動車と半導体という2つの関連する企業のコラボレーションが、日本と中西部の更なる関係構築に資する大きな可能性を秘めていると語る。
電動化、自動化には莫大な資金とノウハウを必要とし、ライバル関係にあった企業がその貴重な資源を最大活用するために提携することが考えられるという。
例えば、ジェネラル・モーターズとホンダが北米市場向けに、手頃な価格のEV車を共同開発している。また、日本企業数社は、自律総合車技術の新興企業であるメイ・モビリティと共同研究を行っている。
EV車は従来の自動車に比べ2倍以上の半導体を必要とするため、半導体の安定供給が必須となる。米国で半導体生産企業に総額2,800億ドルを支援するチップス法(the CHIPS and Science Act)が今年7月に成立し、ローカルのサプライチェーンに火が付くことに大きな期待が寄せられている。
インテルはオハイオ州ニュー・あるバニーに世界最大級の半導体製造キャンパスを建設する計画を発表した。「これは中西部の技術革新と研究の震源地となるものであり、この地に投資することの賢明さを更に象徴するも」だと説明する。
また、「半導体は自動車だけでなく、エレクトロニクス、ヘルスケア、バイオテクノロジー、防衛などの分野でも不可欠であり、日米の協力関係を拡大する絶好の機会」だと語った。
井口武雄議長
井口議長は閉会に際し、イノベーション、コラボレーション、サステイナビリティについての3つのパネルディスカッションは、現在の課題に向かい合い、将来を作る礎となり、日本と中西部に共通の行動と改革が生まれた。それを踏まえて日米交流を一層促進し、「その結果を日米関係者、そして世界に積極的に発信して行きたい」と語った。