シカゴマラソンで次々に新記録、日本人選手も快走
爽やかな秋晴れに恵まれた10月9日、第44回バンク・オブ・アメリカ・シカゴ・マラソンが開催された。主催者の発表によると、100ヵ国を超える国々から4万人が参加した。1977年の開始から90万人がフィニッシュラインを踏んでいるという。
写真左より、細谷恭平選手、中西亮貴選手(奥)、古賀淳紫選手(手前)、藤曲寛人選手、渡辺勝選手 (Photo Credit: All except Watanabe are courtesy of the Bank of America Chicago Marathon/Kevin Morris
日本からはエリート選手として細谷恭平選手(黒崎播磨)6位(2:08:05)、中西亮貴選手(トーエネック)14位(2:09:59)、藤曲寛人選手(トヨタ九州)20位(2:13:04)、古賀淳紫選手(安川電機)23位(2:13:42)が出場した。4人の選手はパリ五輪代表選考会「グランド・チャンピオンシップ」の出場権を持っている選手ばかり。また、車いすレースの渡辺勝選手(凸版印刷)が4位(1:34:55)に入賞した。
風はあったものの好天が幸いし、様々な記録が生まれた。
男子マラソンは10人のトップ集団がハーフ地点を記録的な1時間2分24秒で通過し、最後はコムペイトゥリアト・ベンソン・キプルト選手(ケニア)が加速し、自己新記録2時間4分24秒でゴールした。このタイムはシカゴマラソン史上4番目となった。
写真右、コナー・マンツ選手 (Photo credit: the Bank of
America Chicago Marathon/Kevin Morris)
レース後、メディア・センターに現れたマンツ選手は、6位でゴールした細谷選手を探していた。2人は同じ集団で走っていたと見られ、マンツ選手は細谷選手がとても親切な人だったので、ちょっと挨拶をしたいと思って探していたと話した。二人は翌朝にホテルで会い、一緒に記念写真を撮ったという。心温まるエピソードだった。
女子マラソンのルース・チャプンジェティック選手(ケニア)は最初の1マイルを4分47秒で駆け抜け、その後も40キロまで世界記録のペースを維持し、最後の2.195キロで疲れを見せたものの、2時間14分18秒でゴールし、世界で2番目に速い女子マラソンランナーという地位を守った。
エミリー・シズン選手(USA)は安定した走りとラスト4マイルでの加速で2時間18分29秒でゴールし、アメリカ女子マラソンの新記録を出した。
男子車椅子レースでは、パラリンピックで2度金メダルを獲得し、2016年と2017年にシカゴマラソンで優勝したマルセル・ハグ選手がソロで先頭に立ち、1時間25分20秒でゴールし、新記録を打ち立てた。
女子車椅子レースでは、スザンナ・スカロニ選手(USA)が2位に約4分の差をつけ、1時間45分48秒でゴールした。
エリート選手インタビュー
細谷選手は2021年の福岡国際マラソンにも出場し、2位、2時間8分16秒という結果を出した。そして、シカゴマラソンでは6位、2時間8分5秒という好成績を出した。
Q:ハーフ地点を1時間3分46秒で通過されました。レース運びは?
細谷:スタート前に設定されたハーフ通過タイムが63分と62分のペースがあって、僕は目標や体調などを加味して、63分の方を選択して、そのままレースを進めて行った形です。
30キロで集団から出て単独で走ろうと仕掛けましたが、何人かついて来る形になりました。33キロ辺りだと思いますが、そこからはずっと一人で、少し後ろに2人の選手がいる状態で、ゴール地点まで落ちて来た方々(疲労で減速した人達)を抜きながら走りました。
監督から後半にしっかりと体を動かして、力を出し切るようにと指示を頂いていたので、その通りに走れたかと思います。今回5番までが入賞ラインでしたし、タイムも8分を切れなかったので悔しさもありますが、やはり得るものも大きかったと思います。
Q:世界6大マラソン大会(AbbottWMM)出場をシカゴで始めたのは?
細谷:今年の初めは少し足の状態が良くなかったので、東京マラソンは見送ってアジア大会に絞ろうとしていました。しかしアジア大会が延期になったので、シカゴマラソンに出場させてもらおうという話になりました。
足の不具合は完治して夏場に走り込んだので、かなり仕上がった状態でスタートラインに立てたという自信はありましたが、初めてのワールドメジャーのレースで、日本とは全然違うなぁという実感はかなりありました。
Q:シカゴはいかがですか?
細谷:道路は結構荒れていますね。アップダウンもあって、風もありますね。そのような状況は事前に聞いていましたので、注意しながら走っていました。選手にとって条件はみんな一緒なので。
非常に人気のあるワールドメジャーのシカゴマラソンですので、走っていて、沿道に応援して下さる方が一杯いるっていうのは有り難く、頑張ろうと思います。お祭りみたいな感じでしたね。
Q:初めての海外マラソンで、調整にご苦労は?
細谷:最初は時差から気にし始めて、なるべくすぐに慣れるように睡眠など時間を管理しながら調整していました。
食事は現地のものでいかに順応できるかを見る機会だと思って、そうするようにしていました。日本食も少しは持って来てますけど。
スタート400mの所では人をかき分けながら前へ出て行くなど、そうい事も含めて、日本では全然経験できない、当たり前のことが当たり前じゃない、そういう中でいろいろな経験ができたのは大きいです。
Q:今後の計画は?
細谷:東京マラソンにまだ一度も出た事がないので、とりあえずは東京を視野に入れています。
海外の経験は大事だと思っていたので、海外のレースはこれからも経験して行きたいです。
Q:思い通りの走りができましたか?
中西:目標としていた部分には届かなかったので、そこはちょっと悔しいんですけど、この海外マラソンはいい経験になったので、次は国内レース、また海外レースに挑戦できるような機会があれば、それを目指して頑張りたいと思います。
Q:コースはどうでした?
中西:平坦なコースなので走り易かったですね。
Q:コースの雰囲気的はどうでした?
中西:凄い応援で町全体がマラソンを盛り上げてくれているという感じがあるので、選手側としてもとても気持ちが乗っている部分があります。凄くきついですけど楽しい部分も一部あったので、良いマラソンだなと思いました。やはり初めての海外遠征で、初めての事ばかりだったので、そこもいい経験になりました。
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藤曲寛人選手
藤曲寛人選手(25)は2022年別府大分毎日マラソンを3位、2時間8分20秒でゴール、海外遠征初のシカゴマラソンでは20位、2時間13分04秒でゴールした。
Q:思い通りの走りはできましたか?
藤曲:いやもう全く。初めから思うように体調が合わなくて、後半はもうマラソンにはなってなかったかなと思いますね。
Q:コースはどうでした?
藤曲:基本的に平坦だったので、今まで走ったコースの中だったら、一番走りやすいんじゃないかと思います。
Q:最後の上り坂は?
藤曲:もうその時には全く走れていなかったので、その坂がどうこうではないんですけど、確かにあの坂はちょっときつかった部分はありますね。
Q:体調を整えるの大変でしたか?
藤曲:やはり時差をけっこう感じて、睡眠の問題などあったんですけど、これも経験なので、次につなげて行けばと思います。
Q:次の計画は?
藤曲:次は日本国内の駅伝など日本のマラソンになるので、ここでできなかったリベンジもしたいと思っています。
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古賀淳紫選手
古賀淳紫(きよし)選手(26)は2022年別府大分毎日マラソンに初出場し4位、2時間8分30秒でゴールした。一時トップに立つなど積極的な走りを見せた。海外遠征初のシカゴマラソンでは23位、2時間13分42秒でゴールした。
Q:コースはどうでした?
古賀:コースは、あまり覚えてないですね。ちゃんと下見をして覚えて走りたい方なので、正直言ってどこを走っているか分からない位の感覚で走ってました。
Q:マラソンランナーを目指した切っ掛けは?
古賀:マラソンをよくテレビを見ていて、カッコいいなと思ったのが切っ掛けでした。
Q:次の計画は?
古賀:予定通りに行けば東京マラソンです。
Q:今日のレースはどうでした?
渡辺:今日の第一目標は先頭集団に喰らいつく事だったんですが、もうスタートからハグ選手に飛び出されてしまって。最初の5キロで総てを使い切ったという位に追いかけ続けたんですが追いつかず、もうその後は(体が)使い物にならなかったですね。
Q:マルセル・ハグ選手が1時間25分20秒でゴールされました。
渡辺:おー、大会新記録ですか。
Q:渡辺さんも健闘されましたよね?
渡辺:やれることはやれたと思ってますし、ベルリン、ロンドン、シカゴの3連戦で、ここが一番いい走りができたんじゃないかと思ってます。
第二集団と一緒になってからは、その中では僕が一番スプリント力があると思うので、4位は狙えると思っていました。もう少し責めたかったという思いもありますが、その集団ではトップを取れたので、ちょっと悔しいですけど、まぁO.K.としておきます。
Q:車いすの場合、ゴール手前の上り坂はどうですか?
渡辺:そこが一番、ここの見どころなんですよ。結局みんなそこに上り坂があることを怖がっているからその手前はだいぶ(力を)落として、登りの手前で一気に勝負が始まるという感じです。やはり42キロ以上走って来て最後の登りですから、非常に長く感じますし、きついですね。
Q:総て腕力ですか?
渡辺:腹筋、背筋、動くところは全部使います。腕だけではとても登れないんで。
Q:コースは走りやすいですか?
渡辺:路面が悪いですね。去年の裂け目が直っていなかったり、マンホールが飛び出していたり、凄く気を遣うコースですね。アメリカはニューヨークでもボストンでもそうですけど。でも個人的には嫌いではないです。荒い路面でも比較的に漕げる方だと思うので。
だけど、シカゴはスタートからゴールまでの距離感や、コースとホテルの位置関係が好きですね。歩いても行けますから、レース前後の移動が楽です。他では1時間以上バスに乗って移動する所もありますし、最後の選手が乗るまで待つ必要があったりしますから。
Q:日頃はどの様な練習を?
渡辺:2014年から凸版印刷のスポーツ専従社員なので、24時間練習のために使えます。朝走って、午後に筋トレして、その後また走ると言う日が一番きついです。午前中だけ走る日もありますし、身体の調子を見ながら組み合わせてます。
Q:事故ですか?
渡辺:交通事故ですね。何か摑まるものがあれば歩けるので、家の中では頑張って歩いて生活しています。
Q:車いすレースを始めたのは?
渡辺:もともと野球をやっていて、身体を動かすのが大好きでした。入院中の病院に、たまたま薬をもらいに来た洞ノ上浩太選手に出会い、19歳の時に車いすレースを始めました。外を走った時の爽快感やスピード感は、健常者の時にも体験した事がないものでした。障害を負ってそれを体感できたことに凄く感動して、以来完全にのめり込んでいます。
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選手の皆様、どうもありがとうございました。